林鄭長官、初めての施政報告、住宅・税制で新措置

林鄭長官、初めての施政報告
住宅・税制で新措置

林鄭月娥・行政長官は10月11日、就任後初めてとなる2017年度施政報告(施政方針演説)を立法会で発表した。「互いにつながり、希望と幸せを求める」と題し、経済発展、イノベーション・科学技術、クリエーティブ産業、土地・住宅、医療・衛生、高齢者・弱者支援・民生改善、労働者の権利、教育、青少年育成などに関する政策を柱としている。行政長官選挙時に林鄭長官が掲げた政権公約(マニフェスト)を基本とし、中流層向けの住宅供給措置「港人首置上車盤」や法人税の2段階制導入などが目玉政策として打ち出された。(編集部・江藤和輝)

施政報告の発表後に記者会見を行った林鄭月娥・行政長官

今回の施政報告では従来行われてきた立法会での全文朗読が取りやめられた。275項目約5万字に及ぶ施政報告は全文朗読すれば4時間を要する。このため立法会での発表は1時間以内で重点を述べるにとどめ、発表後の記者会見とフォーラムの時間を延長した。行政会議の陳智思・召集人は、この慣例変更は行政会議メンバーから提案され林鄭長官が受け入れたことを明らかにした。

経済発展に関しては法人税の2段階制実施などを説明。企業の利益のうち200万ドルまでの課税率は現行の16・5%から半分に当たる8・25%に引き下げられる。特に中小企業に恩恵を集中させるため、この低税率は1つの企業グループのうち1社だけが認められることとする。さらに企業の科学技術研究投資を促進するため、研究開発費のうち200万ドルまでは税金を300%控除、残りについては200%控除。これら新税制は2018年中に実現する。

また経済政策の方向性として、高付加価値と多角化を目指し、イノベーション科学技術やクリエーティブ産業などの新分野を開拓、「一帯一路」と「粤港澳大湾区」によるチャンスを生かすと言及。年末までに国家発展改革委員会との間で香港が「一帯一路」建設に参入する全面的な協定に調印するほか、「一帯一路」弁公室の人員を拡充、特区政府と香港貿易発展局による「一帯一路」サミットを毎年開催することなどが挙げられた。

注目されていた中流層向けの住宅「港人首置上車盤」については来年半ばに詳細を発表。まず観塘にある住宅用地をパイロットスキームとして約1000戸を供給する計画だ。これもマニフェストに盛り込まれていたもので、分譲型公共住宅と民間開発物件の間の位置付けで中流層が負担できる物件を供給するもの。対象は住宅物件を購入したことのない永住者で、収入条件は単身が月収2万6000〜3万4000ドル、2人以上の世帯は月収5万2000〜6万8000ドルとなる。分譲型公共住宅の対象者の申請資格上限とその約30%増の間で設定されている。民間との共同開発となり、90%以上のローンが組めるが、5〜10年は転売できないなど厳しい制限が設けられる。

また住宅措置では、公共住宅の入居待ちとなっている低所得層などに過渡的な住居を供給するため、民間主導の合法で合理的価格の「極狭アパート」供給を後押しする。特区政府と香港社会服務連会(社連)が9月に発表した「社会房屋共享計画」もその1つ。同計画は試行期間3年、空室となっている住宅物件500フラットを集めて1000世帯に住居を供給することを目標としている。ほかにコンテナ・アパートなど非営利組織による簡易住宅の建設も支援する。

施政報告の主な内容

①経済発展
・国家発展改革委員会と「一帯一路」の協定に調印
・「一帯一路」サミットを毎年開催
・企業の利益のうち200万ドルまでの課税率を16.5%から8.25%に引き下げ
・企業の研究開発費のうち200万ドルまでは税金を300%控除、残りについては200%控除
・香港会展中心に隣接する政府庁舎3棟を展示会場に再開発

②イノベーション・科学技術
・深圳市と落馬洲河川敷の「港深創新及科技園」を共同開発。粤港澳大湾区の開発・協力を通じて国際的なイノベーション科学技術ハブを創出
・「創科創投基金」の20億ドルを利用してベンチャーキャピタルと同額出資で新興企業に投資

③土地・住宅
・公共住宅住民だけを販売対象にした住宅物件の供給拡大
・中流層向けの住宅物件「港人首置上車盤」を供給
・民間主導の合法的「極狭アパート」供給を後押し

④高齢者・弱者支援・民生改善
・「低所得在職家庭手当」を来年4月から「在職家庭手当」に改称し対象者を拡大する
・収入審査なしの公共交通費用補助計画

⑤教育・青少年育成
・中学校での中国史の必修化
・青年発展委員会の設置
・「政策創新与統籌弁事処」に非公務員の若者20〜30人を招へい
・中国本土や「一帯一路」地域へのインターンシップの機会拡大

最多キーワードは「青年」

民生改善策として盛り込まれた「収入審査なしの公共交通費用補助計画」も今回の目玉とされる。林鄭長官はマニフェストで、政府が得ている香港鉄路公司(MTRC)の配当を運用して低所得層の交通費負担の軽減を検討すると述べていた。運輸及房屋局と3カ月の検討を経て同計画を打ち出した。毎月の公共交通費が400ドルを超える市民に対し超過分の25%を300ドルを上限に補助するものだ。

梁振英・前行政長官が以前、施政報告で「香港独立」宣揚を厳しく非難したことが独立派を刺激したのを受け、林鄭長官は施政報告が政治化することを避けるため「独立」の2文字には全く触れていない。ただし冒頭で「われわれ香港を愛する者はみな1国2制度を正確な方向に沿って前進させる責任がある。国家の主権、安全、発展の利益を損なう行為に対しノーという責任がある。国家観念を備え、香港への愛着を持ち、社会に対し責任を持った次世代を育成する責任がある」と述べている。

今回の施政報告で最も多く登場するキーワードは「青年」の77回。次いで「房屋」(住宅)の39回、「一帯一路」の34回、「粤港澳大湾区」「大湾区」の28回となっている。政務長官主宰による青年発展委員会の設置、特区政府のブレーンに当たる中央政策組を改組する「政策創新与統籌弁事処」に非公務員の若者を招へい、中学校での中国史の必修化など、昨今の社会状況をかんがみて青少年対策に躍起となっていることがうかがえる。

Share