ブックフェア2018(前編)

ブックフェア2018(前編)

 7月18日から24日に香港コンベンション・アンド・エキシビション・センターで開催された書籍見本市「香港書展(香港ブックフェア)2018」。会期中の動員数は104万人に上るなど賑わいをみせた。一部は午前零時まで開催されるなど、国際展示イベントのなかでも特に人気の高い同イベントについて紹介する。

 29回目を迎えた今回は39カ国・地域から、昨年に比べ1・5%増で過去最多となる680の企業・団体が出展した。今年のテーマは「愛情文学」。「文芸廊」「文間有情」というテーマの専門ブースも設け、張愛玲、鄭梓霊、深雪ら異なる年代の愛情文学作家10人の作品の展示を行った。絶版になった小説や手書きの原稿などが展示されるほか、これらの本を元にして作られた映画や舞台劇なども放映された。

 日本からは33企業・団体が出展(昨年は21企業・団体)。初出店は、岩手県、京都府、愛媛県、高知県、沖縄などで、各ブースで観光プロモーションを行った。またアニメ聖地巡礼88カ所などのプロモーションを行っているアニメツーリズム協会はパビリオン内で最大のブースを設置し、日本アニメファンが初日から多く来場していた。週末にかけては演劇批評家の藤原ちから氏によるワークショップ、日本舞踊5大流派の一つである若柳流「若柳流香の会」によるパフォーマンス、さらに鳥取県ブースでは、「鬼太郎とコナンの鳥取県クイズ大会」などが開催された。

 ブックフェア・リポートの前編では、今回最大ブースを設置した一般社団法人アニメツーリズム協会専務理事の鈴木則道氏に、日本アニメの海外における位置づけ、香港における日本アニメ市場の動向について伺った。

インタビュー 一般社団法人アニメツーリズム協会専務理事 鈴木則道氏


——一般社団法人アニメツーリズム協会はどのようなことをしているのでしょうか。

 2016年9月に設立されました。全国各地にあるアニメの舞台となった場所、いわゆる「アニメ聖地」を88カ所を選定し、国内外への情報発信や広域周遊観光ルートの造成を 「オールジャパン体制」で行っています。また「アニメ聖地」(地域)と企業、コンテンツホルダーを繋ぎ、コンテンツを活用したサービスや商品の開発を促進することで、地域の活性化、新たな経済効果を創出していくのが主な目的です。

——設立後、毎年ブックフェアに出展されている理由を教えてください。

 きっかけは、香港ブックフェアの主催者である香港貿易発展局が5年前に日本の自治体などを誘致して、ジャパンパビリオンという企画を立ち上げたことです。日本旅行の魅力を伝えるという点では、ITE(香港国際旅行展示会)も大きなイベントとして認識していますし、PR効果も大きいと考えています。一方でこのブックフェアは約100万人の香港の方に対し、特に日本によりフォーカスした情報を提供できる場をご用意いただきました。この機会を生かし、日本のインバウンドをより振興させていきたいという想いから出展させていただいてます。

——香港市場の魅力について教えてください。

 ご存じのように昨年1年間で訪日された香港の方は233万人に上ります。3人に1人の香港の方が日本にいらっしゃっていることになります。リピーターになっていただける方も多く今年に入っても訪日される方は増え続けています。東京や大阪などの大都市、富士山や京都などの有名な観光地だけでなく、もっと深い日本の文化や自然までも愛していただけている方が多数いらっしゃるのだろうと感じています。そして、アニメを代表とする日本のポップカルチャーに造詣が深い方が多数いらっしゃるのも香港の特徴です。日本に親しみを感じ、一般的な観光資源だけでない多様なニーズが存在することに訪日ビジネスの市場として大変大きな魅力を感じています。

——日本のアニメーションはどのように変化しているでしょうか。

 アニメーション産業の市場規模は年々伸びており、ついに2016年には2兆円を突破しました(一般社団法人日本動画協会調査)。このうち3分の1の7000憶円は海外での放送、上映、配信などの売り上げによるものです。いかに日本のアニメ産業が海外のファンに支えられているかよく分かります。

 また、一昔前のアニメ作品はその多くが空想の場所を舞台としていましたが、ここ10数年で実在する場所・地域が作品の舞台になっている事例がとても増えました。作品のなかに描かれている街の風景や学校、自然の描写などを見たファンが、直接その舞台を訪れてみたいという動きが活発化しています。今、日本各地で新たな観光資源の開発が盛んに行われ、日本政府も2020年に4000万人の訪日観光客数を目標に掲げています。世界的に人気ある日本のアニメとともに、日本各地の地域を元気にしていきたいですね。

——「アニメ聖地88」はどのように決まるのでしょうか。

 訪れてみたいアニメの舞台の作品がどこなのか、全世界のアニメファンからWEB投票を募るもので、毎年行っています。前回は5万票以上の投票をいただき、人気の高い順番に映像権利者、自治体にアニメの聖地としての承認をいただいたものを、「アニメ聖地88」として発表しています。

——まさにファンとともにつくっているものなのですね。5万票という数字はどう見ていますか。

 予想を遥かに超えており、改めて日本のアニメの人気の高さに驚いています。投票する国・地域としては台湾、香港は特に抜きんでて多いですね。また中国本土からのファン投票も増えてきています。このような大掛かりな投票を毎年行っているのは、アニメ作品は毎年200本以上もの新作が作られているためです。常に新しい作品を取り入れながら、日本アニメの最新の情報を発信していきます。

——「アニメ聖地」で人気のある場所はどこですか。

 2016年公開で世界的に大ヒットした新海誠監督の『君の名は。』の舞台となった岐阜県飛騨エリアは今も人気がありますね。舞台となった自然を楽しみながら、地元の「飛騨牛」を堪能するなど、世代を超えて多くの方が来られています。他にも漫画家の美水かがみ氏による4コマ漫画作品「らき☆すた」は埼玉県の久喜市が舞台です。地元にある鷲宮神社では「らき☆すた」のためのオリジナル神輿を作り、年に一度の祭りで担ぎ手をファンから募るなどして、外国からの観光客の方も多く訪れました。このように地域の理解と協力があるエリアは、作品と地域が一丸となって盛り上げようという動きがでてきています。

 以前アジア圏の方を対象にした「モニターツアー」を行ったのですが、これはアニメツーリズムをインバウンド事業として取り入れることで、観光客がどのような体験をできるか、楽しめるか、さらにどのような効果があり、どのような消費活動を行うのか調査したものです。

 参加した人の殆どは日本のアニメファンでしたが、アニメ聖地以外にも地元の食文化にも接することで、改めて日本の素晴らしさに触れることができたと喜びの声をいただきました。また地元の人たちと交流をすることで、新しい発見が生まれ、感動していただけることは、地元の人たちに対しても海外からの目線の気づきと励みになるものだと実感しました。

 こうした地域創生に向けた動きはこれからですが、日本のアニメをより積極的に世界に発信するとともに、日本のアニメ舞台を通して食文化の魅力を発見できる「体験型旅行ビジネス」も、伸ばしていきたいと思っています。

(このシリーズは月1回掲載します)


【楢橋里彩】
フリーアナウンサー。NHK宇都宮放送局キャスター・ディレクターを経てフリーに。ラジオDJとして活動後07年に中国に渡りアナウンサーとして大連電視台に勤務。現在はイベントなどのMC、企業トレーナー、執筆活動と幅広く活躍中。
ブログ http://nararisa.blog.jp/

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