北朝鮮攻撃でインフレへ

北朝鮮攻撃でインフレへ

 6月12日の米朝首脳会談が決まった。北朝鮮による核開発プログラムの完全放棄に向けて、いよいよ米国は踏み出した。中間選挙や再選へ向けて得点を挙げたいトランプ米大統領の思惑は必ずしも中国、韓国、日本といった近隣諸国の利害とは一致しない。交渉相手は核保有国、一つ間違えれば世界を巻き込んだ紛争に発展する。
(ICGインベストメント・マネジメント代表・沢井智裕)


 トランプ氏の政策は実に分かりやすい。北朝鮮に対し「核および各施設の完全なる廃棄」を求め、しかも不可逆的という文言も加えている。北朝鮮に対して退路を断つように要求する。米国の軍需産業は15年に1度は在庫一掃のための戦争をしなくては持たないと言われていた時代があった。北朝鮮をコテンパンにやっつけると軍需産業を潤わせることが出来る。1発100億円以上もするミサイルを何百発も打てば軍需産業にとって特需が生まれる。これら軍需産業株は暴騰するというシナリオである。

 ポンペオ米国務長官は「北朝鮮が核開発プログラムを完全に放棄すれば、米国は制裁を解除する用意がある」との考えを示し、米国は北朝鮮のエネルギーや農業、インフラ部門に米民間部門が投資できるように、経済制裁を解除する用意があると公言している。つまり米国は対北朝鮮政策で強硬に出ることによって、非核化が実現すればトランプ大統領の今年秋の中間選挙における勝利はもちろんのこと、大統領選の再選も確実であろう。そして北朝鮮のインフラビジネスは米国が一手に引き受けることが出来る。これは米大手企業にとって大きなビジネス機会となる。万が一、北朝鮮の非核化が失敗したとしても、北朝鮮への軍事行動に出ることは間違いない。これは予め日本政府にも米国政府から公式に伝達されている事が明らかになっている。日本国内ではほとんど報道されていないが、政府内ではかなりの慌てようであったことが容易に想像できる。

 更に米国は北朝鮮の非核プログラムで足を引っ張っていた中国の出鼻を挫き北朝鮮には一切手を出させないはずである。それを察して北朝鮮の金正恩・委員長は短期間に2度も訪中したのだ。「米国主導の非核化」で中国外しが始まっているのだから、北朝鮮としてはかつての親分を引き留めておきたい。中国にとってもメリットがある。資本主義国家との境界を韓国から北朝鮮に北上されると大いに困るからだ。北朝鮮に在留米軍など悪夢としか言いようがない。

北朝鮮もイランも攻撃

 さてそれでは実際に北朝鮮に対する「非核化プログラム」は効力を発揮するのだろうか? もちろん北朝鮮の答えに「ノー」は有り得ない。想定通り非核化を約束するはずで、その後出来ることは一連の核廃棄を出来るだけ先延ばしして行くことになる。一方で米国はタイムスケジュールを作成し北朝鮮に口実を与えない戦法に出るはずである。

 では北朝鮮に対するアメの部分は何だろうか? 経済援助はもちろんのこと、在韓米軍の縮小に手を付けるはずである。しかしながらこの縮小は、あくまで北朝鮮の非核化の過程に準じた方向で動くはずである。そこで考えられるのは、北朝鮮の非核化が停滞することである。その場合、米国は北朝鮮に攻撃を仕掛ける口実を得る事になる。

 当初は核施設を攻撃し、その後は金委員長の首を狙いにいく。ここ数年、北朝鮮は長年にわたって後ろ盾となってくれていた中国に対し冷たい態度を取り続けてきたが、この数カ月で金委員長の態度は急変し、韓国訪問、中国訪問を2回も実現させている。金委員長にしてみれば、それだけ生命の危機を感じているはずである。もちろんトランプ大統領も本気である。かつて金委員長の父、金正日・前委員長は、米国がイラク攻撃を行いサダム・フセイン大統領(当時)が「スパイダー・ホール」から見るも無残な姿で拘束された時の様子を自分に投影して、パニックに陥りかけていたという。独裁者は決まって民衆蜂起に屈し惨めな最後を迎える。ルーマニア共産党政権の独裁者チヤウシェスクは公開処刑され、リビアのカダフィー大佐も、ジープの上で市中引き回しに遭い、フィリピンのマルコス大統領はマラカニアン宮殿から追われるようにしてヘリコプターでハワイ逃亡を図った。独裁者の末路が悲惨なものであることは金委員長も重々承知しているはずである。

トランプ氏は有言実行

 ここまで世界が不安定になったのは実はオバマ前大統領が創造した危機が背景にある。オバマ氏はシリア、イラン、北朝鮮問題を「口だけ番長」で放置してきた。批判はするが行動は起こさない。これら諸国の核の開発が進んだだけでなく、遠距離飛行への搭載も可能になっていることから、オバマ氏が「核拡散した立役者」なのである。一方でトランプ氏は「オバマ前大統領の尻拭い」をしていると言っても言い過ぎではない。トランプ氏が様々な愚策と言われる政策を発表し、実行しても支持率が下がり切らないのは、有言実行において一定の強烈な支持層がサポートしているに他ならない。わずか2年弱で国務長官を3人も替えてしまう大統領は今後も不世出かもしれないが、それだけ政策実行に対する思い入れが感じられる。

 トランプ政権は現在の原油価格が安いと考えている。ここ数年間の原油価格の低迷によって、一時は流行したシェールガス・オイル革命が価格低迷で採算割れし、ガス、原油を掘ることが出来なくなっている。北朝鮮、イラン、シリアを攻撃し、緊張状態に陥って原油価格の高騰、ひいてはインフレ率が高くなっても、国内産業の復活に繋がると考えているのだろう。もとより商品相場は2011〜13年にピークアウトし、これまで長期にわたって調整してきた。多少、インフレが急伸しても今の世界経済には耐久力がある。つまり米国にとっては経済的にも政治的にも戦争を仕掛けるリスクは低い。むしろ好機といっていいかもしれない。


ジェリー:北朝鮮の非核化の問題をなぜ国家で議論しないのだろうか?

トム:無理に決まっているだろ。考えてみろよ。今、北朝鮮問題とかシリアへの自衛隊派遣の問題を話し合ってみろ。国会議員が何人も暴言吐いて止めさせられる事態になったらどうするんだよ? 国会に就職している人たちは「自分ファースト」なんだから、加計学園の問題を話し合っている方が与野党の双方にとってメリットがあるんだよ。

ジェリー:確かに護身という意味では理に適っているわね。北朝鮮問題やシリア派兵の話し合いになると憲法改正の問題とか、自衛隊派兵の問題とか、確かに国会議員は自身の進退に関わる問題が多く出てくるわよね。

トム:それぐらいは既にお見通しなんだよ。もりかけ問題を話しておくと、証人喚問とか参考人招致とか時間を稼いで仕事をしているフリが出来るじゃない。北朝鮮問題なんて、アメリカが攻撃を仕掛けてからか、日本にミサイルが飛んできてからの議題でいいんだよ。

ジェリーみんな伊達に一流の大学を出ている訳じゃないんだね。自分ファーストって情けない気がするけど、やっぱり国会議員は儲かるからね。表向きの給与は2000万円ぐらいだけど国民に見えない給与や手当、恩給等を合わせると年収1億円は下らない訳だから、職を失いたくないよね。

トム:ある程度の金持ちが政治をする方がいいんだろうな。

ジェリー:さあ、なかなか日本人には受け入れられないわよ。

トム:ワシがやる。手始めに銀座に行くぞ!

ジェリー:何しに行くの???

トム:当たりくじがよく出る売り場があるんだよ。

ジェリー:まあ志の低いこと。国会議員と変わらないわ。


非核化
 核兵器の開発・保有・実験・使用などをしなくなるのは当然であるが、既に製造した大量破壊兵器の完全破棄だけではなく、今後も新たに開発しないという意味である。そして核実験所の破棄、核兵器製造用の濃縮ウランやプルトニウムを生産停止を実行に移し、定期的に国際原子力機関(IAEA)の査察を受け検証させることが重要となる。米国は米朝会談においてこれら非核化へ向けたロードマップ(行程表)を提示し、その通りに北朝鮮が非核化を実行しなければ攻撃する隙を与えることになる。トランプ米政権は「不可逆的」という文言を入れて、北朝鮮に核武装に対する思い入れを断念させるところまで追い込んで初めて「北朝鮮の非核化が実現」ととらえている。

筆者紹介

沢井智裕(さわい・ちひろ)
ICGインベストメントマネジメント(アジア)代表取締役
ユダヤ人パートナーと資産運用会社、ICGインベストメントマネジメントを共同経営。ユダヤ系を含め約2億米ドルの資産を運用する。2012年に中国本土でイスラエルのハイテク企業と共同出資でマルチメディア会社を設立。ユダヤ人コミュニティと緊密な関係を構築。著書に「世界金融危機でも本当のお金持ちが損をしなかった理由」等多数。
(URLhttp://www.icg-advi sor.net/)

※このシリーズは月1回掲載します

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