《105》香港外食産業への進出に関する考察(前編)

《105》
香港外食産業への進出に関する考察(前編)

 香港は日本の農林水産物・食品輸出先として2016年まで、12年連続のトップを維持するなど、世界で最も日本食が普及している地域と言われ、約1300軒の日本料理店が軒を連ねる激戦区でもある。香港の住人のみならず、観光等で訪れる中国人にも日本料理の人気は高く、その数はまだまだ増えそうな勢いだ。本稿では香港の外食産業の中でも、日本料理店を取り巻く現状を紹介しつつ、香港での食品関連ビジネス展開を検討する場合の留意点を考察する。
(みずほ銀行 香港営業第一部 中国アセアン・リサーチアドバイザリー課 張 玉美)

香港の経済環境

香港経済はリーマンショックの影響を受けた2009年を除き、ここ10年ほど、堅調な成長を維持している(図表1)。さらに、中国本土住人の香港訪問ビザの適用拡大や、人民元の使用にかかる香港での優先的開放、香港と隣接する広東省やマカオとの交通の利便性向上を図る高速道路や鉄道、橋梁の建設などにより、香港と中国本土の経済的な結びつきは年々強まっており、今後もさらに中国との関係深化が進み、香港経済の安定的発展を支える見通しだ。

図表1 香港のGDP成長率の推移
図表2 香港の世帯収入(月額、中央値)の推移

こうした経済成長の恩恵を受け、香港における世帯収入も2016年までの過去5年で平均約5%の伸びを維持している(図表2)。香港では従前から共働き世帯の増加が進んでいることもあり、消費者の購買力はいっそう高まっている。労働市場も実質的に完全雇用の状況にある中、安定した家計所得の伸びにより、世帯あたりの可処分所得に占める消費支出も10年から15年に年平均5%増加している。また、消費支出のうち27%は食費であり、香港の世帯平均消費支出において2番目に大きな消費項目となっている(図表3)。

図表3 (資料)香港政府統計処、CEIC

香港外食市場の概況と展望

さて、香港に2017年3月現在で登録されているレストランは全体で1万6700軒で、そのうち中華料理店は約4690軒、中華以外のレストラン(ファストフード店も含む)は3965軒となっている。また、これらレストランで働く従業員数は計24・3万人、売上高は548億香港ドルで、いずれも前年同期と比べ、安定的に推移しいる(図表4)。

図表4 香港の登録レストラン件数の推移と内訳
※中華料理店とは香港式喫茶店、広東、視線、北京、上海料理およびその他中華料理店を意味する。全体的にはバー、飲料スタンドなども含まれるが、本稿では割愛した。(資料)香港政府統計処

こうした香港の外食業界における堅調な売上増加には、以下3つの要因が考えられる

⑴外食産業の多様化と店舗数の増加

近年の人民元安の進行や、越境電子商取引が盛んになったことなどに伴い、香港では買い物目当ての中国人観光客数が減少し、小売売上高も2016年は前年比で8・1%減少するなど、各所に影響が出ている。これとは対照的に、飲食店の売上高は同2・9%増加した。これは、同年に香港市場に新規参入した89の国際ブランド企業のうち、3分の2が飲食ブランドであったことなど、新たな飲食ブランドの参入が持続しており、常に新しい味やサービスを提供し、客をひきつけていることがある。また、小売店舗が集積するショッピングモールなどの運営会社が、観光客向けの高級宝飾店などの撤退による売上減少を埋め合わせるために、飲食関連店舗の入居比率を拡大したことが、飲食関連店舗数の底上げにつながったことも奏功していると見られる。

⑵食品配送サービスの利用の増加

市民の外食頻度が高く、多くのレストランが軒を連ねる香港だが、昨今は、食品配送サービスが急速に発展・拡大している。食品配送サービス市場は2017年〜21年の年平均成長率(CAGR)が26・5%と見込まれており、21年には金額ベースで7・8億米ドルに達すると推測されている。また、食品配送サービスの場合、サービス提供にあたり店舗そのものを小規模とすることも可能であるため、家賃の高い香港で固定費の圧縮による経営効率向上が期待できるという利点もあろう。

⑶インフラの拡充・高度化による波及効果

高度にインフラが発展した国際都市である香港だが、中心部の市街地と郊外の住宅地を結ぶ交通インフラは現在も、着々と整備されている。近年は、市民の足である地下鉄の延長や新路線の敷設が相次いだことで、これまでローカル色の強かった郊外に西洋風の飲食街が出現するなど、新たなビジネスチャンスが生み出されている。上述の食品配送サービスにおいて、フード・デリバリー・アプリの登場でより簡便にオーダーが可能になったことも、ソフト面でのインフラ高度化の恩恵の一つと言えるだろう。

(このシリーズは月1回掲載します)
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