#115 米、500億ドル相当の中国輸入商品に対する追加関税案を発表


#115
米、500億ドル相当の中国輸入商品に対する
追加関税案を発表

 「華南ビジネス最前線」では、お客様からのご質問・ご相談が多い事項について、理論と実務の両方を踏まえながら、できるだけ分かりやすく解説します。(三菱UFJ銀行 香港支店 業務開発室 アドバイザリーチーム)


今月の質問

 米国が中国からの輸入商品に対する追加関税案を発表したようですが、その内容と影響について教えてください。


2018年4月3日、米国通商代表部は、中国の知的財産権侵害による不当利益是正の目的で、1300品目を超える中国商品に対する追加関税対象品目リストを発表した。5月22日までパブリックコメントを募集し最終決定される予定だが、決定後は、対象品目に対し25%の追加関税が課されることとなる。なお、実施日は本稿執筆時点では未定。本稿では、追加関税案の背景、内容および影響について簡単に紹介する。

図表1:米国対中貿易赤字の推移

⒈背景

米国の2017年の対外貿易赤字総額は約7000億ドルであるが、うち半分を中国が占め、対中貿易赤字は年々増加傾向にある。米国はこうした巨額赤字を削減するため、2018年2月16日に通商法232条に基づき、鉄鋼とアルミ商品の輸入関税を全面的に引き上げていた。今回は中国の知的財産権侵害への対抗手段として、通商法301条を利用し、対象品目の中国からの輸入に対し、輸入関税を引き上げる制裁措置に動いた。

米知的財産権侵害委員会が2017年2月に公表した報告によると、ノウハウ盗用、模倣品(海賊版)販売、およびソフトウェア著作権侵害行為は、米国経済に年間概算で2250億ドル以上の損失をもたらしており、特に米国市場で発見された模倣品のうち80%以上が中国製。米通商代表部は、通商法301条に基づき、2017年8月から中国の知的財産権侵害行為に対する調査を開始し、2018年3月27日に公表された調査報告書では、中国政府の企業に対する技術移転強要による競争制限や、特許権と営業秘密などの侵害による貿易利益の不正獲得をはじめとする多数の問題が指摘された。このような状況を踏まえ、トランプ大統領は、調査報告書の公表に先立ち、3月22日に、500億ドル相当の中国輸入商品に対し、25%の追加関税の実施案に関する大統領令に署名した。それに基づき発表されたのが今回の1333品目に及ぶ対象品目リストである。

図表2:商品別中国対米輸出額トップ5

⒉主要内容

1333品目の追加関税対象品目のうち、約4割を占めるのはHSコード大分類の84類に属する原子炉、ボイラー、および機械類、約2割は同85類の電気機器、音声画像記録、再生機器、約1割は同90類の光学機器、医療機器、精密機器等が占める。中国対米輸出額トップ5の内容と照らすと、今回の制裁措置により中国原産商品の対米輸出に大きなインパクトが出ることが想定される。

制裁対象商品の8桁HSコードを含むフルリストは図表3の通り。

図表3

⒊影響

米Display Supply Chain Consultants LLCの報告では、今回の制裁措置が正式に導入された場合、メーカー、サプライヤーを含め、中国からの生産拠点移転が想定される商品を3つ挙げている。(図表4)

図表4

華南地域には上記商品の部品および製品の生産拠点を置く日系企業が多数存在するが、そのうち、対米輸出型のメーカーが主要取引先である場合、今後、中国生産拠点の縮小や移転、新規取引先開拓といった課題を抱えることが予想される。香港は中米貿易の重要な仲介貿易拠点であるが、香港中華商工会(中国で生産拠点がある香港商工業者の連合会)の呉宏斌会長は、米国の対中増税案が実施されれば、香港の電子類商品の再輸出に影響が出るとの懸念を表明している。また、2017年9月末時点での香港銀行業の中国向け貿易融資残高は3000億香港ドルと貸付総残高の1割にも満たないものの、香港金融管理局は、こうした一連の事態を受け、中国向け貿易融資に対する与信審査強化を呼びかけている。

⒋まとめ

今回の制裁商品リストに発表に対し、中国は4月4日、500億ドル相当の対米制裁商品リストを発表し反発を示した。ただし、自らが主導する貿易戦争を起こさない姿勢を表し、対抗措置の実行日は別途決定するとし、米国側の出方を伺っている。

一方で、両国は貿易戦争が自国および世界経済に与える損害を認識していることから、回避策を探りながら水面下での交渉を進めている模様。トランプ大統領は4月8日のツイッターで、「中国の貿易障壁撤廃、および知的財産権侵害行為の取り締まり強化を信じている」と宣言。中国の習近平国家主席も、4月10日のボアオアジアフォーラムで演説を行い、知的財産権の保護強化と市場開放の拡大を強調しており、両国とも事態収束に向けた姿勢を示しているともいえる。

今後の政策の方向性はまだ不明確であることから、引き続き動向に注目していきたい。

(執筆担当:多田 依真)
(このシリーズは月1回掲載します)

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