青森県知事 三村申吾氏インタビュー

 現在、台湾、香港などアジアを中心にグローバルな市場拡大を推進している青森県。安心・安全性が高く、新鮮な農産物の市場を拡大し、まさに「攻めの農林水産業」に取り組んでいる。こうしたなか海外での同県産の農林水産物の認知度が上がっているだけでなく、観光客数も伸びている。7月に行われた一般社団法人東北観光推進機構主催による「香港・ 日本東北交流懇談会2017」のため来港していた青森県知事・三村申吾氏に県の政策とグローバル戦略について話を伺った。

青森県の三村申吾・知事とインタビュアー

——青森県は「攻めの農林水産業振興」を政策目標に掲げていますが、具体的にどのようなものでしょうか。

 生産から販売・流通までを結び付け、収益性のアップを図ることを基本とし、県産農林水産物や加工品を売り込む、また販売を重視する農林水産業の振興策を指します。一言でいえば「青森県産品を、売って、売って、売りまくること」です。私自らがどこにでもセールスに行きますし、県産品や生産者に精通した職員が、バイヤーの皆様からの様々なリクエストに即時に対応し、両者をマッチングさせ、取引の拡大につなげています。

 実際、平成27年の青森県の農業産出額は、19年ぶりに3000億円を突破し、全国順位が過去最高の7位、東北では12年連続の1位、品目別では野菜、果実、養鶏が過去最高の産出額を記録するなど、本県農林水産物の生産は総じて良好で、価格も高値で推移しています。

 もちろんそのためには、買い手に信頼される高い品質の県産品を生産する必要があり、三つの基盤である「きれいな水」「健康な土」づくり、そして高い技術と経営感覚に優れた「人財」づくりに力を入れています。

 政策のひとつに農林水産物の輸出振興もありますが、輸入農産物の増加や産地間競争の激化などに伴い低迷し続けている農林水産物価格を安定維持していくためにも、高品質の県産農林水産物の販路拡大していくために海外市場の開拓に力をいれています。

——こうしたなか2015年にスタートした、青森県とヤマト運輸が中心に取り組んでいる新たな輸送サービス「A!Premium(プレミアム)」ですが、このサービスの活用により青森県から海外への農林水産物の輸出が活性化しているそうですね。

 A!Premiumのサービスを開始する前は、青森県から翌日午前中に配送できるエリアは、東北地方全体と北海道の一部、人口カバー率では7・5%にとどまっていました。これがA!Premiumのサービス開始以降、89・8%まで拡大したほか、海外においても、ここ香港や台湾へは翌日中に配送することが可能となりました。これにより、青森県の高品質な食材、特に活ホタテを始めとした新鮮な魚介類を、保冷一貫輸送で高い鮮度を保ったまま、西日本や海外へも配達することが可能となりました。海外への輸出も積極的に推進しており、同サービスの6割は海外、そのほとんどが香港向けです。

——ほとんどが香港とは驚きです。香港の市場の魅力と今後の可能性についてお聞かせください。

 大変魅力的な市場ですね。また、一方でとてもマーケティングにシビアな環境だと感じています。日本食ブームに伴った日本食レストランが多いうえに香港からの訪日客数も年々増えています。こうしたなかで香港市場で挑戦し、認知度を高め輸出量を伸ばしていくことは他国・地域での販路拡大にも大いに弾みがつきます。このため、実際に本県に足を運んでいただき、産地を見て、試食し、納得していただいたものを輸出するようにしています。

 先ほど魚介類の輸出について触れましたが、果物の輸出量も増えています。青森といえば「りんご」のイメージが強い方も多いかと思いますが、県産りんごは、国内生産はおよそ50万トン、そのうちおよそ2万トンが海外へ輸出されています。輸出先は台湾がトップですが、香港への輸出量も増えています。

 さらに今年6月からは八戸港から香港に輸出する試験的な海上輸送を行いました。これはコンテナに入れて内航船に積み込み、現地到着までの輸送時間やりんごの状態・品質などを検証するもので、今後の港湾の利用促進やコンテナ取扱量の拡大につなげようとしているものです。

 こうしたグローバル化戦略により、さらなるアジアへの一層の輸出拡大をはかり、より広範囲にわたった販路を目指していきます。

——7月2021日、香港域内の飲食店や一般社団法人東北観光推進機構主催の「香港・ 日本東北交流懇談会2017」でトップセールスされたと伺いましたが、感想を聞かせてください。

 ABC Cooking Studioでの青森産品を使った料理教室や、香港内の寿司店「千両」や、日本食店「丼丼屋」でトップセールスをさせていただいたところ、多くの関係者や報道陣の皆様にお集まりいただき、A!Premiumで運んだ青森県産の食材を実際に食べていただきましたが、非常に好評だったと感じています。トップセールスに合わせて「千両」では9月3日まで青森フェアを開催させていただいております。

 県内産のホタテ、ヒラメなどといった新鮮な魚介類の刺身や旬の津軽メロン、地酒などを楽しんでいただきながら、青森県の美味しい食材を知っていただこうというもので、なかなか好評のようです。開催中の店内を視察しましたが、皆さん青森の食材がとてもおいしいと喜んでいる様子で安心しました。

「香港・日本東北交流懇談会2017」にて

——毎年8月に開催されるアジア最大級の食品見本市「美食博覧(フードエキスポ)」には青森県からも毎年企業・団体が出展されていますが、このイベントの魅力についてお聞かせください。

 「フードエキスポ」はアジア最大級の食の見本市で、アジアだけでなく世界各地から数多くのバイヤーが集います。昨年度は約50万人が来場し、2万人以上のバイヤーが参加したと伺っており、香港・アジアでの販路拡大を目指す青森県にとっては、またとないPR・商談の機会だと考えています。

 また、A!Premiumを活用して青森県の新鮮な食材を現地に準備することにより、実際に青森県の素晴らしい食材を見てもらい、手に取ってもらい、試食していただける機会でもあるので、1件でも多くの成約につなげたいと考えています。

——今後のインバウンド事業についてお聞かせください。

 香港から東北地方への観光客数は東日本大震災前の2010年は約6万5000人でしたが、震災が発生した11年は約1万5000人と大きく減少し、厳しい状況が続いていました。ですが今は回復の兆しをみせており、昨年には観光客数は約3万人に増加しています。青森県の外国人延べ宿泊者数は今年は前年の135・8%(観光庁「宿泊旅行統計調査」)、ここ5年間は、毎年順調に右肩上がりです。今後は各国・地域の事情等を踏まえ、その国・地域にあったプロモーションを行っていくこととしていますが、香港については、個人旅行やリピーターの割合が高いことから、メディアやSNSによる情報発信を進めるほか、食への関心が高いことを踏まえ、県産食材と関連付けたプロモーションを行って参りたいと思います。

(このシリーズは月1回掲載します)


【楢橋里彩】
フリーアナウンサー。NHK宇都宮放送局キャスター・ディレクターを経てフリーに。ラジオDJとして活動後07年に中国に渡りアナウンサーとして大連電視台に勤務。現在はイベントなどのMC、企業トレーナー、執筆活動と幅広く活躍中。
ブログhttp://nararisa.blog.jp/

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