食品見本市「HOFEX2017」

 香港で隔年開催されている国際総合食品見本市「HOFEX (Hotel Food Exhibition)2017」。今年は5月8〜11日も香港コンベンション・アンド・エキシビション・センターで開催された。30回目を迎えた今回は農産物、加工食品、水産物、飲料、ホテルなどで使用される調理器具などを扱う代理店が74カ国・地域から集い、期間中にはホテル・レストランなどの飲食関連企業の関係者、バイヤーらおよそ5万人が来場した。

食品見本市「HOFEX2017」

ジャパンパビリオン開会セレモニーの様子

 ジャパンパビリオンでは日本貿易振興機構(JETRO)が運営し、全国各地から香港およびアジア市場への新規参入・販路拡大を目指しておよそ30の企業・団体が出展した。

 今回は日本産食品や食関連の商品などをストーリ仕立てで表現した「Stories from JAPAN」をテーマに日本食品や食関連サービスの強みや特徴、製造過程などを「ストーリー」として提示し、日本の食の魅力をアピールした。

 すでに多くの日本産品が香港に輸出されており、バイヤーからは詳細な商品特性や背景にあるストーリーの説明が求められる。さらにバイヤーから数多く寄せられるニーズを分析し、重点分野として①スイーツ&スナック②中華食材③健康志向食品④食関連文化——など大きく4つの分野に分けられた。

 日本は「パートナーカントリー」として位置付けられ、ジェトロではジャパンパビリオン出展のほか、日本産食材のPRイベントを多く開催した。初日には香港の著名シェフによる日本産食材を使った中華料理や西洋料理の調理デモンストレーションや日本酒とのペアリングが行われ、会場では多くの関係者らが熱心に耳を傾け、日本酒と料理を堪能した。

 香港は日本産農林水産物・食品の最大の輸出先であり、2016年の輸出額は1853億円、輸出総額の24・7%を占めており、2位の米国(輸出額1045億円、総額の13・9%)を大きく引き離している。また過去5年間で輸出額は188%の伸びをみせており、引き続き重要市場とされている。香港に輸入された食品は現地で消費されるのみならず、中国本土やアジア各国に再輸出され、貿易ハブとしての機能も高まっている。出展した2社の担当者に話を伺った。

インタビュー①
株式会社山脇刃物製作所 営業部部長 二宮豊氏

株式会社山脇刃物製作所の二宮豊氏

 日本の刃物産地のひとつ大阪・堺市から出展したのは、今年創業90年を迎える株式会社山脇刃物製作所。主に調理師向け高級包丁の製造・販売から家庭向け包丁の製造・販売までを行う。世界的な和食ブームによって日本の食文化が注目されているなか、海外にある和食レストランのシェフや和包丁などの取り扱い店だけでなく、最近ではイタリアやタイレストランなどといった多国籍レストランからの問い合わせや購入が増加しているという。「特にここ2、3年で柳刃や出刃などを中心に売り上げが伸びており、ますます海外での需要の高さを感じている」と、同社営業部部長、二宮豊氏。

 堺市の刃物生産の歴史は古く、16世紀後半にさかのぼる。ポルトガルから伝わったタバコが国内で栽培され始め、「タバコ包丁」が作られるようになった。その切れ味の鋭さから、江戸時代には、幕府から「堺極(さかいきわめ)」の印を受け、全国にその名を広げた。

 一本一本丁寧に仕上げられた堺の包丁は、今や日本の食文化の発展に大きく貢献している。その一方で伝統技術を守るため、次世代を担う「後継者問題」も避けられない課題となっている。時代とともに就労意識が変化してきているなか、若手職人を育てるために数年前より、分業が普通の堺の刃物業界において、いち早く刃付部門を自社内に設立し、職人の育成に取り組んでいる。年内にはに刃付工場を拡張していく予定だ。「これまで国内のギフトショーや和食産業展、またシンガポールでの食イベントにも出展したが、HOFEXは特に活気と勢いがあり、驚きと同時に大きな手ごたえを実感した。初日から様々な国のバイヤーと商談ができ有意義なものが多かった」と二宮氏は振り返る。日本の伝統技術をさらに広げるため積極的にアジアでの販路拡大に挑んでいく。

インタビュー②
日本ビール株式会社 営業部本部マーケティング部課長ジャパン・ビアソムリエ協会認定ビアソムリエ 中山理恵氏

日本ビール株式会社の中山理恵氏

 1979年の創業以来、世界各国からプレミアムビールなどの 輸入・販売を行っている日本ビール株式会社は、今回初の出展となる。「日本のマーケットの縮小を感じているなか、海外からの問い合わせが年々増えていることから出展した」と営業部本部マーケティング部課長の中山氏。過去には四川省成都市で開催された「中国西部国際博覧会」や上海市で行われた食品関連の国際展示会にも出展してきたが、「香港は国籍の多様さ、自由度の高さもありアジアのハブ的位置づけということを、改めて感じた」(中山氏)。ブース内で大々的にPRしていたはノンアルコールビール「Ryoma1865/龍馬1865」。ドイツ産麦芽100%にこだわり、香料、保存料、着色梁、酸味料などの添加物は一切不要。通常のビールに比べると72・5%のカロリーカットされているが、しっかりとした苦みと香りを楽しめる。アジア圏のバイヤーは興味深く試飲しながら商談が繰り広げられていた。

 以前に出展した上海でのフード関連の国際展示会では、レモン果汁を加えたフルーティーな味の「レモンビール」が受けた。「ノンアルコールという概念がまだ浸透していない中華圏では、新しい形のアルコールの楽しみかたを提案している。日本食レストランだけでなく、様々な業態で楽しんでもらえる顧客を増やしていきたい」

 国内のアルコール消費量は1970年の167・5万キロリットルをピークに、2014年には55・7万キロリットルと3分の1にまで落ち込んでいる(国税庁統計)。こうした国内アルコール産業の苦戦が強いられる中、日本ビール株式会社は新境地、中近東圏の市場開拓に挑む。同社は日本初、ムスリム教など宗教上飲酒禁止の国に対しての、「ハラル認証」(イスラム教徒向けの商品を供給する、サービスを提供すること)を取得、ノンアルコールビールのイスラム圏輸出を検討している。「アルコールの多様化に伴い、人々の選択の幅も増えている。それぞれの国のマーケットのニーズをしっかり見極めたうえで、消費者が我々の商品に価値を見出してくれたら嬉しい。これまで開拓してこなかった場所でも、提供できる流れをつくっていきたい」と熱く意気込みを語った。

(このシリーズは月1回掲載します)

【楢橋里彩】フリーアナウンサー。NHK宇都宮放送局キャスター・ディレクターを経てフリーに。ラジオDJとして活動後07年に中国に渡りアナウンサーとして大連電視台に勤務。現在はイベントなどのMC、企業トレーナー、執筆活動と幅広く活躍中。
ブログhttp://nararisa.blog.jp/

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