移転価格税制の最新の動向

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移転価格税制の最新の動向

 月1回のこのコーナーでは、香港・日本・中国等を中心とした税金等に関する問題についてご紹介させていただきます。今回は、香港における移転価格税制の最新の動向について述べたいと思います。


改正法案成立

 香港特区政府は、2018年7月4日に内国歳入法改正法案第6号(Inland Revenue (Amendment) (No. 6) Ordinance 2018)が立法議会において最終審議で可決された後、2018年7月13日に官報に掲載され、正式に法令として成立しました。

 改正法案の主な目的は、移転価格の原則を成文化し、2017年7月31日交付されたBEPSの取り締まり措置に関する諮問書」(Consultation Report on Measures to Counter Base Erosion and Profit Shifting)に基づく一定の措置を実施することにあります。

 改正法案の中で、マスターファイル、ローカルファイル、および国別報告書(CbC)に関する文書化要件および発効時期が明文化されました。発効時期は、それぞれ2018年4月1日以降に開始する会計年度(マスターファイル、ローカルファイ)および2018年1月1日以降に開始する会計年度(国別報告書)となりました。

移転価格文書化

 改正法案第6号では、OECDが推奨するマスターファイル、ローカルファイルおよび国別報告書からなる3層構造の文書化が採用されており、それぞれマスターファイルは多国籍企業の事業概要等を記載する文書、ローカルファイルは個々の関連者間取引に関する詳細な情報を記載する文書、国別報告書は国別に合計した所得配分、納税状況、経済活動の所在、主要な事業内容等を記載する文書となります。

移転価格文書化の免除要件は最終的に以下の通りとなりました。

⑴事業規模による免除

 以下の3つの条件のうちいずれか2つを満たす納税者に対しては、マスターファイルとローカルファイルの作成が免除となります。

①総年間収入が400ミリオン香港ドル以下
②総資産が300ミリオン香港ドル以下
③従業員が100名以下

年間連結グループ売上が750ミリオンユーロ(約68億香港ドル)未満の会社は国別報告書の作成が免除となります。

⑵関連者間取引に基づく免除

 以下の各カテゴリーの関連者間取引の金額(香港の国内取引を除く)がそれぞれ以下の基準値を下回る会社は、該当する取引に関してローカルファイルの作成が免除となります。

①資産の取引(金融資産及び無形資産を除く)が220ミリオン香港ドル未満
②金融資産の取引が110ミリオン香港ドル未満
③無形資産の取引が110ミリオン香港ドル未満
④その他の取引(サービス収入、ロイヤリティ収入等)が44ミリオン香港ドル未満

 以上の規定により、事業規模がそれほど大きくない会社や、事業規模が大きくても関連者間取引(グループ会社間取引)がほとんど行われていないような会社に関しては、マスターファイルおよびローカルファイルの作成が義務付けられないこととなり、多くの納税者の事務負担が軽減されると思われます。

 一方、国別報告書の作成免除要件に変更はなく、年間連結売上が750ミリオンユーロ(約68億香港ドル)以上の会社に関しては、国別報告書の作成が要求されます。

まとめ

 香港においても移転価格文書化の制度がついに開始されることとなり、当初の免除要件よりも緩和される結果とはなったものの、一定の課税強化を義務づけることにより、国際金融都市として今後の競争力を維持することになったと考えられます。上記の免除要件を満たさない可能性が高い会社に関しては、慎重に検討し、早い段階で専門家に相談の上、文書化の準備を始めることが望まれます。

(このシリーズは月1回掲載します)


筆者紹介
フェアコンサルティング(香港)
東京、大阪、香港、上海、蘇州、台湾、ベトナム、フィリピン、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、インド、メキシコ、オーストラリア、ドイツを拠点に多数のグローバル企業のサポートを行っているフェア コンサルティンググループの香港拠点。同グループは国税当局や大手会計事務所出身で経験豊富な公認会計士、税理士スタッフが、日系企業が抱える諸問題を解決するための税務・財務戦略を企画・立案・実施支援しています。
〈連絡先〉
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