国産農畜産物の輸出を強化

 経済のグローバル化が進む中、自らの組織のために粉骨砕身するリーダーたち。彼らはどんな思いを抱き何に注目して事業を展開しているのか。さまざまな分野で活躍する企業・機関のトップに登場していただき、お話を伺います。
(インタビュー・楢橋里彩)


国産農畜産物の輸出を強化

全農香港事務所
所長 金築道弘さん
【プロフィール】1974年島根県出雲市生まれ。同志社大学法学部卒業後、全国農業協同組合連合会(JA全農)に入会。肥料農薬部にて国内外の原料および製品購買業務に携わる。主にヨルダンと中国にて燐酸肥料J/V会社の統括等を経験。2015年ミラノ国際博覧会(イタリア)の日本館に儀典官として派遣された後、2年にわたり農林水産省食料産業局へ出向し農山漁村へのインバウンド誘客を担当。2018年4月に全農香港事務所が開設、所長に就任。

——4月に設立されたばかりですが、どのような役割の事務所でしょうか。

 JAグループは国産農畜産物の輸出拡大に取り組んでおり、JA全農では輸出重点国での販売強化に取り組んでいます。これまで米国、英国、シンガポールに輸出拠点を設置し輸出拡大に取り組んできましたが、今回、香港と台湾を同時に設立。今後は東南アジアを中心に拠点設置を検討しています。JA全農の傘下にJA全農インターナショナル株式会社を設立し、香港へのさらなる輸出拡大に向け産地からリテールまで繋がるサプライチェーンを構築するため、香港に子会社を設立しました。この子会社は全農香港事務所を併設し事業を行っていきます。

——香港市場への期待、また香港の位置づけをどのようにみていますか。

 香港では私たち日本人が日本食を食べても何の違和感もないほど、新鮮で大変おいしいです。素材から食べ方まで、あらゆることが提案されており、まさに成熟したマーケットだと実感しています。また消費拡大とともに、香港市場の大きな可能性に期待しています。一方でここまで「正統派な日本食」を食べることができる香港で我々が出来ることは何かというと、その農畜産物の栽培履歴まで遡ることが可能な生産・流通履歴の提供であったり、農畜産物にこめた生産者の思いやストーリーなどを販売とともにトレースできる体制が整っているということだと思います。香港の消費者の皆さんに受け入れられるような説明の仕方、また付加価値を感じていただけるような活動を、さらには香港の方がどう評価しているかを生産農家に返していくということ。消費者の声を届けることで日本の農家のモチベーションを高めていく、消費現場が見えることで農家の皆さんの生産拡大に繋がると思います。

——日本から香港への農産物の輸出量は全体の4分の1ですよね。この量をどう見ていますか。

 香港は日本の農林水産物・食品の最大の輸出先であり、今年で13年連続首位です。2017年には日本からの輸出総額8071億円の約4分の1にあたる1877億円を占めていますが、香港の輸入総額に占める日本産の割合は約2%。意外と知られていないのですが、米、肉類、青果をあわせても100億円ほどなんです。まだまだ輸出拡大の余地は十分あると考えています。

——今後どのように販売をしていくのでしょうか。

 これまでは現地の小売店などに遠隔で依頼してきましたが、これからは香港に事務所を設立したということもあり、香港の流通関係者としっかりとコミュニケーションを取りながら、いつでも手に取っていただけるような販売体制の整備をしていきたいと思っています。また、色々な媒体を通じて、日本の農畜産物がどのように生産されているか、どのような安全管理と輸送体制で香港にお届けしているか等、積極的に配信していき、多くの人に知ってもらうためにも試食や食べ方の提案なども行う予定です。

——生産農家の継承問題が深刻化してますが、どのようにみていますか。

 確かに日本では消費が低迷しているのは深刻です。ですが悲観するのではなく、香港ではこれだけの農畜産物の評価が高いということに対して、どのような取り組みをすべきか、我々は積極的に提案していきたいと思います。例えば香港ではこんなものが売れるので、こういうものを作りませんかなどという生産者への提言です。近年自宅での食事から惣菜などの中食、外食が増えているなか、加工・業務用の野菜の需要が増えています。こうした背景に伴いキューピー株式会社とJA全農は加工・業務野菜の分野において合弁会社を設立しました。加工用の野菜を作る場合は農協や大規模農家などに提案し、全国各地でカット野菜の生産をしています。縦長の日本の気候を利用して「リレー出荷」をすることで、安定した生産を行い、国内生産基盤の強化と安定化を図るとともに、国内外ともに消費量をさらにアップしていけるよう考えています。今後も、さらに全農の経営理念である「生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋」になることをモットーに日々努めていきます。(この連載は月1回掲載します)


【楢橋里彩】
フリーアナウンサー。NHK宇都宮放送局キャスター・ディレクターを経てフリーに。ラジオDJとして活動後07年に中国に渡りアナウンサーとして大連電視台に勤務。現在はイベントなどのMC、企業トレーナー、執筆活動と幅広く活躍中。
ブログ http://nararisa.blog.jp/

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