〈80〉休眠・清算・抹消の手続き

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 月1回のこのコーナーでは、香港・日本・中国等を中心とした税金等に関する問題についてご紹介させていただきます。近年、日系香港進出企業の中には、既存組織または既存事業のストラクチャーを見直し、グループ全体最適を考慮した結果として休眠、会社清算または登記抹消を選択する会社も少なからず出てきています。今回は、その手続きについて概要をご説明させていただきます。

休眠・清算・抹消の手続き

休眠とは

休眠とは、会社を存在させながら、営業活動を一時的に休止させる方法であり、香港会社法で定められた制度です。私的有限責任会社は、会社の会計取引が生じない状態であれば、株主総会の特別決議を行い、会社登記所にその決議書を届出ることにより、いつでも休眠会社としての地位を取得できます。ただし、香港会社法第447条によると、民間企業でない、または第5条(7)の例で定める銀行、保険会社、証券業登録会社等の会社には適用されません。ただし、会社の登記内容に変更が生じた際には、取締役および会社またはその細目の変更を会社登記所に報告することが求められます。さらに、休眠中の会社は、内国歳入庁(以下、IRD)が要求する場合には、年間の事業登録料を納付し、税務申告書を提出する必要があります。

会計取引が生じない状態とは、373条によると、会計処理すべき取引、例えば金銭の入金・支払、物品の販売・仕入または資産・負債の変動が一切発生しない状態のことを言います。したがって、銀行預金口座も閉鎖し、受取利息または口座管理料等が発生しないようにしておく必要があります。

休眠会社となると、その銀行口座での入出金や利息収入などが一切認められなくなりますが、会社秘書役と商業登記証の更新が毎年必要となります。

会社法上の休眠会社となった場合は、定時株主総会の開催・年次報告書の会社登記所への提出・監査人の任命および監査済み決算書の提出義務は免除されます。このように、休眠中は法人の維持運営コストが削減できるため、香港法人を存続するかどうかを検討している会社や、当面は社名や銀行口座を保存しておきたい会社が一時的に休眠手続を利用することがあります。

IRDから数年に一度、事業所得税申告書および雇用主支払報酬申告書が会社あてに送付されてきますので、こちらには「該当なし」である旨を記載して回答する必要があります。

会社清算とは 

会社清算には任意清算と裁判所による強制清算とがありますが、ここでは株主よる任意清算について説明致します。

株主による任意清算は、株主によって香港法人を消滅する手続となります。会社が清算開始時点で資産超過の状況にあり、清算開始後1年以内にすべての債務を完済することが可能であると取締役が判断した場合に、株主による任意清算を行うことができます。所要期間は、通常1年から1年半程度となります。

清算事前準備として、まず取締役は債務残高を支払う十分な資力があるかにつき事前に確認を実施します。また、債権超過の場合には、清算開始前に可能な限り、増資や債務免除等により債務超過を解消することが望まれます。

・清算手続
 取締役会を開催し、清算日から12カ月以内にすべての債務を返済するという内容の支払能力証明書の承認を受ける必要があります。また、臨時株主総会による特別決議を経て、清算人任命がされます。清算開始および清算人任命にかかる官報公告を実施、会社登記局へ書類を提出した後、税務局からタックスクリアランスレターを入手し、残余財産の確定・分配という流れとなります。

あとは、清算報告書を作成し、最終株主総会を開催すれば、最終株主総会議事録および清算報告書を会社登記局へ提出した日から3カ月後に清算完了します。

登記抹消

登記抹消は、会社法第750条による簡便な会社閉鎖方法で、条件を満たせば清算人を選任せずに全株主の承認で申請可能です。

申請の条件としては、全株主が登記抹消に同意しており、設立後、まったくビジネスを始めていない、あるいはビジネスを停止してから3カ月以上経過していること、および一切の負債がないことが求められます。

実際の手順としては、登記抹消申請を税務当局へ提出して、税務当局より未払いの税金がないことを確認し、抹消を承認する「タックスクリアランスレター」を入手後、タックスクリアランスレターとともに登記抹消申請書類を会社登記局へ提出します。会社登記抹消に係る官報公告後、3カ月以内に異議申し立てがなければ登記抹消完了となります。

ただし留意点としては、会社の登記抹消がなされた場合にも、会社の株主・取締役等の債務は、会社が存続している場合と同様に存続することが挙げられます。また、登記抹消時に会社が保有しているすべての資産・権利は、持ち主が消滅したとみなされ、自動的に香港特別行政区の所有物となります。登記抹消認可後20年間は、債権者等が裁判所に申し立てを行い、裁判所がそれを認めた場合には、登記官は登記抹消認可の取り消しを行い、再度登記させる可能性があります。
(このシリーズは月1回掲載します)

筆者紹介
フェアコンサルティング(香港)
東京、大阪、香港、上海、蘇州、台湾、ベトナム、フィリピン、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、インド、メキシコ、オーストラリア、ドイツを拠点に多数のグローバル企業のサポートを行っているフェア コンサルティンググループの香港拠点。同グループは国税当局や大手会計事務所出身で経験豊富な公認会計士、税理士スタッフが、日系企業が抱える諸問題を解決するための税務・財務戦略を企画・立案・実施支援しています。
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Manager  山口和貴
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