スマートフォン将来モデルの技術進歩と電子部品メーカーへの影響


スマートフォン将来モデルの技術進歩と
電子部品メーカーへの影響

  SMBC経済トピックスでは、アジア地域において注目されている産業や経済の動向を紹介します。今回のトピックスは「スマートフォン将来モデルの技術進歩と電子部品メーカーへの影響」です。

 高機能スマートフォンでは今後、ディスプレイパネルや半導体、通信機能等について、これまで打ち出された方向性が強化される形で搭載部品の技術進歩が続く見通しです。また、一部スマートフォンメーカー大手は、スマートフォンで培った技術を基にモビリティ分野への進出を加速する狙いもあるとみられます。スマートフォン技術の進歩により、電子部品メーカーの売上規模拡大に繋がると見込まれる他、一部部品では材料・技術の変更により競争環境が変化する可能性もある等、今後の動向が注目されます。(三井住友銀行 企業調査部<香港駐在> 神谷 直良)


スマートフォンは、成長率が鈍化し成熟期にあるとはいえ、電子部品メーカーにとっては同製品向けの売上規模は大きく、引き続き重要な搭載機器となっています。この中で高機能スマートフォンでは、これまでに打ち出された方向性が強化される形で搭載部品の技術進歩が続く見通しです。スマートフォンの将来モデルにおける主なアップデートとしては、有機ELパネル搭載の拡大、AR/VR機能の拡大、5G対応等が挙げられます。

有機ELパネル搭載の拡大

端末の薄型・軽量化、低消費電力化等に向けて、有機ELパネルのスマートフォンへの搭載が今後も進むとみられます。現在スマートフォン向け有機ELパネル市場は韓国パネルメーカーがほぼ独占していますが、第2、第3の有機ELサプライヤーが同パネルを本格量産できるようになった場合には、有機EL市場の拡大が加速するとみられます。

加えて、折畳み式(ベンダブル)等、搭載機器のデザインの幅を拡げられるフレキシブル有機ELパネルの採用も期待されます。有機ELパネルメーカーは今後、生産ラインの新設により生産キャパシティを大幅に拡大する計画で、折畳み式等の普及によるスマートフォン向けパネル面積需要の拡大(折畳み式ではスマートフォン一台にパネルが2〜3枚搭載される見込み)を見据えたものと考えられます。

AR/VR機能の拡大

高機能スマートフォンでは3Dセンサーシステムの光送受信機構が顔認証用として筐体前面(ディスプレイ上部)に搭載され、また、端末内の(通信を除く)様々な動作を処理する半導体(Application Processor)に新しく人口知能(機械学習)の機構が加わり、3Dセンシング情報等の処理・判断に用いられています。

今年以降、3Dセンサーシステムが筐体背面にも搭載される可能性があります。また、今後もApplication Processorの更なる回路集積度の向上(微細化)が進んで機械学習機能も強化されることにより、ユーザーの周辺環境をえDセンサーで読み込み付随情報も表示する等のAR/VR機能の高度化が見込まれます。

半導体・プリント基板等の5G対応

スマートフォン内の通信処理を司る半導体(Baseband Processor)において、通信速度の引き上げに向けた機能強化が進む見込みです。加えて、通信半導体のサプライヤーは、次世代通信規格である5G互換の開発品を相次いで発表しています。また、スマートフォンメーカーも通信規制当局から5G通信で用いる高周波無線(ミリ波、30〜300ギガヘルツ)の試験用ライセンスを取得する等、5G対応に向けた開発を進めています。

5Gでは高周波無線が用いられることから、例えばプリント基板の一部に伝送損失が小さく、かつ多層化・高密度化に優れた新たな材料・技術の採用(従来のポリイミド樹脂でなく液晶ポリマー等)が拡大する等、搭載部品の仕様変更が見込まれます。

自動運転システムも見据えて将来モデルを開発

スマートフォンメーカー大手の中には、自動車の自動運転システムの開発を強化する方針を打ち出す先もあります。足元で自動運転車の実証実験を行う許可を得て、実験を進めています。スマートフォンで高度化する半導体の機械学習機能や、5G対応、3Dセンサーの技術等を自動運転システムに応用することで、モビリティ分野への進出を加速させる狙いもあるとみられます。

電子部品サプライヤーへの影響

スマートフォンの高度化による日本勢をはじめ電子部品サプライヤーへの影響をみれば、上記の技術進歩に伴い受動部品をはじめ部品納入量が拡大すると見込まれる一方で、部品によっては新たな材料・技術が必要となり、競争環境が変化する可能性もあります。

スマートフォンメーカーは将来モデルについて複数の開発プロジェクトを進めているため、現時点での見込みから仕様が変動する可能性はありますが、大きな技術トレンドとして、業界プレイヤーへの影響や今後の動向が注目されます。

(このシリーズは2カ月に1回掲載します)

〈筆者紹介〉
神谷 直良(かみや なおよし)
三井住友銀行 企業調査部 香港駐在:2006年より企業調査部(東京)で電機・通信業界等を担当。2014年より香港に赴任し、現在は主に台湾・韓国・中国(華南地域及び香港)の電機業界の調査や情報発信を手掛ける。

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