IFRS第17号「保険契約」の概要


前回(2017年6月9日号 No 1480)は、IFRS第4号「保険契約」における2つのアプローチを紹介しましたが、本稿では、その続きとして、保険契約の新会計基準であるIFRS第17号「保険契約」の概要について解説します。2017年5月、国際会計基準審議会(IASB)からIFRS第17号「保険契約」が公表されました。前回解説しました現行基準であるIFRS第4号「保険契約」は、IFRS第17号が完成するまでの間の暫定的な基準でありましたが、一方で保険会社の財務状態、業務成績、およびリスク・エクスポージャーの理解・比較を困難にしているという課題もありました。そのため、IASBは、保険者が保有する再保険契約を含めたすべての種類の保険契約の会計処理に関するフレームワークを提供し、保険者間の財務情報の比較可能性を高めるために、IFRS第17号を公表しています。なお、本基準は現行のIFRS第4号を置き換えるものであり、2021年1月1日以後開始する事業年度から適用されます。

(デロイト・トウシュ・トーマツ香港事務所 小間田 春彦)

⒈保険契約の定義

企業は、発行する保険契約、再保険契約および保有する再保険契約、ならびに(企業が保険契約を発行している場合であって)裁量権のある有配当性を伴う投資契約に対して、本基準を適用することになります。本基準では保険契約・再保険契約を次のように定義しています。

・保険契約:一方の当事者(発行者)が、他方の当事者(保険契約者)から、特定の不確実な将来の事象(被保険事由)が保険契約者に悪影響を及ぼす場合、保険契約者に補填することに同意することにより、重要な保険リスクを引き受ける契約

・再保険契約:ある企業(再保険者)が他の企業の発行した1つまたは複数の保険契約から生じる保険金について、補填するために発行する保険契約

⒉認識および認識の中止

企業は、発行した保険契約について、次の時点のうち、最も早い時点で保険契約グループを認識します。
a保険契約によるカバー期間の開始時点
b保険契約者の最初の支払期限
c保険契約が「不利な契約」となった時点

保険契約の条件が変更された場合、その変更が具体的な規準を満たす実質的な条件変更である場合には、企業は原契約の認識を中止するとともに、条件変更後の契約を新規契約として認識しなければなりません。また、保険契約が消滅あるいは実質的に条件変更された場合には、保険契約の認識を中止しなければなりません。

なお、「不利な契約」とは、保険契約の当初認識時において、履行キャッシュ・フロー、以前に認識されたキャッシュ・フローおよび当初認識日に保険契約から生じたキャッシュ・フローの3つの合計が、企業から流出する額が、企業に流入する額よりも大きくなる(正味アウトフロー)ような保険契約をいいます。企業はこの不利な「契約グループ」の正味アウトフロー額を損失として認識します。

⒊保険契約の集約

企業は、同様のリスクを有しており、かつ一括して管理されている保険契約群をポートフォリオとして識別します。また、ポートフォリオに含まれるすべての保険契約について、企業はその保険契約を次のグループに分割します。

・当初認識時に不利である契約グループ
・当初認識時に不利となる重大なリスクがない契約グループ
・ポートフオリオに残存する契約クループ

企業は、上記のグループ以上にポートフォリオを細分化することが認められています。なお、発効日が1年以上離れた保険契約を、同じグループ内に含めることはできません。

⒋測定アプローチ

保険負債の測定は、原則的な方法であるビルディング・ブロックアプローチ、ビルディング・ブロックアプローチの簡便法である保険料配分アプローチ、および変動手数料アプローチ(後述する直接連動の有配当保険契約が該当)によって行われます。

⑴ビルディング・ブロックアプローチ
履行キャッシュ・フローと契約上のサービスマージン(Contractual Service Margin、以下CSM)の合計金額で保険契約グループを測定します。

⑴—1履行キャッシュ・フロー
履行キャッシュ・フローは、将来キャッシュ・フローの見積り、貨幣の時闇価値の調整、並びに非財務リスクに係るリスク調整で構成されます。その測定にあたって、企業はグループにおけるそれぞれの契約において、「契約の境界の範囲内」にあるすべてのキャッシュ・フローを含めます。

⑴—2 CSM
CSMは、a当初認識時の履行キャッシュ・フローに係る金額、bカバー期間前の保険獲得キャッシュ・フローとして認識された資産・負債の認識の中止、c認識時点の保険グループにおける契約から生じるキャッシュ・フローの金額から構成される金額で測定されます。CSMは保険契約グループの未稼得利益を表すものであり、企業が将来のサービスを提供するにつれて認識されます。

⑵保険料配分アプローチ
保険料配分アプローチとは、ビルディング・ブロックアプローチの簡便法であり、保険の当初認識時において、保険料配分アプローチによる測定値がビルディング・ブロックアプローチの近似であると合理的に予想できる場合、またはグループ内の各契約のカバー期間が1年以下である場合には、保険負債の測定を簡便化することが認められています。

⑶変動手数料アプローチ
保険者の投資リターンを保険契約者に配当するような有配当保険契約のうち、基準をすべて満たした契約については、直接連動の有配当保険契約に該当することとなり、変動手数料アプローチによる測定が行われます。

変動手数料アプローチはビルディング・ブロックアプローチを一部修正するものであり、将来のサービスに対する変動手数料を表す基礎となる項目の企業の持分変動額を反映するようにCSMを修正するといった修正点があります。

⒌財務諸表の表示・開示に関する留意点

財務諸表を作成する際には、次の点について、表示・開示上留意する必要があります。

⑴財政状態計算書における表示
企業は保険契約にかかる権利および義務について、グループの帳簿価額を下記の区分に従って表示することになります。

a資産に計上された発行した保険契約
b負債に計上された発行した保険契約
c資産に計上された保有する再保険契約
d負債に計上された保有する再保険契約

⑵包括利益計算書の認識と表示

企業は、包括利益計算書に認識される金額を、保険サービス損益と保険財務収益・費用に区分します。また、保有する再保険契約から生じた収益または費用は、発行された保険契約の収益または費用と区分して表示することになります。

保険サービス損益は保険収益および保険サービス費用から構成されます。企業は、発行した保険契約のグループから生じる保険収益、企業が発行する保険契約から生じる保険サービス費用(発生保険金とその他の保険サービス発生費用から構成される)を表示することになります。なお、保険収益および保険サービス費用は、投資要素のある金額を控除する必要があります。

保険財務収益・費用については、保険財務収益または費用のすべてを当期の純損益に含めるか、または純損益に表示される金額とその他の包括利益に表示される金額に分解するかどうかを、会計方針として選択することができます。

⑶その他留意点

企業は、a保険契約から生じる財務諸表で認識された金額、b重要な判断およびこれらの判所についての変更、c保険契約から生じるリスクの性質と程度について定性的および定量的な情報を開示しなけれはなりません。また、本稿では割愛しますが、縫過措置に関連する広範な開示も要求されています。

⒎終わりに

IFRS第17号によって、すべての種類の保険契約の会計処理に関するフレームワークが策定されました。本基準では保険契約をポートフォリオ、グループに集約する必要があるほか、毎期保険負債を再計算する必要があり、開示についても要求事項が広範囲に及んでいます。適用開始日が2021年であることから、保険会社ではおよそ3年の導入期間がまだありますが、その影響は広範囲に渡っていることから、要求事項の整理およびその対応については、早期の検討開始が望まれます。

(このシリーズは月1回掲載します)

筆者紹介
小間田 春彦(こまだ はるひこ)
Deloitte Touche Tohmatsu香港事務所 
金融サービスインダストリー

2012年2月、有限責任監査法人トーマツ東京事務所に入所後、主として国内、外資系金融機関の監査業務に従事。2016年9月からデロイト香港事務所に出向し、主に日系金融機関などに対する監査業務などを提供している。
連絡先:hkomada@deloitte.com.hk
サイト:www.deloitte.com/cn
※本記事には私見が含まれており、筆者が勤務する会計事務所とは無関係です。

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