《109》ベトナム不動産投資の実務と留意点(前編)


《109》

ベトナム不動産投資の実務と留意点(前編)
~不動産投資マーケットの現状~

 ベトナムでの不動産投資に注目が集まっている。経済成長を背景に都市部への人口集中が急速に進む中、オフィスや商用施設、住宅をはじめとした都市開発が活発化し、多くの投資家が不動産投資のチャンスをうかがっているためだ。そこで、当地の不動産投資マーケットの状況や不動産投資関連法制、また各種手続きをはじめとした商慣習にスポットを当て、日系企業を含む外国人投資家がベトナムで不動産投資を行うにあたり、留意すべき実務上のポイントを紹介する。
(みずほ銀行 香港営業第一部 中国アセアン・リサーチアドバイザリー課)

はじめに

 ベトナム社会主義共和国(以下、ベトナム)は中国南部と国境を接し、社会主義体制下での政治の安定性や、低廉な人件費といった部分が評価され、チャイナ・プラスワンの本命として多くの日系企業が工場を設置してきた。昨今は、伸長する経済力を背景にサービス業での外資導入も進み、2大都市であるハノイ、ホーチミンのほか、リゾート地として有名な中部のダナンもインフラの整備が進みつつある。このような都市発展の中で、現地デベロッパーのみならず、現地企業と外資との合弁企業(JV)による大規模な不動産開発が各地で活発化しており、オフィスビル、高級マンション、商業施設、ホテルが次々と建設されている。

 ベトナムでは、2015年の不動産事業法や住宅法の改正によって、外国人・外資系企業といった外国投資家による不動産投資規制が緩和されたこともあり、最近では海外の富裕層がベトナムでの不動産投資に注目するのみならず、外資系企業によるベトナム不動産投資の高まりが顕著になっている。一方で、社会主義体制下にあるベトナムでは、外資に開放されている投資分野に制限があることや、土地は国の所有物であるという前提、法律や手続き面における特殊性もある。こうした現地事情から、ベトナムでの不動産投資にあたっては、日本のそれとは異なるものであるという認識の下、その違いを正しく把握し、適時適切に対応できることが重要だ。

 そこで本稿では2回にわたり、ベトナムにおける日系企業による不動産投資の実例を踏まえ、当地における不動産投資実務の全体像をレポートするとともに、日系企業を含む外国投資家にとって留意すべき点についてひもといていきたい。

 前編となる本稿では、投資先としてベトナム国内外から注目を集めるベトナムの不動産投資マーケットの現在についてフォーカスする。

ベトナム不動産マーケット概況

 ベトナム不動産マーケットを概観するにあたり、以下でホーチミン、ハノイ、ダナンの順に紹介する。その理由としては、①南北に長いベトナムでは、気候風土、文化風習、ビジネス環境について地域差が存在することを念頭に、ベトナム全土をバランス良くカバーできること、②いずれも中央直轄市としてインフラ整備が進んでおり、日系企業の進出も盛んな地域として認知度が高いこと、である。ここでは、主に3都市の特徴点を取り上げ、データ取得が可能なホーチミンとハノイについてはオフィスビルの賃料水準や稼働率にも触れながら、ベトナムの不動産投資環境について評価したい。


〈ホーチミン〉

 ベトナム南部に位置するホーチミンは同国最大の経済都市である。同市のGDPはベトナムのGDP全体の20%以上を占め、人口は国内最大の約844万人(都市部 約686万人)となっており、毎年2%前後で人口の増加が続いている。オフィス、商業施設、ホテルは「District1」と呼ばれる同市中心部に集中しているが、人気の高い中心部において開発可能な土地は限られていることから、最近では中心部からやや離れた周辺地域にレジデンスや商業施設の新規建設が進んでいる。今後は2021年までに予定されている地下鉄の開通のほか、橋やトンネルの建設も進み、中心部と周辺地域の連結性が高まることで、市周辺部へと都市が拡がっていくと予想される。かかる中、地場大手デベロッパーだけでなく、外資デベロッパーによる開発も活発化しており、日系企業も日本ならではの高い品質や物件管理のノウハウなどを武器に、高級〜中級の住宅物件を相次いで分譲している。さらに、ホーチミンに隣接するビンズン省では、地場・日本のデベロッパー合弁による大規模な都市開発プロジェクトも進行中で、日本ブランドによる物件開発は各地で好評を博しているようだ。

 さて、ホーチミンのオフィス物件の賃料水準と稼働率については高位安定している。直近2年間の空室率はグレードA物件がやや上昇しながらも足もと6%程度、グレードB物件に至っては安定した推移の中で同3%という非常にタイトな状況となっている。かかる状況を受けて賃料水準はグレードA、Bともに上昇基調にある。この2年間はグレードA、B物件の新規供給が相次いだものの、旺盛な不動産需要がそれを吸収し、非常に需給が引き締まっている。21年までに2件の大型物件供給が予定されているが、現在の強い需要環境は継続し、それらの供給を順調に消化する見通しである。

〈ハノイ〉

 ベトナム北部に位置する首都ハノイは、人口約752万人(都市部約370万人)を擁し、ホーチミン同様、毎年2%程度で人口増加を続けている。元来1000年以上の歴史を有する都市であり、ベトナムの政治の中心として、多くの人を集め、各国政府の出先機関や企業が事務所や支店を構えている。中心部には古くからの趣ある西洋風な低層建築が連なっており、法令により中心部における高層建築が認められていないため、ホーチミン中心部で見られるような超高層ビルは見当たらない。また、ハノイ市当局は中心部の再開発をしない方針としていることから、中心部から離れた市西部〜南部に個別に分散する形で、オフィスやレジデンス、商業施設の開発が進み、小規模な建物群を形成している。そのため、中心部に一極集中しているホーチミンと異なり、ハノイの不動産マーケットにおいては物件同士が競合することがなく、価格上昇が抑えられる半面、新都心の形成に至るような相乗効果を発揮できない状況となっている。しかしながら、好調な経済成長を擁するベトナムの首都ハノイには、現地企業のみならず外資系企業のオフィス需要も根強く、その稼働率や賃料水準は、ホーチミンと比較すると低めではあるが安定している。

 ハノイのオフィス物件の直近2年間の空室率は、グレードA物件が低下傾向を示しながら足もと11%、一方のグレードB物件は16年第2四半期に大きく上昇したものの、その後は安定しており同16%台となっている。賃料水準の推移を見ると、グレードA、B物件ともに安定した推移を示していると言える。この2年間においては、大型のグレードA、B物件の竣工に伴い供給が大きく伸びたが、空室率と賃料水準の推移が示すとおり、順調に消化されている。現地の仲介企業によると、順調なホーチミンの不動産マーケットに遅行する形で、ハノイのオフィス物件やレジデンス物件も一部で賃料が上がり始めている実感もあるとのことから、今後もホーチミンほどの過熱感は無いものの、マーケットは安定的に推移すると考えられよう。

〈ダナン〉

 ベトナム中部に位置するダナンは国内有数の港湾都市であるとともに、内外でリゾート地としても名高い。近隣には世界遺産もあることなどから、主に韓国、中国、日本からの観光客が集い、リゾートホテルが軒を連ね、新規物件の供給も相次いでいる。一方で、周辺部には従来から縫製関係等の製造工場も多くあり、ダナン市投資委員会の話では、投資環境の整備を進め、今後はITや電子部品関連といったハイテク企業も積極誘致を行いたい意向にある。その意味でビジネス拠点としての将来的なポテンシャルと、それに伴う地域住民の生活水準向上も期待される中、リゾートホテル物件のほかに、ビジネスホテル物件や分譲マンションといったレジデンス物件が投資対象として注目を集めている。例えば、現地のデベロッパーによると、現在建築中の分譲マンションについては、各戸の売買予約の段階で早々に完売となり、売買予約の権利が繰り返し転売されている事実が確認されているなど、地域住民をはじめとして大きな購入需要が発生していると推察されている。

 ダナンは、ホーチミンやハノイといった政治・経済面における大都市とは違い、市中に大型オフィスビルが多数見られるといったことはないが、その地域特性からレジデンスやホテルに対する需要は依然根強く、今後も投資家によるレジデンス物件やホテル物件に対する投資環境は良好であると言えよう。

後編では、国内外の投資家がベトナム不動産市場への投資機会をうかがう中、すでに不動産投資を行ってきた外国投資家はどのように投資を行っているのか、日系企業の事例を交え、不動産投資実務と留意すべきポイントについて紹介したい。

(このシリーズは月1回掲載します)

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