#109広東省、戦略性新興産業に関する5カ年計画を発表

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(三菱東京UFJ銀行 香港支店 業務開発室 アドバイザリーチーム)

今月の質問

 最近、広東省において戦略性新興産業に関する5カ年計画が発表されたと聞きました。その内容について教えてください。



2017年9月6日、広東省政府は「戦略性新興産業発展5カ年計画」(粤府弁[2017]
56号、以下、「本計画」)を公表し、2020年までの重点育成・発展産業を示した。また、9月8日には広東省発展改革委員会が「戦略性新興産業の発展を促進する実施方案」(以下「実施方案」)を発表し、戦略性新興産業の発展を促進するための施策を明確化した。今回は、これらの内容について簡単に紹介したい。

⒈背景

 戦略性新興産業(以下「新興産業」)は、重要な最先端科学技術の革新を土台とするものであり、未来の科学技術や産業発展の方向性を示している。次世代情報技術分野、省エネ・環境保護分野など、今後の発展の潜在力は大きく、経済・社会にとって全面的な牽引作用が期待されている。

 2008年の金融危機以降、科学技術イノベーションが産業構造の高度化と経済成長における重要な役割を果たすとの考えから、世界各国は研究開発への資金投入を増やし、科学技術イノベーション能力の向上を土台とする競争力の向上に努めている。

 中国においては、2010年10月に中国政府は戦略性新興産業の育成・発展を加速する方針を打ち出した。この背景には、改革開放以降、目覚しい経済成長の一方、エネルギーの大量消費や、環境汚染問題など諸問題が深刻化しており、持続的な成長と国際競争力強化のためには、効率的で環境負荷の低い産業や技術集約型産業を発展させることが必要となっていた。

 2011年3月、広東省政府は国の方針に基づき、新興産業の発展を加速する方案を策定し、翌年3月に第1回目の「戦略性新興産業発展5カ年計画」を発表した。この結果、2015年、広東省における新興産業の成長率は年平均12%を超え、新興産業を中心とするハイテク産業の付加価値がGDPに占める割合は2011年の21%から27%に上昇するなど、一定の成果が見られた。

 その一方、広東省の新興産業はイノベーション能力が依然不足しており、高性能ICチップや遺伝子工学などのコア技術における競争力不足や、ハイエンドスマート設備に必要な主要材料を輸入に依存している状況が続いている。こうした状況に即し、広東省政府は2回目の5カ年計画である「本計画」を策定した。

⒉主な内容

 「本計画」および「実施方案」には、2020年まで広東省における新興産業の発展目標、重点推進領域、支援措置が盛り込まれている。その主な内容については図をご参照ください。

2020年までの発展目標

重点領域

支援措置(抜粋)

⒊まとめ

 2016年、中国に新規導入された産業用ロボットが世界の30%以上を占めるほど産業用ロボットの最大の需要国となっており、またバイオ医薬市場では2020年に3兆元以上の市場規模に達すことも予測されているなど、中国における新興産業の潜在力は大きい。

 深‮&‬`を含む広東省においては、ハイテク企業数および国際特許の申請件数が全国一位となるなど、全国の中でもイノベーション能力は高いといえる。珠江デルタ地域においては、製造業が発達し、産業チェーンも完備しているため、新技術がより素早く産業化されることが可能である。更に今年3月に打ち出された大湾区戦略では、広東省珠江デルタ地域と香港・マカオの提携発展が図られている。今後、珠江デルタ地域における研究開発と製造能力に、香港の金融センターとしての資金調達能力が加われば、新興産業の発展により良い環境が整備されることが期待される。

 経済のグローバル化が進むなか、自国に閉じた環境でイノベーションを行うことは困難になりつつあり、新興産業で先行する先進国の技術及び知的資源も活用することが求められている。広東省においては、外資企業による研究・開発センターの設立を奨励する誘致政策が東莞や深‮&‬`など一部の地域で打ち出されており、イノベーション能力の向上に貢献している。

 日本は金融危機以降、景気浮揚策として「低炭素社会づくり行動計画」や「新成長戦略」などを打ち出し、太陽光エネルギーなどの新エネルギー、環境・省エネ、医療などの分野で研究・開発を進めてきた。これらの産業は、広東省が重点的に育成する新興産業と一致しており、日系企業が技術上の優位性を持っている分野も依然存在することから、今後中国事業を発展させる大きなポテンシャルを秘めているといえる。

 「実施方案」には具体的な支援政策の策定について、各部門の責任を明確にしており、今後さらに後押しする支援政策が打ち出されると思われる。日本企業がこの新興産業へのシフトをビジネスチャンスと捉えることに期待し、弊室では引き続き関連政策の動向を注視していきたい。

(執筆担当:何 薇波)
(このシリーズは月1回掲載します)

三菱東京UFJ銀行 香港支店
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