▶115◀ 中国の永久居留許可の緩和動向について

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中国の永久居留許可の緩和動向について

 5月15日に深圳市の人力資源と社会保障局内ビル会議室において、日系企業向けの就労許可と居留許可に関する、政府部門担当者のスピーチによるセミナーが開催された折、公安局のスピーカーより「昨今、永久居留許可の申請条件が緩和の方向にあり、恐らく今年か来年に外国人の永久居留許可の具体規定に関する新政策が発布される」旨の発言がありました。またこの1か月ほど前、国家公安部より近日中に外国人永久居留許可証書をリニューアルする計画が報道されていました。外国人が中国に滞在して就労するためには、外国専家局による就労許可取得のほか、公安部による入国や在留の許可(中国語原文『居留許可』)が必要です。永久居留許可の申請取得は、中国に滞在する外国人にとって申請する条件が厳しく許可のハードルが高いという印象がありましたが、昨今どのような緩和状況があるのかについて紹介します。
(深圳NAC名南コンサルティング 浜田かおり)

⑴外国人永久居留許可制度の経緯

 公安部門の外国人永久居留許可に対する緩和措置は、昨今の中国政府が進めるイノベーション発展に必要な人材の国外からの積極誘致政策の一環であり、大都市および自由貿易試験区内で外国人の出入国と在留に関する各種措置を発布すると同時に、経済のグローバル化と人材の国際化を推進するための重要な措置として位置づけられています。

 中国公安部のホームページによると中国の永久居留許可は、中国版「グリーンカード」制度として2004年から開始されたとあります。2012年12月には人力資源と社会保障部や公安部等25部門が連合で《外国人の中国における永久居留享受に係わる待遇についての弁法》を発布し、永久居留許可を有する外国人は原則的に中国公民と同等の権利と義務を享受すると規定されました。2012年までの時点で永久居留許可証が5千人近くに発行されたことが記載されています。

 公安部による出入国、ビザ、永久居留許可を含む在留許可関連の緩和措置の制定は2015年以降加速しており、上海科創センター、福建自由貿易試験区(「自貿区」)、北京中関村国家自主創新師範区、広東自貿区などで実施した後、2017年3月には、第二期の自由貿易試験区と、全面イノベーション改革モデル地区を適用地域とし、4種類の外国人(ハイレベル外国人材、長期就労人材、外国籍華人、外国籍留学生・学生)を適用対象とした7項目措置を実施しています。措置内容には、外国人員の家族の永久居留許可や複数年数の就労類居留許可、就労類居留許可から永久居留許可への変更申請手続きの導入等が含まれています。

 2015年9月に審議通過した《外国人永久居留サービス管理強化に関する意見》は2016年2月に発布され、永久居留申請条件の具体化や、就労居留許可から永久居留許可への転換制度の制定、申請手続きの規範化等の要求が示されました。これまでの永久居留許可の勤務企業業種制限を緩和、職務レベル制限を取消し、滞在時間要求を緩和した申請要件がこれにより実施されることになったこと、また、永久居留許可取得後、就業、不動産購入、金融業務、運転免許、子女入学、交通機関、宿泊登記、社会保険等の面で国民待遇を享受することが明確化されました。

⑵新『外国人永久居留身分証』の発行

 2017年に入り、公安部により《外国人永久居留証書便利化改革方案》が発布され、元の「外国人永久居留証」が「外国人永久居留身分証」という新名称でリニューアルすることが発表されました。様式は中国の身分証に則った形で、同様にICチップに情報登録され、鉄道、航空、保険、ホテル、銀行等での使用が可能となり、関連政府部門間での情報共有が目指されています。6月より各地で順次旧版の居留証を新版に変更する手続き申請と、新版の発行申請が開始される模様です。新版に交換するまで、旧版の外国人永久居留証はその有効期限内において使用可能とされています。このほか、2012年に発布された《外国人の中国における永久居留享受に係わる待遇についての弁法》に基づく永久居留許可を保有する外国人への待遇を確実に実施していくとされています。

⑶地域動向

 上海地域および広東省における出入国及び在留許可申請に関する緩和状況は以下の通りです。

①上海
2015年《公安部 上海科創センター建設を支持する12項目の出入国政策措置》、2016年《公安部 上海科創センター建設を支持する10項目の出入国新政策措置》に基づき、上海市における就労外国人や修士学歴以上のハイレベル人材、外国籍華人、上海で就学する外国人学生等もしくは上海張江国家自主創新師範区と中国(上海)自由貿易試験区(「双自」区と呼ばれる)内の企業に勤務する外国籍人材を対象に、出入国と在留許可申請手続きの便宜を図っています。

 上海に就労する外国籍人員が連続勤務満4年、毎年の中国国内滞在が6カ月以上で、給与性年収と個人所得税の年間納税額が規定基準に達している場合、勤務先の推薦を経て、永久居留許可を申請できるとされています。

②広東省
《広東自由貿易区建設とイノベーション主導発展を支持する16項目の出入国政策措置》が2016年8月1日より実施されており、現状で以下のような措置が規定されています。

第7項
広東省で連続満4年就業し、中国に毎年6カ月以上滞在し、申請前の連続4年間の給与性年収(税込)が40万元以上、毎年の個人所得税納税額が7万元以上の外国人は、職場の推薦を経て、永久居留許可を申請可能。

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広東省で就労する外国人は、就労許可通知に基づき、到着イミグレーションでZビザの申請が可能。

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連続3回目の就労類居留許可申請時、5年以内の有効期限の申請が可能。

⑷最後に

 就労許可制度、居留許可制度いずれも中国の目下の人材誘致政策を反映した制度変更が実施されており、永久居留許可については要件がより明確で永久居留資格のメリットが感じられるようになることが期待されます。就労許可制度はすでに全面統一施行となっていますが、運用情況には各地に差があるのと同様に、公安局管轄の、永久居留許可を含む居留許可についても、実際には具体的に各地で運用情況を確認する必要があります。

(このシリーズは月1回掲載します)

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