▶120◀ 日系企業における実務上の注意点および就業規則整備のポイント

 中国の従業員労務管理において、休暇に関する規定には、法定祝日、年次有給休暇、病気休暇、産休、結婚・弔慰休暇など各種あり、規定に沿って、会社のルールを就業規則等に明記することにより、労務トラブルを防ぐことができる場合があります。下記に、有給休暇に関し、法定有給休暇日数、実務上の注意点、就業規則作成のポイントを説明します。
(NACコンサルティング 方君婷)

表1: 国家法定祝日休暇一覧
200811日修正発布「全国祝日と記念日の休暇弁法」

表2: 法定特別休暇一覧

年次有給休暇について

有給休暇の適用対象者と日数

 連続して12カ月以上勤務した従業員は年次有給休暇を享受することができます。法定有給休暇の日数は表3の通りです。

表3:法定有給休暇の日数
※従業員有給休暇条例及び企業従業員有給休暇実施弁法

累計勤務年数の確定

 従業員の法定有給日数は、従業員自身の累計勤務年数によって確定するため、会社は法定有給日数を付与する時、当該従業員の累計勤務年数を確認しなければなりません。通常、従業員が過去の労働契約書、社会保険記録、人事ファイル及びその他会社が認める証明資料を以て自己申告し、会社がこれを確認したうえで承認する方法が一般的です。

連続勤務12カ月以上の判断について

「企業従業員有給休暇実施弁法」の関連問題への返答(人社庁函〔2009〕149号)によれば、「連続勤務満12カ月以上」とは、同一雇用者での連続12カ月以上の場合と、異なる雇用者に連続して12カ月以上勤務していた場合があります。

実務上の注意点

①国外の勤務年数を累計勤務年数に算入するか

 この問題については中国の法律上明確な規定がありません。労働契約法及び関連法律は中国での労働関係のみに適用するため、当事者間に別途定めがなければ、国外の勤務年数を累計勤務年数及び連続12カ月勤務年数に算入しません。従い、労働契約書や就業規則などに、明確に定めることが望ましいと思われます。

②有給休暇の買い取り

 従業員の未消化有給に対し、当該従業員の日給の300%で有給休暇の報酬を支払わなければなりません。(「従業員有給休暇条例」第5条)なお、雇用者は生産、業務の実際状況に応じて、従業員の意思も考慮し、有給休暇を統一して手配することができます。(「企業従業員有給休暇実施弁法」第9条)即ち、有給休暇の行使について、最終的決定権は会社側に有といえます。未消化有給休暇とは、会社が手配しない又は従業員の有給申請を批准しないことにより生じたものを指し、この場合の未消化有給休暇に対し、当該従業員の日給の300%の基準で補償金を支給しなければなりません。

 この支給額には正常勤務期間の給与が含まれるため、実際に計算する時は200%で計算し支給します。従い、会社は四半期毎若しくは、少なくとも年末前に従業員の有給休暇の状況を確認し、期限通りに消化させるような管理制度を構築し、確かに従業員自身の理由で休暇しない場合は、必ず書面の資料を従業員より提出させることが望ましいと言えます。

③「期限内に法定有給休暇を使用しない場合は権利放棄と見なし無効とする」という社内規定は有効であるか

 実務上、有給休暇の申請について、従業員より申請し、会社が批准する形式が一般的です。

 また、一部の会社は就業規則などの規定において、当年度未消化の法定有給を翌年度へ繰越できず、権利放棄として有給残を無効にする、と定めているものが散見されます。

 ただし、法律上、会社には主動的に法定有給休暇を手配する義務があり、労働者の不申請を理由にして無効とすることができません。

 上記の社内規則は法律規定に違反し、無効となります。

④福利有給休暇の買い取り義務があるか

 多くの日系企業は法定有給休暇日数以上の有給休暇を付与しており、法定有給休暇以上の有給休暇を本稿では「福利有給休暇」と呼びます。

 労働契約、集団契約又は就業規則に約定した有給休暇日数及び未消化有給の買取額を法定基準より高く設定する場合、会社は当該約定若しくは規定に基づき取扱います。(「企業従業員有給休暇実施弁法」第13条)

 法定基準以上の休暇は、福利休暇として会社が一方的はまた当事者合意の内容で設置することができます。ただし、司法実務上では、社内規則または契約に明確な定めがなければ、法定休暇と同じように300%の基準で補償金を支払うことを要求された判例がありますので、ご留意ください。

 従い、会社としては、就業規則に法定有給休暇と福利有給休暇をそれぞれ定め、かつ、「如何なる場合でも未消化の福利休暇に対し一切補償しない」という内容を明確に規定する、等の対策をとることができるかと思います。

就業規則整備のポイント

 有給休暇に関する規定や企業の方針を就業規則に盛り込む際のポイントは以下の通りです。

①法律法規に基づき、従業員の有給休暇の申請プロセス及び会社の統一手配権を明確に定めます。

②関連規定によれば、労働者の勤務年数に関する労働争議は雇用者より証明する義務があります。規則に有給休暇の享受条件を満たすことを証明する資料(履歴、学歴証書、労働契約書等)の提出を従業員に要求し、提出できない又は証明できない場合の不利な結果を従業員が負うことを明確に記載することが必要です。

③法定休暇と福利休暇の享受条件、付与方法、補償基準をそれぞれに規定します。福利休暇を補償対象にしない場合は、法定休暇を優先的に使用することも明記します。

(このシリーズは月1回掲載します)

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