今年No.1ヒット ラブコメの魅力

今年No.1ヒットラブコメの魅力

4月末に公開されロングランヒットとなった『春嬌救志明』(写真提供・寰亜電影)

男女のリアルな会話劇が魅力

 4月末に香港公開されたラブストーリー『春嬌救志明』の興行成績が、5月中旬の時点で3000万ドルを突破。旧正月映画を含む、今年の華語片(中国語映画)公開作のなかではNo.1ヒットを飛ばしている。2010年公開の『志明與春嬌(恋の紫煙)』、12年公開の『春嬌與志明(恋の紫煙2)』に続く、3部作となるシリーズがここまで支持されるよう

になったのは、彭浩翔(パン・ホーチョン)監督の策略によるものが大きいだろう。

 そもそも、1作目のタイトルは、台湾の人気バンド・五月天が1999年に発表した同名の楽曲である。とはいえ、舞台は2007年に禁煙条例が施行された後の香港。092月、街角にある喫煙所で出会った愛煙家である、広告代理店勤務・志明(ジーミン)と化粧品販売員・春嬌(チョンギウ)の恋の行方が描かれる。

 同世代から絶大な支持を得る楊千م‭_‬(ミリアム・ヨン)と、どこか頼りない年下男を演じて新境地を魅せた余文樂(ショーン・ユー)の意外な組み合わせのもと、センスのいい映像や音楽など、「次世代の王家衛(ウォン・カーウァイ)」と呼ばれた彭浩翔の才能も炸裂する。だが、本作がもっとも高く評価されたのは、監督が女性脚本家と共同執筆したリアルで、ウィットに富んだセリフの数々。とはいえ、悪ノリと言えるほど過激な粗口(汚い言葉)を連発させたことで、セクシー描写や暴力描写が一切ないにも関わらず、III級片(成人指定映画)として指定されることに。

 これは当時検閲の厳しい中国本土に対する監督の意思であり、センセーショナルな話題作りともとれるが、それが皮肉な結果をもたらすことになった。香港での興収は630万ドルという大ヒットとは言い難い結果に終わる中、それまで本土でほとんど知られていなかった彭浩翔の名が一気に広まることになった。

理想のカップルがついに結婚?!

 そんなおいしいビジネスチャンスに乗っからないわけにはいかない。監督は北京にオフィスを構え、本土資本で周迅(ジョウ・シュン)と黄暁明(ホアン・シャオミン)ら中国人キャストを迎えた『撒嬌女人最好命(愛のカケヒキ)』を製作。それだけなら、香港の映画ファンから「裏切り者」とたたかれるだけだが、12年には確実に本土公開できないお下劣コメディー『低俗喜劇』と同時に、シリーズ第2作『春嬌與志明』を発表する。

 過去にさんざん「絶対に続編は撮らない」と公言していた監督だけに個人的に考えられないことだったが、前作がDVDなどで再評価され、人気作になったことも考えると、これもおいしいチャンス。しかも、続編の主な舞台は北京であり、別れた志明と春嬌の前に現れるのは本土の男女。つまり、しっかり中国市場も見据えていたのだが、劇中で徹底して描かれるのは本土人との思考や恋愛観のギャップ。つまり、これを笑いに変えることで、日ごろ、本土人とのギャップに頭を悩める香港の観客からの共感を得られるという狙いだった(ちなみに、『撒嬌女人最好命』では本土人と台湾人のギャップを描いている)。もちろんそれは的中し、前作の4倍以上となる2900万ドルの大ヒットを飛ばし、志明と春嬌のキャラは理想のカップルと呼ばれるようになる。

 もはや、同じラブストーリーでも、香港でウケるものと本土でウケるものの温度差をしっかり把握する稀な監督となった彭浩翔だが、5年ぶりのシリーズ第3弾での本土色は、ほぼなし。互いの家族の諸問題を通して、2人が結婚、出産に向けて、どう動いていくかを描いていくが、観光映画かと思うほど、今の香港の情景が切り取られており、ただならぬ香港愛が感じられる。

 さらに、怪獣やUFO、「ヤッターマン」などが登場するほか、ついに五月天の楽曲を使うなど、これぞ最終章と言ってもいい遊び心満載だが、ストーリーの大きな核となるのは、台湾旅行中の2人が遭遇する震災というところに驚かされた。11年の東日本大震災を東京で体験し、当初は日本ロケを予定していた監督が2人の前にたちはだかる最後の壁として、このシーンを入れたことは、やはり策士としか言いようがない。

筆者:くれい響(くれい・ひびき)
映画評論家/ライター。1971年、東京生まれのジャッキー・チェン世代。幼少時代から映画館に通い、大学時代にクイズ番組「カルトQ」(B級映画の回)で優勝。卒業後はテレビバラエティー番組を制作し、映画雑誌『映画秘宝』の編集部員となる。フリーランスとして活動する現在は、各雑誌や劇場パンフレットなどに、映画評やインタビューを寄稿。香港映画好きが高じ、現在も暇さえあれば香港に飛び、取材や情報収集の日々。1年間の来港回数は平均6回ほど。

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