#111広東省 対外開放のさらなる拡大・外商投資の積極的利用に関する措置を発表

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今月の質問

 最近、広東省においては、「対外開放のさらなる拡大・外商投資の積極的利用に関する措置」が発表されたと聞きました。具体的内容について教えてください。


2017年12月1日、広東政府は「対外開放のさらなる拡大、外商投資の積極的利用に関する若干の政策措置」(粤府[2017]125号)(以下「本措置」)を公布し、外商投資の積極的な誘致、良好なビジネス環境の整備および内資・外資企業の公平な競争促進措置を発表した。今回は、その内容について紹介したい。

⒈背景

 中国は外商直接投資(FDI)の受入大国であり、2016年、海外から中国への投資額は1390億米ドルで世界第3位であった。しかし、中国経済の減速、労働コストの上昇、過剰生産といった問題の顕在化により、近年中国への投資は鈍化傾向にある。実際、FDI実行額は2016年までの3年平均で約4%の伸びに止まった。

 広東省は改革開放以降、多くの外国直接投資により経済成長を遂げてきたが、近年では外商投資規模に変化が起きている。FDI実行額の伸び率から見ると、2015年は前年比わずか0・01%(約269億米ドル)、2016年では▲13・1%(約233億米ドル)となり、広東省における外商投資は縮小傾向にある。

 こうした状況下、中国政府は経済の持続的発展に不可欠な外商投資資金を呼び込むため、今年1月に「対外開放の拡大および外商投資の積極的利用に関する若干の通知」(以下、国発[2017]5号)、8月には「外資の利用促進に関する若干の通知」(以下、国発[2017]39号)を発表し、外資参入規制の緩和・投資環境の改善などの方針を打ち出した。

 広東省政府は、国家の対外開放拡大方針および外商投資受入の現状に対応し、財政支援の強化・研究開発への支援・金融支援の強化にフォーカスした「本措置」を策定した。

⒉主な内容

 本措置には、外商投資の誘致促進・支援強化向けの10項目の具体措置が盛り込まれている。その主な内容は以下の通り。

表1
表2

(注)不動産業、金融業および金融業に類する業種は含まない

⑴参入可能分野の拡大
・国発[2017]5号・国発[2017]39号に基づき、次第に参入基準を緩和する。具体措置は【表1】の通り。

⑵財政奨励金制度の拡充
・会社の新設や増資に対する財政奨励金を拡大する。詳しくは【表2】を参照。

⑶用地保証の強化
・実質外資利用額が10億元超のプロジェクト、世界上位500企業および業界大手企業の統括会社または地域統括会社の自社オフィス用不動産の建設に対し、省・市が共同で用地確保をアレンジ

⑷研究開発(R&D)・イノベーションへの支援
・2017〜2022年までに、省レベルの新型研究開発機構と認定された場合、最大で1000万元の財政補助金を支給
・認定された外資R&D機構が、科学技術開発用品を輸入する場合、輸入関税・増値税・消費税を免除し、国産設備購入に掛かった増値税を全額還付

⑸金融支援の強化
・広東自由貿易区(以下「自貿区」)において、非居住者人民元・外貨口座(NRA)を利用して「NRA+」口座に関するサービスの提供を試行
・多国籍企業による自貿区での人民元双方向プーリング展開を奨励

⑹人材確保支援の強化
・外資企業の高級管理職など7種類の人材を「優粤カード」(注)の発行対象とする

⑺知的財産権保護の強化
・中国(広東)知的財産権保護センターの建設を早め、知的財産権に対する迅速な審査・認定・権利保護体制を作り上げる

⑻投資・貿易の利便性向上
・政府審査の権力・責任範囲および基準をさらに統一を図り、投資審査のプロセスを改善して現行の審査事項と審査時間を1/4削減する

⑼重点工業園区への進出環境の改善
・東部・西部・北部の省レベル以上開発区が、省産業移転園区への認定申請を後押し、規定に従って省産業移転園区の関連支援政策を享受

⑽保障体制の改善
・省と市政府は、主要責任者主導で外資誘致の協働体制を作り、定期的に外資利用を制約する重大問題を解決(特に世界上位500企業の投資に関する問題を解決)

⒊まとめ

 本措置は国発[2017]5号と国発[2017]39号に比べ、外資R&D機構に対する手厚い支援および革新的な金融サービスの提供に関する内容に重点が置かれている。

 広東省はイノベーションによる持続的な発展を成長戦略として掲げており、今年5月に発表された「第十三次5カ年計画期間における科学技術革新計画」では、2020年までにR&Dへの投入額をGDP比の2・8%以上とすること、また、ハイテク企業の生産額が鉱工業生産額に占める割合を30%に達する目標が設けられている。現在、広東省においてはアップル、マイクロソフトなどの世界ハイテク企業がR&D機構を構えており、本措置の実施によって、より多くの外資R&D機構やイノベーション型企業の広東省進出を後押しするものと思われる。

 また、金融革新のパイロット政策として、広東省政府は広州・深‮&‬`・珠海などの地方政府に意見を募集し、自貿区で「NRA+」という特別な非居住者口座の開設を認め、革新的な人民元・外貨に関するクロスボーダー業務の試行を表明している。「NRA+」口座を利用し、融資・人民元転・外貨デリバティブ取引・人民元と外貨建てのクロスボーダー資産譲渡、クロスボーダープーリング等の改革案が公表されるとの見方が強まっている。

 本措置では各措置の執行担当部署が決められている。今後関連細則が1カ月以内に策定されることが明確されており、施行に関する詳細なガイドラインも併せて公表される見込み。弊室では今後の動向に注視し、引き続きフォローアップをしていきたい。

※注…「優粤カード」の所有者は社会保障・不動産購入などにおいて国内住民と同じ待遇を享受し、また、戸籍・出入境・長期滞在・永住権・医療・子女入学などの面において優遇を享受。

(執筆担当:何 薇波)
(このシリーズは月1回掲載します)

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