香港貿易の核を担うエレクトロニクス関連製品

香港貿易の核を担う
エレクトロニクス関連製品
~世界レベルの展示会に注目~

簡素な展示カウンターが並ぶ「スタートアップ・ゾーン」(香港エレクトロニクス・フェア(秋)にて)

 香港は域内総生産(GDP)に対する貿易額の割合を示す「貿易依存度」が319%と、2位のシンガポール(同217%)を大幅に上回る世界一の貿易センターです(2016年実績。グローバルノート調べ)。2017年の製品貿易を見ると、1〜11月期の貿易総額は7兆4521億香港ドル(約106兆3009億円)と、日本の国家予算をも上回る規模に達しました。この膨大な製品の輸出入の大部分を占めるのが「電動機械・装置・工具および電子部品」「通信機器および録音音響設備・装置」「オフィス機器および自動データ処理機械」といった3つの品目で、これらだけで同期の貿易総額の63%(輸出総額の66%、輸入総額の61%)を占めました。

出所:香港政府統計局 *香港ドル=約14.3円で換算

 香港には、こうした品目を使用した製品群の大規模な生産拠点は皆無ですが、隣接する広東省を中心とした華南地域には、世界中のエレクトロニクス関連製品の生産拠点が集積しています。このため、同地域で使用される部品類の輸入窓口として、また同地域で生産される製品類の輸出窓口として、香港が活用されていることが、こうした貿易統計に反映されています。

 香港貿易発展局は現在、展示会を年間37本、国際会議を年間8本開催しています。この中には業界内で世界最大規模の展示会も少なくなく、毎年10月に開催しているエレクトロニクス製品展示会『香港エレクトロニクス・フェア(秋)』および同一会場で同時開催するエレクトロニクス部品展示会『エレクトロニック・アジア』も、そうした展示会の一つに数えられます。最新の先端技術を駆使した製品を発表する世界最大の家電展示会『CES』のように、世界中のメディアから大々的に注目される派手さはありませんが、日系の大手エレクトロニクスメーカーや自動車メーカーをはじめ、世界中の大企業が参加し、中国本土、香港、台湾、韓国などアジアの出展者を中心に、両展示会には毎年、計4000社・団体以上がブースを構え、世界中から集まる9万人近いバイヤーと熱い商談を繰り広げます。

日本のベンチャー起業家も驚くスピード感

 『香港エレクトロニクス・フェア』は、毎年4月にも開催されます。4月には情報通信技術の展示会である『インターナショナルICTエキスポ』が同一会場で同時開催されます。IoT(モノのインターネット)技術を駆使し、ネット接続型家電を企画・開発するスタートアップ企業、Cerevo(セレボ)の岩佐琢磨代表取締役CEO(最高経営責任者)は毎年、春か秋の香港エレクトロニクス・フェアのいずれかに足を運ぶと言います。2017年秋にも社員と共に来場し、多くの出展者と商談を重ね、新たな部品調達先や製造委託先の開拓に励みました。

 岩佐氏にお話をうかがった所、香港エレクトロニクス・フェアで出会う出展者の最大の魅力は、決断や実行といった対応の早さ、フットワークの軽さだそうです。「サンプルが欲しい」「見積もりを出して欲しい」「工場を見せて欲しい」——―。人づての紹介もなく、会場内のブースで初めて言葉を交わした相手でも、とんとん拍子で話が進み、4日間の会期の後に、そのまま隣接する深センなどの近郊にある本社や工場を訪れ、より詳しいビジネスプランを練ることも珍しくないとのこと。社内での承認や合意形成に時間が掛かり、慎重で丁寧ながらも遅々として話の進まない企業などに比べ、香港でのスピーディーな仕事運びは快適な様子です。

海外勢にも開放されたスタートアップ・ゾーン

 一方、香港でビジネスを展開する上で問題となるのが賃料の高さ。大手不動産会社などの調査ではオフィス賃貸料の高さは世界一となっており、人件費などと合わせた固定費は、創業まもないスタートアップ企業には大きな負担となります。香港政府はこうした事態を重視し、2017年2月に発表した2017年度予算案の中でも、地元スタートアップ企業への支援を継続する方針を示しました。

 香港貿易発展局もこれに従い、各種展示会において、標準的な出展ブースに代わるカウンター形式の簡素なスペースを「スタートアップ・ゾーン」として提供しています。2017年秋のエレクトロニクス・フェアでは、前年の2倍となる約100社が同ゾーンに出展しました。地元企業ばかりでなく、日本を含む世界6カ国・地域からの海外企業が出展していることが、国際色豊かな本フェアの特徴をよく表しています。

 昨年10月のフェアでは、仮想現実(VR)、ロボティクス、スマートテック、3Dプリンターなどが旬のテーマとなりました。香港は現在、科学技術やイノベーションの発展に力を入れており、フィンテックやスマートシティといった最新トピックに関するニュースが増えています。2018年4月のフェアでは、また新たなテーマに注目が集まると期待されます。皆さまもぜひ一度、世界レベルの展示会に足を運んでみてください。

(このシリーズは2カ月に1回掲載します)

桑田靖章(くわた・やすあき)
 香港貿易発展局 東京事務所マーケティングアシスタント・プロジェクトチームリーダー。1998年 大阪大学大学院基礎工学研究科修了後、大手OA機器企業に入社。その後転じた大手医療機器企業、大手IT企業を通じ一貫して研究開発、商品企画、事業企画を兼ねた新規事業の立ち上げに従事。20159月に香港貿易発展局に転じ現職。中国及びアジアへの企業進出支援業務に従事。工学修士。

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