香港は中国を転覆させる基地?

香港は中国を転覆させる基地?
張り紙事件から見る言論の自由の裏にあるもの

ケリー・ラム(林沙文)
(Kelly Lam)教師、警察官、商社マン、通訳などを経て、現在は弁護士、リポーター、小説家、俳優、慈善歌手と多方面で活躍。上流社交界から裏の世界まで、その人脈は計り知れない。返還前にはフジテレビ系『香港ドラゴンニュース』のレギュラーを務め、著書『香港魂』(扶桑社)はベストセラーになるなど、日本の香港ファンの間でも有名な存在。吉本興業・fandangochina.comの香港代表およびfandangoテレビのキャスターを務めていた

 

前回は、9月に特区政府教育局の蔡若蓮・副局長の息子が自殺したことに対し、ある男性が大学構内の民主の壁(学生が個人的な意見や発言を自由に張れる掲示板)に「息子が亡くなっておめでとう」という張り紙をしたという事件について、市民や議員らの意見を例に挙げて解説しました。今回はこの事件の背景には何があるのか、お話ししましょう。

張り紙をした男性はその当日、「香港独立」という文字が書いてあるTシャツを着ていたそうです。彼は昔、城市大学の学生だったという蔡佩強さん(23歳)で、反中国派政党のメンバー、香港独立を応援するメンバーの1人です。この張り紙事件が発生したのとほとんど同時期にいくつかの別の大学で、香港独立のポスター、スローガンが校内の掲示板に張られました。反中国運動がまた動き出し、大学と政治が衝突することになったのです。

9月中旬、大学10校が連名で、「大学の学生会(STUDENT UNION)は、『香港独立』という発言やスローガンのポスターを掲示版に張ることには反対するけれど、言論の自由という権利から討論・発表・発言はしても問題ない」という立場を表明しました。「香港独立」は応援しないけれど、人権、民主、言論の自由を応援するというスタンスです。

香港中文大学の沈祖堯・学長ははっきりと「その香港独立のような文字、ポスターを外す」とアピールをしたけれど、その一方で学生会は明確な立場で「外してはいけない!」と主張しています。大学と学生会の衝突はやがて言論の自由の戦争になるということを私は確信しています。


表向きは言論の自由を応援

もし自分たちの国だったら絶対「独立」を許せないという欧米の国々でも、表向きは言論の自由を応援するふりをしつつ、裏では独立闘争を応援している国がきっとあると思います。張り紙事件は、政府、大学、学生、政治家、議員、評論家による人権戦争の幕開けとなったというだけでなく、中国本土の学生や現在香港の大学で勉強している本土の学生にも影響し、これからきっとこんな事件に全面的に介入、参加する人が増えると思います。

事件の後、民主の壁に「中国の劉暁波が亡くなり、劉霞(劉氏の妻)が永久にわが党に監禁されることにおめでとう」という張り紙が出ました。内容を見ると、中国を応援する人がやったことでしょう。でもこれもまた同じように冷血な発言であることは間違いないです! 中国人が中文大学の民主の壁に「こんなに恥をかいても、香港独立の真似をするのか!」という簡体字のポスターを張るという事件も起きています。言うまでもなく、その張り紙をした人は中国を応援し、香港独立運動に反対する人間だと思います。しかし、こうした行動から衝突が起きました。

その現場を携帯電話で録画したものがウェブ上で流れています。世界中の広東語がわかる人間ならば意味が分かってしまう、香港と香港人に完全に恥をかかせるような映像です。衝突というより、むしろ香港学生が現場で一方的に広東語の大変下品な言葉で中国人相手にどなっています。「広東語を話せ! 香港にいるのに広東語知らないの? 中国に戻れ!」と大声で叫びました。その人物は中文大学学生会の前会長、周堅峰(Ernie Chow)さんです。会長でもこんな下品な相手を攻撃する言葉を公然に発してしまうのです。

香港特区政府が犯したミス

「香港独立運動」はセントラル占拠運動と同じ、一国二制度を定めた香港基本法に違反する行為です。ミニ憲法である基本法に違反しても香港では罪になりません。香港の法律に違反しないと刑事罪になりませんが、香港独立運動が別の刑事犯罪を引き起こせば罪になります。例えば発言が社会の治安を乱したなら刑事罪になるといわれています。セントラル占拠運動は香港大学の戴耀廷(ベニー・タイ)副教授の新聞への投稿からスタートしましたが、そのときに香港特区政府は何の法的な行動もしませんでした。このため最終的に本当に占拠運動が実現されてしまいました。今の様子を見ると、政府も議員も評論家もいつも香港独立は違法だと言うばかりで、何の法的措置も取らないから、近いうちにまた香港独立運動が大きく動き出しても全然不思議ではありません。セントラル占拠運動のときと同じように政府はまた大きなミスをする可能性が高いと思います。

ある米国の評論家が、例えば米国で差別が発生するならいつも違う人種、例えば白人と黒人の人権差別があるが、「おめでとうの張り紙」を出した人物のように自分と同じ中国民族の中国人を差別するのは異常なことである、という発言をしました。この評論家の意見に賛成する私は1998年11月13日発行の香港ポストに、「香港人は、返還前は多国籍、返還後は無国籍!」というテーマでコラムを載せたことがあります。そのときからすでに香港人が中国国籍に複雑な気持ちを持つことを分析していて、「香港人は世界中で唯一、自分と同じ民族の中国人を差別する人間である」ということを書きました。これからの香港はきっと妖怪都市よりもっと悪化して、最悪の底まで落ちてしまうことは間違いないでしょう。

反中国を応援するのは…

ほかにも激しい事件は続きました。2014年に政府本庁舎に暴力的に侵入した容疑で有罪判決を受けた学生組織の代表3人、黄之鋒さん、羅冠聡さん、周永康さんは、今年9月末に上訴し、禁固6カ月から8カ月の判決となりました。今までいつも民主の主張にかかわる犯罪には軽い刑罰が言い渡されていた香港裁判でしたが、最近は重い刑罰に処したり、すぐに収監する姿勢がようやく見えてきました。しかし、そろそろもっと想定外の大問題が発生すると思います。

3人が犯人よりヒーローになるのは時間の問題です。米英などの法曹界関係者12人が連名で公開書簡を発表し、3人の量刑見直しは一事不再理の原則に反することや公安条例が基本的権利を過度に制限しているなどと批判しました。セントラル占拠運動は和平のデモだから、判決は重すぎるというのです。重すぎる判決は人権・言論の自由に反すると主張しています。周永康さんが学ぶLONDONSCHOOL OF ECONOMICS(LSE)も、周さんが学業を完了することをサポートするという声明を発表しました。

要するに、学生がもし将来、民主・人権の主張にかかわる罪で有罪判決になった場合、英米の有名大学の協力や応援で留学できたり、卒業できたりするのです。英米両国も香港が中国を転覆させる基地になることを楽しみにしていると思います。反中国の学生エリートを養成して、香港で毎日のように政府と中国に挑む行為をするなら、それはきっと英米政府が喜び、期待することでしょう。香港にはすでにしっかり中国の政権に挑戦し、転覆させようとする文化、基地が出来上がっているから、これこそ今後中国の最大の悩みだと思います。そこに気が付かなかったら、それこそ中国、香港両政府の最大のミスと言えます!


ケリーのこれも言いたい

学生の間では、すでに香港学生と中国学生が対決する時代がやってきた。言論の自由と人権のためという建前の下では、相手をひどく中傷してもあまり問題がないような世の中にだんだんなってきた。毎日、非常識な行動、筋が通らない弁論、論争、ケンカが起きている香港が妖怪都市から「悪魔の都市」になるのは時間の問題だ。

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