穏健化する民主派 7.1デモは過去最低

7.1デモは過去最低
穏健化する民主派

習近平・国家主席が6月29日〜7月1日に香港を視察した。香港返還20周年記念大会・香港特区第5期政府就任式典では重要講話を発表し、反体制派であっても基本法と1国2制度を支持する者とは対話する姿勢を示した。林鄭月娥・行政長官の就任とともに主流民主派は態度を軟化させており、新政権は順調な滑り出しを見せた。
(編集部・江藤和輝)

7・1デモの参加者数は警察の統計で過去最低となった

6月29日正午に香港国際空港に到着した習主席は、専用機を降りて簡単なスピーチを行った。習主席は9年ぶりに再び香港を訪れた喜びを示し、今回の訪問の目的として①香港特区成立20周年の成果を祝福②過去20年、中央は香港の強力な後ろ盾となってきたが、今後もこれまで同様に香港の発展と民生改善を支える③中央は香港各界と過去20年を振り返り、経験を総括して未来を展望し、1国2制度の穏健永続を確保する——の3つを挙げた。

同日午後には梁振英・行政長官(当時)と主要高官、行政会議の非官僚メンバー、立法会の梁君彦・議長、終審法院(最高裁判所)の馬道立・首席判事らに接見。習主席は中央が特区政府の仕事を高く評価しているとして「特に一連の重大な政治・法律問題を穏便妥当に処理し、香港独立勢力を有効に封じ込め、社会大局の安定を守った」と称賛し、ねぎらった。

7月1日には香港返還20周年記念大会・香港特区第5期政府就任式典を主宰し、重要講話を発表した。習主席は今後より良く香港で1国2制度を実現するための意見として①「1国」と「2制度」の関係を正確に把握する②憲法と基本法に照らして事を行う③発展への集中を第1の任務とする④調和の取れた安定した社会環境を守る——の4つを提示。特に①では「国家の主権・安全に危害を与え、中央権力と基本法の権威に挑戦し、香港を利用して中国本土での破壊活動を進めるいかなる活動も絶対に容認できない」と述べ、外国勢力への警告や越えてはならない一線を示した。②では公職者と青少年に対する憲法と基本法の宣伝教育の強化を促し、④では、あらゆることを政治化しているため人為的に対立をつくり出して経済・社会の発展を阻んでいると批判し、「愛国愛港で1国2制度の方針と基本法を擁護しさえすれば、どんな政見や主張を持っていようとも中央は喜んで意思疎通を図る」と寛容姿勢を見せた。

習主席の滞在中に行われた晩さん会や特区政府就任式典など4つの行事について少なくとも11人の主流民主派議員が招待され一部は出席するなど、主流民主派には軟化傾向が表れていた。主流民主派と接触した中央官僚は「民主派の態度は理性的で意思疎通を望んでいる」と評価している。一方、宣誓問題で訴訟中の議員や台湾国会関注香港民主連線(台港民主連線)の活動に参加した議員などは招待されていなかった。

1日に行われた民主派団体の民間人権陣線による7・1デモの参加者数は主催者発表で6万人余り、警察の推計ではピーク時で1万4500人、香港大学民意研究計画の推計では2万7000〜3万5000人。主催者発表で昨年の約半分となり、2011年以降では2番目に少ない。警察の推計では03年の開始以来、過去15年で最低となった。先頭で横断幕を持ったのは自決派の劉小麗氏や「セントラル占拠行動」でのリンチ事件の曽健超氏らで、主流民主派はあまり前面に出ていなかった。

ほかに目立った抗議活動としては、社会民主連線(社民連)や香港衆志といった過激な民主派や自決派のメンバー二十数人が湾仔の金紫荊広場を占拠し逮捕されたことや、旺角などで返還20周年を祝う横断幕や道路標識に「香港陥落20年」との文字がスプレーペンキで吹き付けられ、本土民主前線メンバーが逮捕されたことなどがある。

自決派などは強硬姿勢

林鄭月娥・行政長官は7月5日、就任後初めてとなる立法会答弁に出席した。林鄭長官は行政と立法の関係を改善するため、①各党派議員との恒常的な意思疎通システム構築②施政報告(施政方針演説)を立法会年度の初会議である10月に発表③行政長官の質疑応答を増加④問責高官は議員との接触を拡大——の4措置を講じた。

民主党、公民党、専業議政のほとんどの民主派議員は林鄭長官の入退場時に起立し、過去5年の態度から改めた。ただし自決・本土派議員は起立しなかった。答弁中も社民連の梁国雄・議員と人民力量の陳志全・議員、一部の自決派議員らがスローガンを叫び、梁議員が退場を命じられた以外は平穏に進められた。質疑のうち6件が非親政府派議員からだったが、うち羅冠聡氏(香港衆志)、朱凱廸氏(無所属)、鄭松泰氏(熱血公民)からの質疑に対して林鄭長官はわずか30秒で回答を終えたり、舌戦になる場面も見られた。

立法会の梁君彦・議長は10日、林鄭長官と主要高官、行政会議メンバーを招いた昼食会を開催し、民主派議員らも出席した。梁振英・前行政長官と立法会議員との最後の昼食会で出席した議員は36人だけで非親政府派議員はすべてボイコットしたが、今回は議員55人が出席し、うち16人が民主派議員だった。自決・本土派議員は誰も出席しなかった。

だが一方で8月初めに発表される副局長の人事について民主派が批判の声を上げた。民主党の林卓廷・議員は10日に記者会見し、団結香港基金の李浩然・副総幹事が民政事務局副局長に就任することに疑問を呈した。李氏は中国本土で副県長を務めたことがあるため「共産党員ではないかとの疑いを禁じ得ない」と述べている。ただし特区政府によると李氏はそもそも人選に挙がっていないことが分かった。

また香港教育工作者連会(親政府派団体)の蔡若蓮・副主席が教育局副局長に就任するうわさもあり、民主党の“\謹申・議員は「任命すれば民主派との決裂を意味する」と攻撃した。林鄭長官は教育界の勢力図が7対3で民主派に偏っている問題を指摘しており、政官界では蔡氏の経歴が副局長の資格として十分であるため「政治的背景で任命されないとしたら不公平」との声も上がっている。主流民主派と林鄭政権との蜜月ムードにも危機が見え隠れしている。

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