「一帯一路」の民心交流 〜梁振英氏に聞く〜

中国経済、4大リスク解消が課題に

 2018年も後半に入り、中国経済が直面する国内外の問題は軽減するどころか、むしろ深刻になっている。国内外の問題とは、貿易戦争、株安・人民元安、信用収縮、不動産バブルである。こうした中、対外的には、貿易戦争の激化を回避すること、対内的には改革を強化し、寡占打破や市場参入規制の緩和といった政策が必須となっている。     (白雪氷)


リスク1…貿易戦争

 米中の貿易戦争は、双方ともに経済、政治において高い代価を支払うことになりかねない。但し、米国と中国では各国の経済における輸出の重要性が異なる。中国側は黒字が大きく、数量型の報復措置を打ち出す余地は相対的に限定的である。このため、貿易戦争は、中国への影響のほうが大きい可能性がある。また、中国にとって、米国からの輸入製品は代替が難しいハイテクの製品が多く、これら製品の中国での川下産業チェーンは長く、中国経済の技術発展において重要な役割を担う。一方、米国にとっては中国からの輸入製品は代替可能なものが多い。

 今回の貿易戦争は、中国にとって外部環境の逆風となりうる。中国の貿易黒字が500憶米ドル、2000億米ドルそれぞれ縮小した場合、中国の名目GDPをそれぞれ0・4%、1・5%押し下げるとの試算が打ち出されている。また、ドイツ銀行は、貿易戦争が激化した場合、中国の年間のGDPを0・2〜0・3%押し下げると予想している。

 今回の貿易戦争は、世界的な景気回復、保護主義の台頭、中国経済の米経済への追い上げという状況の下で発生。貿易構造という問題だけでなく、科学技術や制度、今後の発展方向を含めた、世界第一位と二位の経済大国による争いともいえる。それだけに、貿易戦争を抑えることは極めて重要である。全面的な米中の貿易戦争になれば、金融や経済、資源、地政学リスクなどにも影響が及びかねず、米国は貿易、金融、為替レート、軍事などを総動員して全面的に中国の台頭を抑えるとの見方もある。

 貿易戦争の下、世界経済の回復に対する中国経済の波及効果が減退し、米国以外の海外の主要経済国の景気が減速。新興市場の外需も後退する恐れがある。それだけに、貿易戦争を抑えきれない場合、世界的な貿易縮小、さらには世界経済の回復遅れといったリスクもある。

リスク2…信用収縮

 昨年以降、中国政府は債務圧縮(デレバレッジ)を推進するなか、社会融資総量(金融システムから経済に供給された資金純増額)の減少、デフォルトの増加、民営企業の資金調達難などの問題が出てきた。

 公式統計によると、5月の社会融資総量は7608億元で、前年同期に比べて3023億元減少。オフバランス融資やシャドーバンキングの縮小により、社会融資総量が減少、広義の通貨供給量(M2)の伸び率は過去最低の水準で推移、民営企業の資金調達難は鮮明になっている。また、1〜4月の一定規模以上の工業私営企業の利息支払伸び率は11・4%と、前年同期に比べて9・5ポイント加速した。

 過去のデレバレッジの推進は、デフォルトリスクも増幅させている。WINDによると、今年上半期、300以上の債券発行が取りやめになった、又は遅れたという。また、今年のデフォルト件数は6月18日時点で22件。デフォルトになった債権残高は202憶6000万元で、発行体は15社、うち4社が上場企業だった。

 今年下半期に償還期限を迎える各種債券の元本は合計で約4兆元と、1〜5月の2兆3600億元を大きく上回る水準である。また、償還期限を迎える債券のうち、中・低格付けの債券が占める比率は34・7%に達する。今後、社会融資額の減少が続けば、デフォルトリスクは増幅し、金融システム、さらには経済運営に波及するリスクは看過できないであろう。

リスク3…株安・人民元安

 米中貿易戦争や国内のデレバレッジ推進によるリスクがくすぶる状況下、中国の株式相場、人民元はともに低迷している。

 6月、オフショア人民元レートは連日で下落し、2016年以来の長さを記録した。人民元対米ドルレートの中間値も下落を続け、年初来安値を更新。今後は、1米ドル=7元まで下落するとの予想も出ている。

 株式相場も下落。上海総合指数は3000ポイント、2900ポイントといった節目を相次いで割り込んだ。前回、株安・人民元安となった局面は2015年末だが、現在の上海総合指数のバリュエーションは当時を既に下回っている。

 人民元に関しては、貿易戦争だけでなく、長期的な売り材料として、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」政策がある。「アメリカ・ファースト」政策で海外から米国への生産拠点回帰の動きが広がる可能性があるからである。

 株式相場の懸念材料には工業企業の経営状況悪化がある。今年に入り、一定規模以上の工業企業数は減少しており、4月末時点の一定規模以上の工業企業は前年同期比1・6%減。減少はここ数年で極めて異例なことである。加えて、上場企業のロックアップ解除の増加や大規模なIPO、CDR発行など需給悪化懸念もくすぶっている。

 株安・人民元安のリスクも看過できない。投資家心理が悪化し、リスク回避志向が強まれば、株価、人民元ともに大幅に下落し、企業や銀行、証券会社、個人投資家などに損失が広がりかねないためである。

リスク4…不動産バブル

 中国中原地産研究センターによると、今年5月、中国では40以上の都市が不動産政策を50回以上打ち出した。これは単月の政策数として過去最多だったという。また、1〜5月に打ち出された不動産政策は約160で、前年同期比60%増加した。

 こうした相次ぐ政策の背景には、中国の不動産価格の上昇に歯止めがかからないことがある。中国指数研究院によると、足元の不動産取引は、前月比、前年同月比ともに増加。5月の主要都市の取引面積は前月比で18%増、前年同月比で12%増加した。

 国家統計局発表の5月の分譲住宅販売価格でも、一線都市の新築分譲住宅と中古住宅の販売価格指数は前月比でそれぞれ0・3%、0・2%上昇。二線都市はそれぞれ0・9%、0・8%上昇、三線都市はそれぞれ0・7%、0・6%上昇した。

 地価も値上がりが続いている。中原地産研究センターによると5月の調査対象50都市の土地譲渡額は計3130億元で、前年同期比111・5%増加。中でも金額が多かったのは杭州、重慶、嘉興などだった。

 中国の不動産バブルは既に天井を超えているとみる向きもある。ある学者の試算によると、2017年の不動産市場の時価総額は300兆元。これは、中国のGDPの4倍で、世界平均水準の260%を大幅に上回っている。中国財経委員会弁公室の楊偉民・副主任は、「不動産市場は最も容易にリスクを引き起こす時限爆弾で、目に見える『灰色のサイ』であり、行政措置では根治できなくなっている」との見解を示している。

改革堅持は必須

 今年下半期の中国経済にとって、貿易戦争による外部環境の悪化、信用リスクの露呈、株安・人民元安、不動産バブルは四大試練といえる。国内外で逆風が吹く下、新たな改革開放政策の加速・進化は必須である。例えば、国内の競争メカニズム確立に向けた政策(寡占打破、参入規制の緩和、競争奨励等)、製造業や一部サービス業の関税障壁の低減、企業及び個人の税負担軽減などを通じて、構造的な問題を解決する必要がある。

 今年は中国改革開放40周年の重要な年である。国内外の景気下振れリスクがくすぶる下、構造的な問題を解決し、次の40年の質の高い発展の基礎を築いていくことこそが重要であるといえよう。

(月刊『鏡報』2018年8月号より。このシリーズは2カ月に1回掲載)

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