チャンスあふれる香港ジュエリーショー

過去最多4550社が出展
~チャンスあふれる香港ジュエリーショー~

2018年のジュエリー・ショーでのジャパン・パビリオンの様子

■宝飾品の取引ハブとしての香港

日本の農水産物・食品の輸出先第1位が13年連続で香港(2017年:約23%、速報値)となっていることは広く知られるようになっているが、実はそれ以上に日本にとって香港が断トツの得意先である貿易品目がある。それが宝飾品だ。

日本の真珠(素材)の輸出は2017年に323億円で、なんとその約8割が香港向けだ。日本で産出されるアコヤ真珠や、海外から日本に輸入され国内で選別作業をされる南洋真珠などは、その多くが香港に輸出・再輸出され、香港を通じて世界へ広がっていく。

一方、完成品ジュエリーも、公式な統計はないが、財務省貿易統計から香港貿易発展局が独自に算出したところによると、その4割以上が香港に輸出されている(2017年:約1260億円)。まさに、日本の宝飾業界にとって香港は最も重要で不可欠な取引先となっているのだ。そして、その取引の主要な舞台となっているのが、香港で開催される国際宝飾展示会である。

■宝飾品市場の「これまで」と「これから」

香港貿易発展局の主催により2月28日〜3月5日に開催された「香港ジュエリーショー」は、前半の5日間は素材・半製品主体の「香港インターナショナル・ダイヤモンド、ジェム&パール・ショー」がアジア・ワールド・エキスポで開催され、後半の5日間は完成品ジュエリーに特化した「香港インターナショナル・ジュエリー・ショー」が香港コンベンション&エキシビション・センターで開催された。足かけ7日間に及ぶこのビッグ・イベントで、世界中から4550社が出展、8万7000人のバイヤーが来場した。9月に開催される同種イベントとともに、世界最大規模を誇り、日本からも両ショー合わせ計354社が出展、過去最多の参加となった。

ところで、香港の小売市場は中国本土の観光客の旺盛な消費の恩恵を受け、2013年までほぼ毎年2桁増で拡大し続けた。特に小売市場全体に占める宝飾品・時計の割合は非常に高く、金製品をはじめとした宝飾品や高額なブランド時計が文字通り飛ぶように売れた。

ところが、さまざまな要因を背景として2014〜16年の3年間はそれ以前の反動もあり、どん底の期間が続いた。宝飾店・時計店は客のまばらな状態が続き、閉店が相次いだ。上述の国際宝飾展示会でも、買い手の意欲が減退したため売り上げが減少する企業が増え、出展取りやめも相次いだ。潮目が変わったのは2016年終盤で、同年12月には約2年ぶりに対前年同月比でプラスに転じた。年が明けた2017年の同展示会では、バイヤーの仕入れ意欲は回復し、多くの出展者から「単価は低いが成約件数は多い」という声が聞かれた。

かくして小売市場でも2017年は通期で前年比2・2%伸び、それをけん引したのが宝飾品・時計だった(5・2%の伸び)。2018年もこのトレンドは続く見込みだ。上述の展示会期間に1300人の出展者とバイヤーに対して香港貿易発展局が実施したアンケート調査によると、2018年通期のジュエリービジネスの見通しについて、33%が「拡大する」、62%が「前年と変わらず」と回答、「縮小する」と答えたのはたったの5%だった。今後は底堅く、突発的な事象がない限り2020年にかけて堅調に推移するというのが業界関係者の一致した見方だ。

■日本出展者の「強み」

日本の出展者が過去最多となったことはすでに述べたが、香港貿易発展局では、日本の関連省庁や業界団体と協力し、日本企業を「ジャパン・パビリオン」としてまとめるように働き掛けてきた。その結果、安心・信頼して商売のできる日本のブースには多くの海外バイヤーが殺到し、会場全体で最も盛り上がるエリアとなっている。真珠はもちろん、完成品も、ジャパン・パビリオンは連日の大にぎわいであった。

これは、長年にわたって日本の宝飾業界がビジネスに真剣に取り組み、本当に良い商品だけを適正価格で提供するという不断の努力により築いてきた信頼あってのことだといえる。前述のアンケートでは、「今年仕入れに特に注力するアイテム」として、500〜1000米ドルの普段使いのジュエリー(回答選択率83%)が選ばれているが、日本円で50万円以上の重厚感のある高額ジュエリーと3万円以下のシルバー素材などの安価なジュエリーの中間のこの領域は、多くの日本の宝飾メーカーの得意分野であるため、現在のマーケットの需要にうまく応えられているのだ。

この傾向は今後ますます顕著になっていくだろう。というのも、今や主要な買い手となった中国本土の消費者は中間層が急拡大し、とりわけ20〜30代の若い世代は情報共有のスピードが速く、また個性をより重視する傾向があり、ファッションアイテムとしてのジュエリーに対する好みはそれこそ千差万別になっているからだ。

この点、日本のメーカーは長引く国内市況の停滞とファッションジュエリー市場の広がりのため、注文の多い消費者の要望に応えることに慣れており、幅広い商品バリエーションを良心的な価格で提供することに秀でているのである。

国内市場の縮小ないし停滞により売り上げに頭を悩ませ、それでいてまだ海外向け売り上げの割合が小さいジュエリー企業は、ひとたび中国本土やアジアに目を向ければ、そこには今後もさらに拡大が見込まれる魅力的なマーケットがあるということを認識していただきたい。何も中国各地やアセアン諸国にわざわざ売り込みに行く必要はない。香港にさえ行けば、世界中のバイヤーとつながることができるのだから。

■成功のための「3つの提案」

一方、展示会というビジネスの場においても、売れる企業とそうでもない企業との明暗がはっきりしてきている。そこで以下の3点を提案したい。

第一に、商品やサービスにおいて他社と差別化を図ること。サプライヤー同士の競争がますます激しくなっている中で、どこでも買える商品をよそと同じ価格で提供しても売り上げを伸ばすことは難しい。バイヤーは非常にシビアになってきており、エンドユーザーに売れるものでなければ手を出そうとしない。

第二に、常にマーケット動向を把握すること。売れ筋や価格相場が急速に変化している中、古い情報を頼りに商品を作り込んでも今のビジネス環境、マーケットに適応できない可能性が高い。大事なのは、最新かつ正確な情報に基づき市場の変化に合わせて臨機応変に素早く対応することだ。

第三に、平時に売れる体制を整えること。展示会期間中に売り上げを最大限つくることは大事だが、より重要なのは、展示会で出会った新規取引先を「お得意さん」に育てるため、展示会後のフォローを欠かさないことだ。よく見受けられるのが、展示会中は通訳もいるし目の前のお客に対し全力で販売しようとはするものの、終わった後、次の展示会までほとんど何のフォローもしない、あるいはコミュニケーションの問題など社内体制が整っていないこと。日頃からコンタクトを密にし、例えば急なオーダーがあった際に迅速に応えてあげたり(時には採算を度外視してでも)、また現地を訪問したり逆に日本に招いてあげたりすることで、強固な関係を築くことができれば、定期的な取引につながるし、売り上げの苦しいときなどに助けてもらうことができたりもする。

繰り返しになるが、香港に行けば、必ずチャンスがある。キャリー・ラム行政長官の言葉を借りるなら、「The best of Hong Kong is yet to come(香港のベストはまだこれから)」なのだ。

(このシリーズは2カ月に1回掲載します)

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