典型的香港人の本性

典型的香港人の本性
日常生活の言動から読み説く(エレベーター編)

ケリー・ラム(林沙文)

(Kelly Lam)教師、警察官、商社マン、通訳などを経て、現在は弁護士、リポーター、小説家、俳優と多方面で活躍。上流社交界から裏の世界まで、その人脈は計り知れない。返還前にはフジテレビ系『香港ドラゴンニュース』のレギュラーを務め、著書『香港魂』(扶桑社)はベストセラーになるなど、日本の香港ファンの間でも有名な存在。吉本興業・fandangochina.comの香港代表およびfandangoテレビのキャスターを務めていた

 1997年の香港返還の前に私は作家として、日本で『香港魂』という本を出版したことがあります。本の中では、強いお酒よりもっと辛口の文章で、単刀直入に典型的な香港人の性格について紹介しました。人間の本性、性格、心の中にある本音は決して、友人との付き合いの場でも、テレビの前でも舞台の上でも、見られるわけはありません。人間の本性、性格、本音は日常生活の中で、誰も気が付かないうちに、自分でも意識しないうちに現れるものです。だから、日常生活の言動を見れば、人間の性格が明確に見えてくると思います。

 香港にももちろん、他人に対して優しく親切に振る舞う人や慈善活動に熱心な人がいるけれど、実は典型的な香港人なら、絶対相手に一歩も譲らない、相手に負けたくない、相手に協力しない、という性格を持っています。私が返還前に『香港魂』の中で書いた通り、返還してから今日まで全く変化はありません。たとえ時代が変わっても、典型的な香港人の性格は時代にちっとも影響されず、性格は変わりません。

乗ったらすぐに「閉」ボタン
 香港人の本性はエレベーターを見ればわかります。自分がエレベーターに乗った後、もし誰かがエレベーターに向かって歩いてくるのが見えたら、すぐに「開」のボタンを押して相手を待つことは人間らしい礼儀だと、私は思います。これは国際社会の常識ですが、香港なら非常識になります。読者の皆さんも、香港人がエレベーターに乗った途端、階数のボタンを押すよりも先に「閉」のボタンを押したり、自分で行きたいフロアのボタンを押すと同時に「閉」のボタンを押す姿を見たことがあるでしょう。これこそ典型的な香港人の性格なのです。

 こうした行動には簡単な理由があります。なぜなら、相手に協力しない、相手に一歩も譲らないのは典型的な香港人の性格の1つだからです。ではどうして香港人はこういう性格になったのでしょうか? その理由もとても簡単。香港は長い間英国植民地でしたから、基本的に国や会社への帰属意識がかなり薄く、どんなことも自分のため、自分の家族のためという考え方しかありません。他人の生死、他人の利益にかかわることなんて自分が関心を持つべき問題ではないと考えているのです。世界の国々に比べ香港は、毎日相手と競争する気持ち、絶対相手に譲らない気持ちが強いところなのです。

時間は金なり
 香港人は、エレベーターに乗ろうと向かって来る人をすべて自分の競争相手とみなします。同業者でなくても、互いに利害関係がなくても、「こんな見知らぬ相手に協力したら自分が損する」と考えます。一番気にするのは時間のロス。相手を待ってエレベーターに乗せてあげるのは非常に嫌なことです。少なくとも30秒の時間をロスするから。香港人にとって時間のロスはお金のロスと完全に同じこと。「時は金なり」で、時間とお金は同等なのです。

 例えば、「目の前の仕事を早く完成させることができたら、またすぐ次の仕事ができる」と考えています。毎日の仕事を早く完了させて定時に退勤できれば、報酬の出ないサービス残業をしないで済むなら、それほどうれしいことはありません。香港人にとって最も重要で、うれしいことです。

 日常生活の中には地下鉄、銀行、郵便局、レストランなど、列をつくって並ばなければいけない場面があちこちにあります。エレベーターに乗る機会は毎日何度もあるのだから、そこでいつも30秒のロスをしていたら大問題です。だから、一秒も譲らない。自分で先にエレベーターに入ったときに誰も後から入れないようにすれば、それは最高なことだと思います。これこそ典型的な香港人ならみんな考えていることです。

協力したら損をする
 スキルが高い香港人なら、エレベーターに入る瞬間に誰かが歩いてくることに気がついても、わざと見えないふりをして無視。すぐエレベーターの角に隠れて「閉」ボタンを押す香港人もいます。相手がエレベーターに入ったら失敗、入らなかったら成功だという気持ちがあるから。

 相手と競争する気持ちが誰よりも強いから毎日、香港人は相当なプレッシャーの下で生活しています。いつもイライラして、焦っているのは香港人の性格の特色の1つと言っていいでしょう。地下鉄に乗ってもエレベーターに乗っても、相手に一歩も譲りません。周囲にスペースの余裕があっても、わざと少し中央に立って空間を狭めようとします。自分が脇に寄って誰かが地下鉄やエレベーターの中に入れるようにしてあげるなんて親切な行為は絶対にしません。そこまでの協力を典型的な香港人には期待できません。

 だから日常生活で香港人が礼儀正しく相手に挨拶したり、協力する場合は、必ず理由があります。それは相手が知り合いの場合です。香港人にとって相手が知り合いならば、見知らぬ人とは完全に待遇が違います。挨拶も協力もニコニコスマイルもあります。これは大変残念なことです。

親切な人なんていない
 知り合いじゃなくてもお互いに協力し合うのは人間として当たり前なことではありませんか? 自宅のマンションでも、会社のビルでも、私がもしエレベーターに先に乗った場合、大げさに、分かりやすく手で「開」のボタンを押し、もう一方の手でエレベーターのドアが閉まらないようにします。そしてエレベーターに向かってくる人と目線を交わしながら相手を待つのが、私の習慣です。

 私がこうするには3つの理由があります。第1の理由は、相手にはっきりあなたに協力するからと示すため。全力で大げさの行為でエレベーターをあなたのために、あなたが来るまで開のボタンを押したままに待っているよというメッセージを相手に送るのです。要するに「人間にはまだ希望がある」ということを伝えたいのです。

 単純に相手を待つために「開」ボタンを押し、そのときに相手と目線を交わさず、手も大げさに動かさなかったら、それは一番もったいない行為だと思います。外からエレベーターに入ってくる人は絶対あなたが好意的にオープンのボタンを押して相手を待つことを信じませんから。「香港にはそんな協力的な人がほとんどいないという確信」を持っています。もっと極端に言えば、あなたは一生懸命に「開」ボタンを押していても、外から急いでやって来る人は、あなたが一生懸命に「閉」ボタンを押しているという誤解を必ず持っているのです。だから私は大げさなくらいに行動で示します。

香港人に反省の気持ちを
 第2の理由は、わがままな人間を教育しなければいけないと考えているから。いつも相手を待たず無視する人たちが、私の行動を見てほんの少しでも感動してくれたらいいと思います。そして彼らがそれを真似して、自分も将来ほかの人に協力するようになる、ということに私は期待したいのです。

 第3の理由は香港人を反省させるため。いつも相手に協力しない、一歩も譲らない典型的な香港人がいっぱいいるから、全く利害関係のない相手だとしても親切に扱おうと言いたいのです。

 このエレベーターに乗る際の行動を通して、平和な調和のある社会を作れるように、そこまで私は期待をしています。

 次回は香港人の挨拶やお辞儀、ありがとうという言動から、香港人の性格に潜む大問題を解説します。

ケリーのこれも言いたい 毎日焦ってイライラしながら、相手に絶対負けない、一歩も譲らないというのは典型的な香港人の生活の一部だ。弱肉強食の実力社会、極端な競争社会における苦しい人間の挽歌である。

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