中国、経済改革で新たな成長局面へ

中国、経済改革で新たな成長局面へ

 2018年は中国改革開放40周年である。過去40年近くの高成長は、多くの歪みを生み出し、こうした歪みを解決する改革こそが、新たな発展につながると考えられる。ただし、課題は少なくない。(漁樵夫)

足元の経済指標

 まず、足元の経済指標をみると、景気の鈍化が読み取れる。財経が発表した9月の中国製造業景況感指数(PMI)は51・0。8月実績を0・6ポイント下回り、製造業の拡張ペースが引き続き鈍化していることが示された。

 政府発表の8月の経済指標も、鉱工業生産高、固定資産投資、社会消費財小売総額、不動産開発投資など主要指標は軒並み伸び率が鈍化。伸び率が今年最低だった指標も一部にはあった。うち、輸出伸び率は5・5%、社会消費財小売総額は10・1%、固定資産投資は4・9%にそれぞれ鈍化している。

 これについて、北京の専門家は、「景気をけん引するエネルギーのピークは過ぎ去り、生産能力が過剰な状況下、需要は弱く、デレバレッジも投資拡大を抑制させる要因になっている」と指摘している。

債務問題

 景気が鈍化する中、持続可能な発展に向けた経済改革は続くが、課題は少なくない。一つ目の課題は、債務問題である。

 今年9月、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は1999年以来で初めて中国のソブリン格付けを引き下げた。S&Pは、引き下げの理由について、「中国の力強い成長は主に債務規模の急ピッチな拡大によるものであるため」と説明。「こうした債務は引き続き増加し、長期的な成長リスクもたらしている」とし、将来的な金融市場に与える衝撃の可能性に懸念を示した。

 ムーディーズはS&Pに先駆け、5月に中国のソブリン格付けを引き下げ。その理由について、「中国は潜在成長率が鈍化している一方、政府はある程度の経済成長率を維持するため、財政刺激策に依存しており、政府債務の対GDP比率が安全とされる水準を超えているため」と説明している。

 フィッチも、中国の地方政府がデフォルトを引き起こす可能性を警告。地方政府が設立した資金調達プラットフォームが発行した債券について、「デフォルト可能性が高まっている」との見方を示した。

 中国の2016年時点の債務の対GDP比率は270%に達し、過去3年間は20%のペースで増加。毎年の支払利息が10兆人民元に達することを勘案すると、債務問題は中国経済の長期的なリスクである。

 ブルームバーグによると、16年の中国企業による国内で発生した債券のデフォルトは29件。17年第1四半期は7社で計9件のデフォルトが発生した。また、ロイター通信によると、中国のサンプル企業1189社のうち、債務が健全な企業は08年の845社から16年末には577社に減少している。

 債務問題は中国経済の「灰色のサイ(発生する確率が高い上に影響も大きな潜在的リスク)」であるだけに、有効な方法で如何にデレバレッジを進めるのか、中国経済の構造転換のうえで大きな課題の一つとなっている。

環境保護規制

 環境保護問題も大きな課題である。過去数十年の発展は、石化、鉄鋼、石炭、非鉄金属、化工といったエネルギー消費や汚染排出量が大きい業種の投資が主導してきた。ただ、これは環境問題という犠牲を伴うものだった。中国のPM2・5は米国の7倍、世界平均の1・3倍である。

 こうした中、環境保護問題は中国が反腐敗運動に次いで力を注いでいる分野で、環境保護規制が強まっている。環境保護規制により、川上の原材料メーカーは生産能力の削減や生産停止を求められ、影響が及んでいる分野は鉄鋼や冶金、化工、繊維、製紙など広範にわたっている。

 現在の生態環境が依然として厳しい状況を鑑みると、環境保護規制は共産党大会後の新指導部の下でも緩められることなく、むしろ強化される可能性がある。

不動産価格

 不動産価格の問題もくすぶる。不動産価格上昇を抑制する地方政府の動きは続いている。中原地産研究中心によると、今年に入ってから不動産価格抑制策を発表したのは100都市(県レベル以上)を超え、措置が発表されたのは150回を超えている。足元では、9月下旬の10日間だけで、西安、重慶、南昌、南寧、長沙、貴陽、石家荘、武漢、寧波、桂林、無錫、東莞の12都市で不動産価格抑制の追加措置が発表された。国家統計局が毎月発表している70都市の新築住宅価格指数において、70都市に入っていない東莞を除く11都市のうち、8月の価格指数が前月比で上昇したのは9都市だった。

 不動産価格抑制策の背後には、価格が危険な水域に入っているとのシグナルがある。不動産市場価値の対GDP比は、世界的に正常な水準とされるのは260%前後である。これに対し、中国は411%に達している。また、住宅購入におけるローン依存も高まっており、住宅ローン残高と個人の可処分所得の比率は早ければ2020年に、米国の金融危機前のピーク時の水準に達するとの予想もある。それだけに、金融危機が発生した場合の経済全体に与えるマイナス影響が懸念され、今後も不動産市場のマクロコントロールは手綱が緩められることはなさそうである。

国進民退

 国有企業のシェア拡大、民営企業のシェア縮小を意味する「国進民退」が進んでいる懸念も少なくない。過去5年、経済改革において国有企業改革は重要事項として位置づけられてきた。しかし、国有企業優遇の傾向に大きな変化は見られない。例えば、環境保護を目的とした生産停止の影響を受けているのは大半が民営企業で、「今後川上、川中産業は国有企業しか生き残れない」と懸念する向きもある。

 また、供給サイドの改革による業績改善も、国有企業の改善は比較的顕著だが、民営企業の改善は弱い。さらに、今年1〜8月の民間投資前年同期比伸び率は6・4%にまで鈍化。8月単月の伸び率は3・0%にとどまり、わずか5年間で、伸び率は35%以上から3%にまで沈んだ。

 中国の改革の進展は順風満帆とはいえないが、改革の前進がなければ経済リスクは高まる一方である。それだけに、今後、改革を通じた経済成長が注目されるところである。
(月刊『鏡報』2017年11月号より。このシリーズは2カ月に1回掲載)

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