《126》痴呆も進む犬たちの晩年


《126》痴呆も進む犬たちの晩年

バイバイ! 白黒犬のパンダ

パンダ(左)と同居犬であるお母さん(筆者撮影)

 パンダは以前このコーナーでも紹介した筆者が住む島の有名犬だった。色が白黒なのでパンダと名付けられ、友人夫婦が生後数カ月から今まで約18年間かわいがって育ててきた。

 大抵の犬たちは晩年の後半になると下半身が細り、痴呆も現れ家の中を徘徊し、夜中に鳴く。オスのパンダも同じだった。2年くらい前はまだ元気で自宅と徒歩20分くらいの商店街を「おひとりまさま」で行き来していた。朝は飼い主が経営するお土産屋に一緒に出勤し、飼い主のアグネスさんがお店を見ている間、パンダは気ままに近所の商店などに顔を出し、おやつをもらっていた。いつものコースが終わると店に戻って昼寝をするという悠々自適な生活。よくアグネスさんから私に電話がかかり、パンダがまだ家に戻らないから連れて帰ってきて、と言われ、彼がいそうな店に行くと、やはりおやつをもらうまでねばっていたパンダ。当時、パンダの家と私の家はすぐ近くだったから、一緒によく帰ったものだった。

 さて、足腰が弱り、老人痴呆も始まりここ2年ほどはほとんど家から出なくなった。最後にパンダと一緒に街でお昼を食べた時は、すでにヨレヨレで、タオルを体で支えられてもへたり込んでしまっていた。年には勝てないのだなと思った。白内障も進み、目は真っ白、耳は遠い。でも必死で生きていた。ご飯はおかゆなどを食べさせてもらい、夜中は徘徊を続け、疲れると数時間眠り、また徘徊。飼い主ご夫婦も疲れていた。

 動物の飼い主さんとするいつもの会話——。苦しいのか、よく分からない。このまま生かしていくことが動物にとって幸せなのかどうか。この答えは誰にも分からないと思う。数週間前、アグネスさんの不在時にパンダがご飯を食べなくなったとヘルパーさんから伝えられ、彼の様子を見に行くように頼まれた。口をぎゅっと締めてご飯を食べようとしない。きっともう食べられないのだと思った。でも水は注射器を使って飲ませるとゴクゴク飲んだ。脱水症が進んでいたのだ。私はパンダをなでて、顔中にキスをしてありがとう、と伝えた。

 その時気付いたのは、同居しているお母さんという名前の下半身付随の犬が、パンダの足もとに座り見守るようかのように見えたこと。ここ数日は夜中に体を引きずってパンダに寄り添うように寝ているという。アグネスさんに話をしたら、「違うわよ。お母さんはパンダの場所を乗っ取りたいだけなの。最近までそこに寝ていたから」と笑っていた。事実は分からないものの、動物は不思議だなと思った。パンダはその数日後に息を引き取った。

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