《122》脳の手術を乗り越えて

ロンは「恐怖の食大魔神」

開頭手術後のロン(筆者撮影)

推定年齢12才のロンの考えていることはただ1つ「食べること」。元野良犬だったため仕方がないとしても、散歩から帰れば夜ご飯タイムで、ヒーヒー悲鳴を上げて騒ぎ、飯を出せという。手に何も持っていなくても食べ物を隠しているだろうと手をかじられる。常に食べ物の匂いで彼の行動が決まり、食べ物目がけると猪のように飼い主や仲間犬たちすらも目に入らない。恐怖の食大魔神犬である。

このロンちゃん、実は昨年末に脳の表面に悪性腫瘍が見つかり手術を受けた。腫瘍はまだ小さかったが、このままでは前からあった癲癇頻度も増し、半年から一年で命の火が消えるだろうとの診断。完治の可能性は低いけれど 脳圧を下げることで頭痛も取れるなら手術台の上で死んでも仕方がないと自分に言い聞かせ、手術に踏み切った。

さて話はここからが本題。浸透性ガンだったため腫瘍の約7割を取り去り、頭は縫合された。手術後の72時間は危篤に陥ることもあるといい、入院は1週間ほどが予定されていた。私は約3時間の手術中は生きた心地がしなくて亡霊のようにフラフラ動物病院の近辺を歩いていた。手術が無事終ったという報告を受け、目がさめたロンちゃんに会いに集中治療室へ 。目は開かなかったが、私がいることに気がついたようでヒューヒュー鼻で鳴いていた。それが、1日目。

そして2日目の面会。ロンは起きていた。術後の合併症も乗り越え、大きなケージに横たわり鳴いていた。この時点で彼はすでに36時間ほどの絶食状態にあった。食事制限のためエサは少々。3日目から完全食に戻り、ゆでたてのササミを目指して点滴を付けながらケージから飛び出た。そして4日目の朝、病院からの電話で容体が急変したかと私の心臓が止まりそうになった。しかし、その内容はというと…「あの、ロンちゃんがほえまくって文句を言っているんです。1日中。電話口で聞こえませんか?」「体は大丈夫ですか?」「はい、順調です。病院ではストレスが多いようで、家に帰って静養させたほうがよいかと(苦笑い)」(ロンの騒ぐ声が聞こえる)というぐあい。

家に連れて帰る途中でパンなどを買ってあげると、ロンはうれしそうだった。そして現在はヨレっとしながらも食べ物めがけて突進するほど元気だ。飯を出せとわめき、どこに行くのかと騒ぎ、尿垂れ流しで走り回り、幸せそう。何も考えていなそうなロンだけど、幸せのルーツはおバカになることだな、と思った。

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