「一帯一路」構想下での香港と上海の新たな協力モデル模索

 中国の「一帯一路」戦略の下、中国本土と海外を結ぶ「スーパーコネクター」の役割を担う香港は、国内企業が海外進出するためのステップである上海市と連携を図ることで相乗効果を上げることができる。
(上海市政協香港マカオ委員、中国僑商投資企業協会青年委員会副主席 姚珩)

中国の改革開放政策が始まって以来、香港は国の発展戦略において、特殊な地位を享受するとともに、独自の役割を発揮してきた。「第13次5カ年(2016〜2020年)計画や「一帯一路」、「ビッグベイエリア」の建設構想が進むにつれ、香港は中国本土と世界を結ぶ「スーパーコネクター」としての役割を果たし、香港経済に新たな歴史的なチャンスをもたらすであろう。長期にわたり、香港は国際金融センター、世界の貿易センター、国際海運センターとして位置づけられてきた。このため「一帯一路」の重要なコネクティングポイントとして、本土と世界を結び付ける優位性を具備している。こうした位置付けは、本土と「一帯一路」沿線国の連携を強めるうえでプラスの役割を発揮することができると考えられる。

香港は海外との橋梁の役割を十分に発揮

 中央政府は、「第13次5カ年」計画や「一帯一路」のビジョンとアクションを策定した際、「一帯一路」建設への香港の参画、協力を重要な政策の方向性として支持している。習近平・国家主席は、香港訪問期間中、香港は「国が必要としている香港の強みを考慮しなければならない」と述べた。これは、海外との橋梁としての役割を香港が発揮することを、国が認めていることを示唆している。

 「一帯一路」構想が提出されて以降、香港では各界が積極的に参画する意向を示している。香港政府は、「一帯一路」弁公室を設立し、関連プロジェクトを支援。また「専門サービス協力支援計画」を打ち出し、香港の専門サービス業のサービス水準向上や域内外でのプロモーションを後押ししている。さらに、政策や資金、情報、ビジネスネットワークなどの面でも支援し、その一環として、香港金融管理局(HKMA)は「インフラ融資促進弁公室(IFFO)」を設立。パートナーとして中国本土や香港、海外から60を超える企業・機関を集めた。

 林鄭月娥・行政長官は、就任後の初めての北京訪問時に、国の「一帯一路」構想の下、香港の役割を担うべく、16の関連部門を訪問し、実質的な成果を得た。その際、林鄭・行政長官は、香港は、地理的優位性、先行優位性を活用するとともに、専門サービスなどの優位性のある分野を中心に役割を果たし、有効なメカニズムやプラットフォームを確立することで、香港の企業や人材が「一帯一路」建設に積極的に参画できるとの見解を示した。

 林鄭・行政長官はまた、金融管理当局である「一行三会(中国人民銀行、中国銀行業監督管理委員会、中国証券監督管理委員会、中国保険監督管理委員会)」を訪問した。各当局はいずれも、今後も、国際金融センターとしての香港の地位強化を支援すると表明。本土の金融機関による香港での域外業務の地域本部設立奨励、香港のコーポレートトレジャリーセンターとしての地位向上、金融市場の連結強化を促すとともに、香港は「一帯一路」のインフラ投資プロジェクトのリスク評価センター、法律専門サービスの役割を果たせるとの見解を示した。

 さらに、林鄭・行政長官は外交部の王毅・部長と会談の際、香港は中国返還以来、外交部の支援の下、国際都市としての地位を維持し、多くの国と自由貿易協定や査証免除、貿易投資・自由貿易に関する協定を締結してきたと表明。さらに、基本法の中で、香港は対外事務上、高度な自治権を与えられ、今後5年は香港の独自の政策優位性を発揮すると述べている。

香港と上海、各自の優位性を活用し新たなメカニズム構築へ

 上海に目を向けると、今年国務院が発表した『中国(上海)自由貿易試験区改革開放の全面深化の計画』で、上海自由貿易試験区(上海自貿区)に、「三区一堡」を建設するとの新たな目標が盛り込まれた。「三区一堡」の「三区」とは、「総合改革試験区」、「開放型経済システムリスクストレス試験区」、「政治ガバナンス能力向上先行区」を指し、「一堡」とは、「一帯一路」建設と市場主体の企業の対外進出の間の「橋頭堡」を指す。中国共産党政治局委員で上海市党委員会書記の韓正氏は、上海自貿区の使命は、制度の刷新であることを強調。市は初心を忘れず、制度刷新を中核とする自貿区建設を堅持し、政府管理体制の刷新を深め、貿易監督管理サービスシステムを最適化させ、国際貿易の「単一窓口」の建設を推進、「橋頭堡」の機能でより大きな力を発揮すると述べている。また、上海市市長の応勇氏は、自貿区建設は、下期の重点作業の一つで、開放型経済体系構築加速、自貿区のアップグレード版建設に注力し、「三区一堡」の建設に力を入れると強調している。

 上海自貿区は、「三区」建設において、香港の成功経験を鑑み、自貿区建設を進める方向。例えば、両地の金融業の協力を通じ、香港の国際的な資本市場を活用し、クロスボーダー資本フローのリスクを抑えるほか、両地政府や各業界団体の交流推進で、政治ガバナンスの一段の向上、業界の管理能力の引き上げにつなげる。

 また、上海自貿区は、「一帯一路」建設及び、市場主体の企業の対外進出の「橋頭堡」の役割を目指す。その際、香港と上海は、それぞれの優位性を発揮して、相互補完することが可能である。香港は、「スーパーコネクター」として、国際市場との融合の成功の経験を発揮することができる。一方の、上海は「橋頭堡」として、中国本土の優良な産業やプロジェクトの資源を整理・統合することが可能。つまり、香港は海外との「スーパーコネクター」として、上海は本土の企業の「橋頭堡」として役割を果たし、良好な協力関係を構築。「一帯一路」構想において、緊密な協力体制を築き、両地は政府レベルで業界の管理機関やビジネス団体、仲介サービス機関などを確立する全面的な協力体制を築き、「一帯一路」建設に大きく資することが可能になろう。

 具体的な例を挙げると、上海の金融機関が上海自貿区に進出した香港の金融機関に対し、優秀な本土の製造業による海外の川下の販売会社の買収案件を紹介。本土では、対外直接投資の規制が厳格なため、まずは香港の金融機関が低コスト、良好なリスク管理の下で、合併を完了させ、その後、合併された企業の海外の販売ルートを通じて、本土の買収側は輸出を拡大させることができる。同時に、香港の金融機関の本土支店は長期的に買収側にサービスを提供する機会が生じる。

 香港が「スーパーコネクター」、上海が「橋頭堡」として、それぞれ相互補完関係を構築することで、はじめて各自の優位性が最大限に発揮でき、「一帯一路」建設に大きく寄与すると確信している。

(月刊『鏡報』2017年10月号より。このシリーズは2カ月に1回掲載)

Share