〈84〉事業所得税の所得源泉地判定

〈84〉
事業所得税の所得源泉地判定

 月1回のこのコーナーでは、香港・日本・中国等を中心とした税金等に関する問題についてご紹介させていただきます。今回は、香港における事業所得税の所得源泉地判定について述べたいと思います。

事業所得税の基本原則

 内国歳入法(IRO)第14条において、香港の事業所得は下記の3要件を満たすものが課税対象となると定められています。

・香港内で事業活動を行っていること
・所得が香港内で行った事業活動から得られたものであること
・所得が香港内で生じ、または香港で獲得されたものであること

 ここで、3番目の要件である「香港内で生じ、または香港で獲得されたもの」についての考え方が過去より議論となることが多い論点となっています。すなわち、香港内で生じたまたは源泉のある所得であれば課税され、一方香港外で生じたまたは源泉がある場合には非課税となります(源泉地主義)。第14条では「源泉」という言葉は直接的には使用されておりませんが、裁判所では、「発生または獲得」という文言が源泉の概念を提起していると常に認められています。

 香港に源泉のある所得(オンショア)か香港外に源泉のある所得(オフショア)かを区分する上で、その所得の源泉地の判定が問題となりますが、その判定の指針として、香港税務局(IRD)は多くの税務訴訟判例に基づいて解釈実務指針DIPN21号「利益の源泉(locality of profits)」を公表しています。

 所得の源泉地の特定にあたっては、DIPNを参考としながらも、普遍的なルールというものはなく、個々の会社の事例ごとに事実関係を総合的に勘案して判断を行う必要があります。

源泉地判定の考え方

・所得獲得のためにどこで何を実施したのか、つまり、どこでどのような事業活動を行った結果として所得が生じたのかが判定基準となります。
・判定においてはその所得発生に先立つまたは付随する活動は原則として関係なく、所得を生み出した取引自体に着目します。
・香港内と香港外の両方に源泉があると考えられる取引については、合理的な基準により所得をオンショアとオフショアに案分します。

主な所得種類別の源泉地判定

①商品販売
・仕入契約と販売契約の両方が香港で行われた場合、所得は全額課税対象となります。
・仕入契約と販売契約の両方が香港外で行われる場合、所得は課税対象となりません。
・仕入契約または販売契約のいずれかが香港で行われた場合、販売所得は全額課税対象となります。
・商品を香港の供給業者または製造業者のいずれかから購入する場合、仕入契約は通常、香港で行われたものとみなされます。

 仕入および販売契約は重要な要素ではありますが、所得源泉地を判定するためには、取引利益を生み出すすべての関連業務を交渉から契約まで包括的に検討する必要があります。

②製品製造
・生産活動が香港内だけで完結している場合には、全額課税対象となります。
・生産活動がすべて香港外で行われている場合には、製造所得は課税対象となりません。
・生産活動が香港内外にて行われている場合には、所得の按分が可能となっており、実務的には、50%ずつをオフショア所得、オンショア所得とされることが一般的です。

③役務提供
役務提供をした場所が所得源泉地となります。

まとめ

 所得の源泉地の判定に普遍的に適用されるルールはないため、個々の事例ごとに検討する必要があり、疑問点がある場合には、実行にあたり事前に国際税務の専門家に相談されることをおすすめします。

(このシリーズは月1回掲載します)

筆者紹介
フェアコンサルティング(香港)
東京、大阪、香港、上海、蘇州、台湾、ベトナム、フィリピン、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、インド、メキシコ、オーストラリア、ドイツを拠点に多数のグローバル企業のサポートを行っているフェア コンサルティンググループの香港拠点。同グループは国税当局や大手会計事務所出身で経験豊富な公認会計士、税理士スタッフが、日系企業が抱える諸問題を解決するための税務・財務戦略を企画・立案・実施支援しています。
〈連絡先〉
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