「粤港澳大湾区」の建設

 「粤港澳大湾区」の建設

 

 香港は「粤港澳大湾区(広東・香港・マカオ・ビッグベイエリア)」構想のチャンスをつかみ、地域協力を進めることでイノベーション型経済に転換する必要がある。香港の現状をみると、「広東・香港・マカオビッグベイエリア」の発展に追随するのは理にかなっており、このチャンスを看過するわけにはいかないであろう。
(香港菁英会栄誉主席・洪為民)


 中国の李克強・首相が3月に発表した政府活動報告では、「中国本土と香港、マカオとの協力深化を推進し、『広東・香港・マカオビッグベイエリア』の発展計画の研究・制定を進め、香港とマカオの独自の優位性を発揮し、中国の経済成長と対外開放における地位および機能を高める」との方針が示された。「ベイエリア経済」を巡っては、2014年に深‮&‬`市政府が政府活動報告で初めて提出。「『ベイエリア経済』の発展を対外開放の新たな局面とし、広東・香港・マカオのビッグベイエリア協力の推進を加速する」との内容が盛り込まれた。その後、深圳・香港協力会議等の複数の会議で、「広東・香港・マカオビッグベイエリア」を共同建設することで一致している。2015年3月に国家発展改革委員会が発表した「シルクロード経済ベルトおよび21世紀海上シルクロードの共同建設推進のビジョンと行動」では、「香港、マカオ、台湾との協力を深め、広東・香港・マカオビッグベイエリアをつくる」との方針が示された。また2016年3月に発表された国の「第13次5カ年(2016〜20年)計画」では、「広東・香港・マカオビッグエリアと省をまたぐ地域間の協力プラットフォームの建設を推進する」、「香港・マカオと共同で広東・香港・マカオビッグエリアを共同でつくり上げ、世界レベルの都市群にする」との計画が盛り込まれた。今回の計画は、広東・香港・マカオの科学技術ベイエリア協力メカニズムの構築や、広東・香港・マカオ三地の科学技術イノベーション政策の制定等に大きく資するものである。

潜在的な成長性を具備する「広東・香港・マカオ・ビッグベイエリア」構想

 「広東・香港・マカオビッグベイエリア」は、広東省の9市(広州、深圳、珠海、仏山、恵州、東莞、中山、江門、肇慶)および香港とマカオの2つの特別行政区で形成される。2015年末時点で、11都市を含む「広東・香港・マカオビッグベイエリア」の総面積は5万6500平方キロメートルで、総人口は6765万人、GDPは約1兆3000億米ドルとなる。経済規模では、長江デルタに及ばないものの、1人当たりGDPは他の都市群を上回っている。また、貿易総額は1兆5000億米ドルに達する。広東・香港・マカオは世界レベルの港湾、空港を擁しており、空港の年間輸送旅客数は延べ1億4000万人、港湾貨物取扱量は7200万TEU。港湾貨物取扱量では深圳が世界3位、香港が5位、広州が6位となっている。

 金融に関しては、香港が世界の金融センター、そしてオフショア人民元取引センターとしての地位を築いている。

 科学技術イノベーションに関しては、深圳が米シリコンバレーに次いで世界2位の科学技術イノベーション都市となっており、研究開発費のGDP比率は4・1%となっている。深‮&‬`はまた応用技術分野でもリードし、GDP伸び率は9%に達している。香港は市場化、国際化、法治において優位にあるうえ、専門サービスも国際水準にあり、広東省の理想のパートナーである。一方、広州は優秀な大学や省レベルの研究機関を有し、人材や基礎研究技術を提供できる。香港・珠海・マカオを結ぶ「港珠澳大橋」や高速鉄道等の交通インフラの整備進展に伴う珠江デルタ地域の一体化は、ハイエンドで、開放的、そしてイノベーション力を有する広東・香港・マカオビッグベイエリア経済圏の発展に寄与すると考えられる。

香港は絶好のチャンスを見逃すべきでない

 これまで香港は広州、深圳、東莞、江門等の広東省の都市と緊密に連携してきた。また、広東省出身の香港市民は少なくない。1980年代初め以降の改革開放政策において、広東省は改革開放をリードしてきた。90年代以降は、香港人による東莞、恵州、中山等での工場設立が増え、珠江デルタ地域で製造業の産業チェーンが形成された。近年は、自主イノベーションという新潮流の下、深圳や広州では自主研究開発が盛んに行われ、中国本土の製品は以前のような「偽物」ではなく、中興や華為のような海外の大手ブランドに匹敵する自社ブランドを有する企業も出てきている。広東省が優良な産業群を有していることなどを鑑みると、「広東・香港・マカオビッグベイエリア」を立脚点に、「一帯一路」沿線国に広がりをみせるのは自然の流れといえる。香港は、今回の「広東・香港・マカオビッグベイエリア」計画を通じて、地域間の協力を深め、イノベーション型経済への転換を図るべきである。現在のような資金主導の経済モデルは物価や地価の高騰、脆弱な実体経済の裏付け等、問題が少なくない。それだけに、香港にとってイノベーション主導の経済モデルへの転換は差し迫った課題である。香港の現状を鑑みると、「広東・香港・マカオビッグベイエリア」の発展に追随するのは理にかなっており、香港はこの絶好のチャンスを看過するわけにはいかない。

 また、広東省の3つの自由貿易試験区(前海、南沙、横琴)とそれぞれの自由貿易試験区の強みのある分野で協力することも、「広東・香港・マカオビッグベイエリア」の建設にプラスになるであろう。2025年には「珠江デルタ+香港」の全体の銀行の純利益は1兆4400億香港ドルに達し、東京、ニューヨークを超えて世界最高になるとの予想も出ている。

前海が重要な役割担う

 深圳と香港は「前海深圳香港現代サービス業協力エリア」を拠点に、共同で「一帯一路専門サービスセンター」を建設することで、会計士や弁護士、エンジニアのような香港の専門サービスと中国本土企業が共同で「一帯一路」沿線国に進出することが可能になると考えられる。また、深圳と香港は新たな電子取引ルールを整備し、香港を電子取引の決済センターとし、香港の貿易産業の高度化につなげるのも一案といえる。

 前海は2017年、より多くの金融イノベーション政策を打ち出すことにより、香港およびマカオの金融業への開放を一段と進める計画である。同時に、香港品質検査認証機関と深‮&‬`認証機械が前海に協力プラットフォームを設立し、クロスボーダー電子取引のルールを積極的に検討する計画もある。こうした点を踏まえると、前海は「広東・香港・マカオビッグベイエリア」計画を進めるにあたり、広東省と香港、マカオとの協力において重要な役割を担うといえそうである。

(月刊『鏡報』2017年4月号より。このシリーズは2カ月に1回掲載)

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