《114》 優しさあふれる獣医師

1匹でも救えたら僕は幸せ

患獣を抱くユー先生(筆者撮影)

 私は久々にインタビューをしながら涙が出そうになった。なぜなら、あまりにも質問への回答が真摯で純粋なものだったから。それは、いつもお世話になっている湾仔のアニマルクリニックのユー獣医師。たまに顔は見かけるがいつもはポール獣医師が担当のためにゆっくり話す機会がなかった。でも、私は最初に彼が担当してくれた2年前、近所のお婆ちゃんの愛犬ウォンの最期を看取ってもらった時にいつか話を聞きたいと思っていた。

 もちろんユー氏は覚えていないだろうけれど、患獣待合室で診察を待つ中、彼は、お婆ちゃんがウォンと最後の話をしているときに、「ゆっくりして。準備ができたら呼んでね」と部屋を開けてくれた。お婆ちゃんと息子のようにかわいがっていたウォンの時間を尊重してくれたのだ。この話をユー氏にすると、「僕はどんなにクリニックが混んでいようと、最期の大切な時間はとってあげたいと思っているよ。もし診察室を次の患者さんに空けなくてはいけなかったら、別の場所を探す。それが僕に出来ることだから」と。その時に彼の眼には人間としての優しさを見て取れた。

 さて、どうして獣医さんになったのかと聞くと、7歳の時に母親と街市(公設マーケット)にいった時、子犬がチョロチョロと彼らの後をついて回ったのだとか。その時、本当に動物が好きだと感じ、大人になったら動物にかかわる仕事をしたいと思ったという。大学では動物学を専攻。その後、動物愛護協会の飼育係、ペットショップなどの仕事に就いたけれど、やはり獣医になりたいのだ! と気づいた。そして、オーストラリアの獣医学部に入り、言語や文化の壁を超えて夢をかなえた。

 獣医師は忙しいので私生活で動物と暮らすのも大変なのに、猫を2匹育てているそう。1匹は12歳で、もう一方の5歳の子は、以前ニュースにもなったが、子猫の時におもちゃの拳銃のBB弾で打たれて保護された猫だ。やはりそのトラウマで怖がりだけれど、ユー先生のご両親にハグされたりキスされたりして家の中ではすっかり甘えん坊。先住猫さんとも抱き合って寝るほど。

 さて、獣医師をしていて患者さんとの間でチャレンジングなことはありますか? と聞くと、ネットで調べた情報を獣医師に押し付け、自分の考えが正しいと思って間違った情報で挑戦してくる飼い主さんたちだという。

 最後に人生の目標を聞いてみた。「特にないけれど、100匹の患獣がいて1匹でも救うことができたら僕は最高に幸せなんだ」と素敵な答えを聞くことができた。

Share