韓国・台湾・香港の小売市場のトレンド

韓国・台湾・香港の小売市場の
トレンド

 SMBC経済トピックスでは、アジア地域において注目されている産業や経済の動向を紹介します。今回のトピックスは韓国・台湾・香港の小売業界のトレンドです。韓国・台湾・香港の小売市場は、消費者の所得水準が高く、多くの商品が日本と同じ価格帯で展開できる市場であること、流通形態はモダントレードが主流であること、などの特徴があります。加えて近年では、高齢化、核家族化の進行やインバウンド市場の拡大といったトレンドが、商品カテゴリ別の需要動向に影響を与えています。かかるトレンドに伴って需要が伸びているカテゴリでは、日系小売企業が進出・事業拡大を検討する余地はまだ大きいと言え、各社の動向が注目されています。 
(三井住友銀行 企業調査部<香港駐在> 貫井 孟)


韓国・台湾・香港の小売市場の従来からの特徴

韓国・台湾・香港は日本から地理的に近い上、香港では1980年代後半、韓国・台湾は90年代前半に一人当たりGDP が1万米ドルを超えるなど、比較的早い段階から所得水準が上昇していた(図表1)ことから、過去から多くの日系小売企業が進出対象としてきました。また、00年代以降も各地で所得水準の上昇が続いた結果、近年ではアジアで一般的に富裕層とされる世帯所得3・5万米ドル以上の人口が過半を占めるに至りました。このため、日系小売企業にとって韓国・台湾・香港は、多くの商品が日本と同じ価格帯で展開できる市場となっています。加えて、流通形態はモダントレード(近代的小売)が主流であること、人口密度が高いこと、などの特徴が小売業者にとってビジネス上のメリットとなっています。

図表1:一人当りGDPの推移
図表1:一人当りGDPの推移

一方で、韓国・台湾・香港ともに人件費や不動産賃料などの進出コストはアジアの周辺国と比較して高く、かつ上昇が続いていることが、各社の進出や事業拡大のハードルとなっています。また、人口規模の大きいアジアの周辺国で所得水準が上昇するなか、韓国・台湾・香港が人口の規模で見劣りすることは、進出や事業拡大を検討する上でマイナス要素となってきました。

近年のトレンド

もっとも、近年ではこれらの特徴に加え、高齢化、核家族化の進行やインバウンド需要の拡大などに伴う小売市場の新しいトレンドに注目が集まっています。

高齢化については、韓国・台湾・香港ではアジア周辺国に先行して進んでおり、医療・介護関連のサービス・商品などにおける需要の伸びをもたらしています。核家族化に関しては、都心部への人口集中などを背景に1世帯当たりの人員数は2・6〜2・8人と日本の00年前後の水準まで減少(図表2)しており、小売形態では小型スーパーやコンビニエンスストアのニーズが高まっているほか、商品カテゴリではインスタント食品などに代表される中食関連需要が拡大しています。またインバウンド需要をみれば、近年の中国本土の所得上昇や人民元高、各地のビザ発給要件の緩和などに伴って、地理的に近い韓国・台湾・香港で中国本土客の買い物需要が拡大しました。これに伴って各地で宝飾品やアパレル、最近では化粧品や医薬品、ベビー用品の市場が伸張しています。

図表2:世帯数と人世帯当たり人員数の推移
図表2:世帯数と人世帯当たり人員数の推移

地域別の魅力・課題と進出動向

以上のような共通のトレンドに加え、韓国・台湾・香港ではそれぞれ異なる魅力・課題があり、進出・事業拡大を進める企業のセクターにも変化が生じてきています。

まず香港では、不動産賃料や人件費などのコスト負担が特に高まっている一方、地元消費者の所得水準は日本と比べても高いほか、年間4千万人を上回る中国本土客が訪れるなどの魅力があります。中国本土客は04〜14年の間、年率+14%のペースで増加、15〜16年は減少しましたが、17年5月に再び増加に転じました。このため、近年ではマージンの厚いハイエンド商品を扱う企業や、医薬品など今後中国本土で需要が伸びると期待される商品を扱う小売企業が、中国市場におけるショーウィンドウとしての役割を狙いつつ、進出や事業拡大を進めるケースがみられます。

一方、韓国では一般消費財の流通・販売において地場大手財閥の存在感が大きく、外資系企業の参入は容易ではありませんが、近年は消費者の嗜好の変化に伴いインスタント食品など、財閥企業の取扱いが比較的少ないカテゴリにおいて需要が拡大しており、中食関連需要を狙った食料品メーカーなどが進出や事業拡大を進めています。また台湾では、アジアの中でも特に少子高齢化が進んでいるため小売市場全体での成長性は高くないものの、健康志向の高まりや女性の労働参加率の上昇などを背景として、健康食品やドラッグストアなどの進出が増えてきています。

このように、韓国・台湾・香港の小売市場では、高齢化、核家族化の進行やインバウンド市場の拡大に伴って需要が伸びているカテゴリにおいて、日系企業が進出・事業拡大を検討する余地は未だ大きいと言えますが、それぞれの市場の魅力・課題の違いから各社の進出・拡大戦略は異なってくるとみられ、動向が注目されています。

(このシリーズは2カ月に1回掲載します)

〈筆者紹介〉
貫井 孟(ぬくい はじめ)
三井住友銀行 企業調査部 香港駐在:2010年より企業調査部(東京)で石油・ガス業界等を担当。2015年より香港に赴任し、現在は主に台湾・韓国・中国(華南地域及び香港)素材・消費財業界の調査や情報発信を手掛ける。

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