香港経済、 米国の世界戦略見直しに直面

香港経済、米国の世界戦略見直しに直面

 2017年末から18年初頭にかけて、米国は世界戦略の見直しを宣言し、中国をその主要競争相手と位置付けた。香港は中国の一部として、中国とともに、米国の世界戦略、特に、対外経済貿易政策の見直しという試練に直面している。香港の政府や財界は、米国の世界戦略の見直しに備える必要がある。(荘周)


18年に入り、米国が中国に貿易戦争を仕掛ける動きが続いている。1月、米商務省は中国からの鉄鋼輸入の調査を終了。米通商代表部(USTR)は、通商法301条に基づく中国の技術移転の義務付けや、知的財産権や商業機密の侵害に関する調査を完了した。また、本文執筆時点では、2件の中国企業による米国投資拡大案件が米国によって拒否されている。1件目がアリババ傘下のアントフィナンシャルによるマネーグラムの買収、2件目が華為によるAT&Tとの提携で、それぞれ米国側によって阻止された。

中央政治局委員の劉鶴氏の訪米の前日である2月26日、中国商務部は、米国からの鶏肉輸入に対して反ダンピング課税を撤廃すると発表。これは、中国の最高指導部による米中関係改善に向けたシグナルと受け止められた。しかし、劉鶴氏の訪米当日の2月27日、米商務省は、中国からのアルミホイル輸入に対し、反ダンピング課税と補助金相殺関税を合計で最大180%課すと発表した。

米中の通商関係悪化につながる米国の一連の措置は、米国の世界戦略見直しの一部といえる。17年12月に発表された国家安全保障戦略、18年1月に発表された国家防衛戦略では、米国が世界戦略を見直し、中国とロシアを米国の主要競争相手と位置づけ、世界における覇権地位を維持するため、米国が中国の台頭を抑えるべく力や資源を注ぐとしている。

香港は試練に直面

米国の世界戦略の見直しで、香港は過去にない試練に直面しているといえる。

2月16日、米商務省は鉄鋼やアルミの輸入調査報告を発表。鉄鋼およびアルミニウムの輸入量について、米国の経済、さらには国家安全を脅かすとし、中国、香港、ロシア、ベネズエラ、ベトナムからのアルミニウム輸入に対し、23・6%の関税を課すとした。

米国が香港の米国向けアルミニウムも懲罰の対象にしたのは事実である。米国と香港の貿易黒字は年間270憶米ドルを超過。一方、米国の香港からのアルミニウム輸入は年平均5500万米ドル程度の赤字だが、17年1〜10月の米国の香港からのアルミニウム輸入は約3000万米ドルと、米国のアルミニウム輸入額の0・2%にも満たない。にもかかわらず、どうして米国の経済、さらには国家安全に危害を与えるのだろうか。

香港は世界でも数少ない「フリーポート」で貿易障壁を設けていなため、これまで他の国の貿易戦争に巻き込まれることはなかった。しかし、今回は免れることができなかった。というのも、香港は既に中国に返還され、中国の一部分として、米国による中国の貿易保護主義の影響を受けているのである。

香港は切実な対応が必要

香港の政府や財界は、米国政府に対し、貿易保護主義の措置に強い不満を表明した。しかし、香港の輸出や対外投資は米国の世界戦略の見直しに起因する保護主義の影響を受けるのは必至である。だからこそ、香港は対応が必要である。

一つ目の対応は、世界の経済、金融、政治が全面的に見直されている局面にあることを認識することである。

香港は国際都市で、国際金融センター、貿易センター、交通ハブとして重要な位置づけにあり、人口の約一割は華人以外で、華人の中でも中国籍でない人が少なくない。こうした国際色の豊かさは、世界的な経済や政治の局面が見直されていると認識しやすい環境にあるはずである。しかし、これまで香港はこうした認識に欠けていた。17年末から18年初頭にかけ、米国が世界戦略を見直し、中国とロシアを主要な競争相手と位置づける中、香港のメディアは、香港が如何に世界戦略の見直しに対応すべきか分析している。

二つ目の対応は、香港と中国本土が同一の運命共同体である概念を確立すべきことである。

香港は、英国統治が1世紀半以上にわたって続いていたのに対し、中国に返還されてからまだ20年あまりである。長期にわたる祖国との分断により、香港の一部の人は、自分が「香港人」で、「中国人」と認めたくない心理がある。加えて、香港は経済開放度が高く、香港居住者の多く、特に、経済界は、香港は米国をはじめとする西側諸国と中国との紛争から距離を置けるとの認識を持っていた。

2003年7月1日の反政府派による大規模デモの後、反政府派の知識分子は、香港は、中国と西側諸国の経済の仲介役であるという役割を根拠に、「香港運命共同体」の概念を提唱。しかし、米国が、中国を主要競争相手と明確に表明したことで、香港は米中関係と距離を置くのは難しくなり、「香港運命共同体」の概念は事実上打ちひしがれた。

三つ目の対応は、政府と財界が貿易保護主義への対応策をとるべきことである。

世界貿易機関(WTO)メンバーとして、米国に対し、香港からのアルミニウム輸入に関する懲罰関税に抗議するなど、香港は自主的に行動をとるべきである。同時に、香港の政府や財界は、米国が香港と中国本土を一括りにして貿易保護主義をとり、香港の輸出を阻害しているという認識を明確に持つべきである。このため、中央の関連部門と協力し、共同で適切に行動をとり、米国の貿易保護主義に対抗する必要がある。

2月14日、習近平・国家主席は春節祝賀会で、国際情勢が目まぐるしく変わっている点に言及。米国の世界戦略の見直しは18年の国際情勢がより複雑化し、世界の経済、政治局面が多様化する可能性があることを示唆している。香港の政府や財界は、国に依存しつつ、経済や政治が多様化する局面に備えるべきである。
(月刊『鏡報』2018年4月号より。このシリーズは2カ月に1回掲載)

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