公屋

公屋
住宅難の香港では、「公屋」と呼ばれる公共住宅の入居申請者の平均待ち時間が47カ月と過去最長を更新している。


 不動産価格が高騰を続ける中、特区政府が提供する公共住宅に入居申請が殺到している。しかし、公共住宅も供給不足が深刻化する一方で、入居までの待ち時間は昨年末に過去最高の4年7カ月を記録。比較的入居しやすいはずの事故物件などの倍率も上がっている。

 香港房屋委員会が2月13日に発表した2016年12月末の賃貸型公共住宅の累積入居申請(当選待ち状態)は28万2300件で、2016年9月末から4200件減少した。うち一般(家庭)の申請者は14万8800件で前期から3700件減少したものの、平均待ち時間は4・7年となり、前期の4・5年から悪化。2001/02年以降の過去16年で最長となっ た。

 このような状況を少しでも緩和しようと、政府房屋署は昨年9月に人気のない物件でも構わないという市民に優先的に割りあてる政策「特快公屋編配計画」を行ったところ、募集時にどの団地のどの物件なのか公表していなかったにもかかわらず、公共住宅の入居申請中の20万人に対し入居希望者は当選確率77分の1となる8万4200件の応募となり、予想を大幅に越えた。

 人気のない物件とは低層階やゴミ置き場に近い、エレベーターがない、シロアリ被害があったなどの条件が良くない物件で、うち10%が「凶宅」と呼ばれる事故や自殺、殺人事件などトラブルがあった事故物件だ。募集後、房屋署は649物件について所在地や広さ、賃料などを公表。このうち5つの団地に位置する5つの物件は殺人事件が起きた場所だった。このほか17物件が水道水から鉛が検出された団地内にあった。月額の賃料はフラットによって異なり、644〜3828ドルで、中には市価に比べ安い賃料に加え1年間の半額割引が適用される物件もあるという。

新界にある公共住宅

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 いわくつきの事故物件すら応募者が殺到する状況は、公共住宅の供給不足がいかに深刻なのか如実に表している。問題の解決は特区政府の積年の課題であり、常に施政報告(施政方針演説)に盛り込まれ、選挙時の公約に掲げられるが、状況は改善されるどころか悪化している。香港では、不動産相場の下落を懸念するデベロッパー側からの圧力で実は特区政府が供給量を抑えているのではないかといった企業との癒着疑惑も根強い。

 近年では元朗・横洲の公共住宅の建設戸数が削減されたのは、政府、デベロッパー、新界先住民の癒着ではないかという疑惑が浮上。昨年9月、梁振英・行政長官らが説明会見を行った。梁長官は、2013年6月の会議で横洲は第1期に4300戸、第2、3期に1万2700戸の計1万7000戸を供給すると決 定。会議後、房屋署などの職員が4回にわたり地元関係者に遊説したが、交通問題や現行の経済活動への影響など地域への負担から1万7000戸の建設には強烈な反対の声が上がった。

 14年1月の会議で運輸及房屋局は計画が全体的に遅れるのを避けるため、まず第1期を完成させて第2、3期は先送りすることを提案。ただし1万7000戸の目標は維持することとした。梁長官は、あくまで公共住宅の供給を急ぐ手段であり、決して「官商郷黒(政府・財界・先住民・暴力団)」の癒着はないと強調している。

 また、不動産を所有するなどして、世帯収入の上限をはるかに超えた富裕層が公共住宅に暮らしているケースも多く、中間所得層以下の世帯や若者に住宅がいき渡らない要因の一つとなっている。「長毛」の愛称で知られる梁国雄・立法会議員も、高額な議員報酬を得ながらも長年公共住宅に住んでいて市民の不満を買っている。このような事態を受け、政府は昨年12月に引き締め策を採択。今年10月から施行する。

 新たな規定では以下の3つのうち1つでも当てはまれば特区政府は立ち退きを要請できる。①収入が入居申請条件の5倍を超えた場合②資産が入居申請条件の100倍を超えた場合③家庭のメンバーが香港に民間の不動産物件を所有している場合——。この条件に照らすと、4人世帯の場合、入居申請条件の収入上限は2万6690ドルであるため、13万3000ドルを超えれば立ち退かなくてはならない。ただし梁国雄氏は今年60歳を迎えることから収入上限が免除される。

 だが、引き締めの一方で香港房屋委員会は収入の上限を引き上げるなど入居資格の緩和も提案しており、仮に実現すれば公共住宅の入居の平均待ち時間は5年に延びると予想されている。

 梁振英・行政長官は1月、2017年度施政報告で10年間の住宅供給目標46万戸のうち20万戸は賃貸型公共住宅、8万戸は政府が購入を支援する物件になると発表。林鄭月娥・次期行政長官はも政権公約(マニフェスト)で、賃貸型公共住宅住民だけを対象にした分譲型公共住宅の供給を拡大すると明言しており、ともに実現が期待されている。

(この連載は月1回掲載)

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