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深圳市における外商投資奨励措置について
「華南ビジネス最前線」では、お客様からのご質問・ご相談が多い事項について、理論と実務の両方を踏まえながら、できるだけ分かりやすく解説します。
(三菱UFJ銀行 香港支店 業務開発室 アドバイザリーチーム)
今月の質問
最近、深圳市独自の外資企業誘致政策が公表されたと聞きました。その内容について教えてください。
2017年4月7日、深圳市経済貿易・情報化委員会は「深圳市における外資誘致の規模拡大および外資利用の質の向上に関する若干措置(意見徴収稿)」(深経貿信息外資字[2017]43号)(以下「本措置」)を公布し、深圳市における外商投資奨励措置の内容が公表された。本稿では、「本措置」の内容について、簡単に紹介したい。
⒈背景
中国商務部が発表したレポートによると、中国への非金融類投資額は2015年までの24年にわたり、発展途上国の中でトップの座を守った。しかし、中国への投資は鈍化傾向にある。国連貿易開発会議(UNCTAD)の報告によると、2015年度のアジアにおける発展途上国への投資総額は前年度より16%増加したのに対し、中国への投資額は6%増に止まり、ミャンマー(+200%)、インドネシア(+29%)、インド(+22%)などの増加率を大きく下回った。
近年の中国投資環境の悪化、すなわち経済の減速、労働コストの上昇、過剰生産といった問題の顕在化は、日本を含む一部の国・地域の投資意欲の減退につながっており、日本からの中国投資額は2013年以降、前年割れの状況が続いている。
こうした状況下、中国政府は経済の持続的発展に不可欠な外商投資資金の規模を安定させるため、2017年1月に「対外開放の拡大および外商投資の積極的利用に関する若干の通知」(国発[2017]5号)を発表し、サービス業や製造業、採掘業などの分野において外資参入の基準を緩和する方針を示した。
深圳市は中国で最初に外商投資が開放された特区の一つであり、多くの外国直接投資により経済成長を遂げてきた。2015年度における外商直接投資実行額は65億米ドルと、全国の5%を占めたが、分野別の中身を見ると、不動産業への投資が前年比大きく増加した(+181%)のに対し、製造業(—27%)、卸売・小売業(—39%)、衛生・社会保険・社会福祉業(—100%)など、他の分野における大幅な減少が目立った。
深圳市政府は、国家の対外開放拡大方針および深圳市の外商投資受入の現状に対応し、一定の分野において外商投資参入基準の緩和や参入要件の緩和可能を含めた「本措置」を策定した。
⒉「本措置」の概要
「本措置」には、深圳市における外資独資での設立を認可する業種および参入要件の緩和可能業種が明確にされている。
①外資独資での設立を認可する業種
「本措置」では、現在、外商出資比率に制限のある水利や交通運輸、製造、情報技術サービスなど8つの分野に対し、外商独資出資の認可業種を明確にした。(詳細は表をご参照)
②参入要件の緩和可能な業種
「本措置」では、金融業(銀行、証券会社、証券投資ファンド管理会社、先物取引会社と保険会社)およびサービス業(会計と監査)に対し、外商参入要件の緩和意向を示しているが、具体的措置は明示されていない。
⒊まとめ
「本措置」において、多くの業種で外資の出資比率制限が緩和されることで、外国投資者にとっては深圳市における事業進出や市場拡大のチャンスが広がるものと考えられる。
現在、深圳市で外商独資での医療機関設立は「CEPA(香港・中国経済貿易緊密化協定)」の枠組みに基づき香港の事業者に限られており、実績は乏しい(眼科専門病院1件のみ)。しかし、深圳市の一人当たりGDPは約2・5万米ドル(2016年)で世界銀行が定めた発展途上国基準を大幅に上回るほか、1190万人の人口を抱える大都市であり、良質な医療サービスに対するニーズは大きいと想定されることから、医療分野における外資進出の余地は大きいと考えられる。
また、中国においてEC(電子商取引)市場が急速に拡大するなか、EC事業への参入に必要な「経営性ICP(中国国内において、インターネット上で営利サービスを提供するためのライセンス)」の取得は外商出資比率が50%以下の企業に限られていた。市場調査によれば、EC市場の売上高が2016年の5兆4000億元(見込)から2019年度には10兆5000億元にまで倍増が見込まれている。日本の化粧品、雑貨、食品、家電などの商品に対する中国の消費者の人気は高く、日本は2016年度における越境EC市場の最大の商品供給国(26%を占める)になる見込みである。業界参入への出資比率制限がなくなれば、日系企業が中国EC市場の発展を取り込むチャンスは広がるものと考えられる。
深圳市政府は2016年12月の全国版外商投資指導目録(意見徴収稿)に基づきこれら「本措置」の「先行先試」をスタートしたため、全国版目録の正式公布に際して変更事項の有無に留意が必要である。「本措置」の早期発効に期待し、引き続き関連動向を注視していきたい。
(執筆担当:何 薇波)
(このシリーズは月1回掲載します)
三菱UFJ銀行
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