塀の中を紙上公開 香港の監獄とは? 歴史的な建物は再開発中

 

塀の中を紙上公開
香港の監獄とは?
歴史的な建物は再開発中

 汚職で有罪となった曽蔭権(ドナルド・ツァン)前行政長官に今年3月、20カ月の禁固刑が言い渡された。曽前長官が収監されたことをきっかけに注目を集めた塀の中の暮らしぶり一一。では、香港の監獄の中は一体どうなっているのだろう? 今回は法定古跡のひとつで現在再開発が進められている「旧ビクトリア監獄」の内部と、香港の監獄の歴史を解説した「香港懲教博物館」を紹介する。 (構成・編集部)|

香港初の監獄

人気エリアSOHOに監獄があったことをご存じだろうか? 十九世紀、香港で最初に造られた監獄が「域多利亜監獄(ビクトリア監獄)」。ハリウッドロードに立つ旧中区警察署に隣接するレンガ造りの建物だ。今ではアートギャラリーやレストラン、バーなどが並ぶこのおしゃれなエリアに監獄があったとは想像しにくいが、同監獄は2005年1223日まで実際に使われていた。

これは旧ビクトリア監獄に隣接する旧中区警察署。法定古跡に指定された建物が美しい。監獄とは通路でつながっていて囚人の護送もたやすかったという。現在は再開発工事が進められている

すでに閉鎖し、跡地は政府による再開発が進められているが、本紙では施設公開時に取材を行った。以前、監房内に香港のデザイナーの絵画や彫刻を陳列した斬新なエキシビションが話題を呼んだことや、既婚警察官向けの官舎を再開発した複合施設「PMQ」が好評なこともあり、将来このビクトリア監獄がどんな施設に生まれ変わるのか楽しみでもある。

現在、旧中区警察署と旧ビクトリア監獄では再開発工事が進行中だ(撮影・綾部智美)

多発した海賊と強盗

開港当時の香港は海賊や強盗が多く、密輸も横行していた。しかし英国政府が香港に警察機構を設置したのは1841年5月、ビクトリア監獄(当時は中央監獄、1899年に改称)ができたのは同年8月のことだ。それまでは現在のピールストリート付近にわらぶきの簡易式収容所があるのみだった。

受刑者が散髪していた場所。「BARBAR」の看板があった

その後、ビクトリア監獄は犯罪者を収監するのみならず、隣接の中区警察署、中央裁判司署と共に香港の司法制度の中心とされてきた。

1970年代には英国がベトナム難民の受け入れを承認。香港域内の刑務所も1977年から23年間にわたり、難民キャンプとしても使われた。このためビクトリア監獄の告知板の一部にはベトナム語表記があった。

閉鎖される前の数年間は、ここには重罪犯はおらず、主に再犯者、不法入境者の男女を収監していたという。

1995年に法定古跡に認定された建物はビクトリア式建築。赤レンガの壁が印象的だ。所内は6棟に分かれ、中央に運動場と大きな大木が1本あった。一見、学校のような雰囲気なのだが、壁をよじ上るのに役立ちそうな水道管や背の高い大樹などの要所には有刺鉄線が巻き付けられ、ここが監獄であることを実感させられる。外壁にも尖ったガラスの破片が付けられ、容易には越えられなかったことが分かる。

各所に張り巡らされた有刺鉄線

監房は鉄の扉に厚い石の壁。室内の壁は明るいクリーム色に塗られているが、鉄格子が張り巡らされた窓は小さく、わずかに光が入るだけ。エアコンもなく、風が通らない監房はじめじめしており、ここに入れられたら一日も早く出たいと感じるだろう。

ビルの各階に監房が並ぶ

興味深いのは受刑者たちの食事の献立だ。もちろん中華料理がほとんど。厨房にはかつて使われていた大きな炊飯器と中華なべがいくつも置かれ、当時の受刑者の多さを物語っていた。

広いキッチンには調理器具がたくさん

 

 

海の近くの博物館

香港島南部の赤柱(スタンレー)は異国情緒あふれるリゾートとして知られるが、そのイメージとは裏腹に実は香港最大規模の監獄「赤柱監獄(スタンレー・プリズン)」が建てられた場所でもある。曽前長官が収容されていたのもここだ。中に入ることはできないが、香港の監獄の歴史を知るなら「香港懲教博物館」を訪れるといい。

懲教博物館の入り口。門の横には芝生の庭があり、ベンチで休める

香港懲教博物館は1938年に建てられ現存する赤柱監獄と、これを監督してきた懲教署(旧監獄署)の歴史にちなみ、2002年11月1日に開設された。東頭湾道にある赤柱監獄に近い懲教署職業訓練院内に併設されており、170年にわたる香港の監獄の歴史をジオラマ、図表などを用いて分かりやすく展示、解説している。

看守の制服と武装警官らの制服のディスプレー。女性用もある

二階建てで総床面積480平方メートルの館内は「刑罰と監禁」「監獄の歴史と発展」「看守の制服」など9つのテーマに分かれ、600点余りの展示物が陳列されている。一部展示室にはスクリーンが備え付けられ、ビデオを使った解説を放映している。いすもあり、座りながら視聴できる。

ビデオが視聴できる展示室が何室かある

GFには懲教署の歴代署長の顔写真などのプロフィールが紹介されている。

GFの展示室にはむち打ち台もある

吹き抜けの処刑台

最もインパクトのある展示が1Fにある絞首刑台の模型だ。傍らには実際に監獄で使われていた大きな時計が置かれ、この文字盤が執行までの時間を刻んでいたことを物語る。この展示には音声による解説があり、普通話(標準中国語)、広東語、英語が選べる。ボタンを押すと照明が暗くなり、クラシック音楽のイントロが流れる凝った仕組みだが、恐怖をそそることはないだろう。

縄が巻かれた絞首台の模型

その横にある独房の受刑者の様子を表した模型もかなり斬新。旧式の監房にはバケツが2つ置かれているだけだが、新式には洗面台や洋式トイレなどが完備していたりと、なかなか興味深い。

1Fに展示されている受刑者が作った武器や持ち込み禁止品はその精巧さに目を見張る。厚い本のページをくり抜いてタバコを隠したり、小さな紙切れを集めてマージャンパイやトランプとして使うなど、工夫が感じられる。

受刑者が隠し持っていた武器。中には自分で食べ残した鳥の骨を研いで作った刃物もある

本館裏手にある別館には、社会復帰を目指して技術を身に付ける受刑者たちの作ったさまざまな手工芸品が展示されている。別館前の広場は海に面し、風が通り心地よい。ベンチとジュースの自動販売機もあるので、歩き疲れたら大潭湾(タイタムベイ)を眺めながら一休みするのもいい。

別館の前からの眺望は素晴らしい

このほか受付の隣ではポストカードや書籍、キーホルダー、護送車のフィギュアなどの記念品も販売している。

◆香港懲教博物館◆
Hong Kong Correctional Services Museum
所在地:香港赤柱東頭湾道45
電話:2147-3199
開館時間:10001700、月曜休館
入館料:無料
交通:セントラルから路線バスの66X260番または銅鑼湾から緑のミニバス40

独房は1500
囚人の生活

曽前長官が収監されていたスタンレー監獄には現在1300人の服役囚がいる。内部には病院や厨房、購買部が併設され、一般房のほか独房1500室がある。独房の中には広さ80平方メートルの独房「水飯房」が80室あり、「特別組」と呼ばれる囚人が収監されている。特別組とは、知名度が高く特殊な案件で保護が必要な囚人や規律に違反して隔離措置すべき囚人、暴力や扇動など周囲に影響を及ぼす囚人のこと。通常、水飯房への収監は7割が3日以内で、うち8割が薬物関与のケース。1カ月近く収監されるのは暴力や扇動行為によるもので、2016年は1年以上収監された者はいなかったという。室内にはベッドとステンレス製の便器と洗面桶、プラスチック製のイスと小さなテーブルが置かれている。特別組の囚人が外に出られるのは1日1時間だけ。曽前長官もこの水飯房に収監されていたようだ。

収監中に体調を崩した時期もあった曽前長官だが、判決後に上訴を申請し保釈が認められた

ギャンブルも横行

一方、近年は監獄内でもギャンブルが横行しているという。懲教署が201614月に各監獄と連携して行った昼夜3000回の特別捜査で、31枚のサッカーくじ投票用紙と麻雀パイやトランプなどのとばく道具12点が見つかり、64人の服役囚がギャンブルにかかわったことが判明。監獄内では新聞や雑誌に載るオッズなどの情報は閲覧できないが、多くの囚人がラジオや友人らの手紙で情報を入手。堂元が投票を記録し、囚人たちはかけ金の代わりに作業報奨金で購入したタバコやお菓子をかけていた。成人ならば喫煙用マッチが週に1度配給されるため、その空き箱を使って投票用紙や麻雀パイ、トランプなどを自作していたそうだ。

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