《113》岐路に立つ広交会

《113》
岐路に立つ広交会

 中国でもっとも歴史を持つ、国内最大規模の見本市、広州交易会(以下、広交会)が曲がり角を迎えている。かつては中国製品の調達を目指す海外企業と海外への輸出を目指す中国企業がこぞって参加し、シーズン中は市内のめぼしいホテルが満室になることも珍しくなかった。しかし全国各地で同様の、あるいは、より専門的な見本市や展示会が開催されるようになるとともに、競争力が低下。さらにインターネットを経由した調達、販売が普及してきたこともあり、集客数や成約額の伸び悩みをはじめ、数々の課題に直面している。時代の流れとともに、そのあり方を進化させることはできるのか。広交会の現状を紹介する。
(みずほ銀行 香港営業第一部中国アセアン・リサーチアドバイザリー課 張心悦)


中国輸出入商品交易会(広交会

中国で最も歴史ある展示・見本市

広交会(正式名称:中国輸出入商品交易会=China Import and Export Fair)は、毎年2回、春と秋に広州市で開催される、貿易商品の展示会である。1957年に対外貿易・商品輸出の窓口として商務部と広東省政府により創設され、以来61年にわたり、一度も中断することなく、中国で最も歴史と規模を有し、かつ世界でも有数の総合的な商品展示会として名を馳せてきた。

また、10年前の08年秋からは会期を3つに分け、出展品目別に展示している。今年春に開催された第123回は、電化製品から日用品、服飾、食品、医療機器まで、幅広い製品が出展された。

広交会の規模は中国の経済成長とともに著しい伸びを見せ、初回の参加者(バイヤー)数1223人、成約額1800万米ドルから、直近の第123回春は参加者が214カ国・地域から20万名超、成約額が約300億米ドルとなっている(図表)。

内訳をみると、参加者数の国・地域別トップ10は香港、インド、米国、韓国、台湾、タイ、ロシア、マレーシア、オーストラリア、日本で、上位10カ国・地域中の7つ、全体の約55%をアジア圏が占めた。輸出成約額の製品別の上位3位は電気・機械類(総額の52・8%)、軽工業製品(26・6%)とアパレル(4・7%)で、これらだけで全体の8割以上を占めた。出展側は、計2・5万社超がブースを構えた。

また、交易会はもともと、中国からの輸出を念頭に置いた展示会だったが、07年春の第101回から輸入展示区も設置され、外国企業が出展して中国への輸入にかかる展示も行われるようになった。第123回は輸入展示区に34カ国・地域の617社が出展し、インドやパキスタン、韓国企業の展示が目立った。このほか、近年は、シルクロード経済圏構想「一帯一路」に関連し、一帯一路沿線諸国の参加者数も増え続けている。第123回の広交会にも沿線各国から9万人が参加し、成約額も過去最高の96・7億米ドルと、成約総額の約三分の一を占めたほか、輸入展示区の出展も21カ国・地域の382社で、全体の6割を占めるなど、「一帯一路」を活用して積極的にビジネスチャンスを模索する姿勢が見られた。

日系企業と広交会

日本からはここ数年、毎回約5000人が来場し、中国調達先の開拓や情報収集の場として活用されているようだが、出展する日系企業は極めて限られている。食品・飲食関連企業の間で近年、中国市場への注目が高まる中、第123回の第三期に出展した日系食品関連企業も一社のみで、中国人の海外営業担当者を通じて広交会を知ったという。ただし、日系企業へのバイヤーの注目度は高く、初出展にもかかわらず、同社のブースにはサンプルを求めたり名刺交換したりするバイヤーが詰め掛け、アジア各国のほか、米国やドバイなど、海外各国のバイヤーとの商談に追われていた。当社スタッフによると、バイヤーには日本製=質が良く信頼性も高いと認識されており、「(広交会に)来て良かった。また次回の出展も検討したいし、他の日本企業にも出展をお勧めしたい」と感想を述べた。

このほか、日本製の美顔器やスキンケア用品、ベビー用品の代理店として出展した上海企業によると、出展の狙いはマーケット調査で、中国国内はもちろん、広交会に参加するバイヤーを通じ、海外マーケットの反応を確認しているとのこと。中でも人気は美顔器やスキンケア商品で、中国企業よりも米州やアフリカなどの参加者からの関心が高いという。

直面する課題

さて、中国を代表する展示会として長年にわたり海外との架け橋となってきた広交会だが、冒頭で述べたとおり、足もとでさまざまな課題に直面している。その一つが、他の展示会との差別化である。対外貿易の窓口として大役を果たしてきたものの、近年は「中国を代表する展示会」として象徴性が高まる半面、自動車や化粧品など、ターゲットとなる商品やバイヤーを絞った展示会と比べると、規模が大きい分、総花的すぎて専門性が不足していたり、分野によって出展者数や充実度にばらつきがあることは否めない。

図表 広交会参加者数(上)と成約額(下)の推移

同様の問題は全国各地でも起きている。中国商務部の統計によると、中国の展示会・見本市業界は世界トップの規模にあり、17年に開催された展示会は5604回、展示総面積は1億642万平方メートル、利益率は21・6%と、いずれも上昇基調にあるという。しかし、専門人材の不足、成果・効果を無視し資源を浪費した展示会の存在、展示スペースの供給過剰などの問題も顕在化している。中国会展経済研究会が公表した同年の全国の展示会の展示面積ランキングでは、春・秋広交会の118・5万平方メートルが1、2位となり、3位(45万平方メートル)の約2・6倍に達している。実際に会場を訪れた際も、会場が広すぎて目的のブースになかなかたどり着けなかったり、インフォメーションセンターの情報が不完全であったりと、多くの課題を感じさせた。

こうした問題は、海外から参加、あるいは出展する企業にとって、大きなハードルになると考えられる。特に出展企業としてブースを設置するには相応のコストや労力を要するほか、中国国内企業をターゲットとする輸入展示区の出展数が全体の数%にすぎないなど、費用対効果に懸念が残るという意見も聞かれる。来場者が効率よく視察・商談できるような設営上の工夫や、カスタマーサービスの質の向上策を講じ、参加者・出展者双方が新たなビジネスチャンスをつかむことができるよう後押しすることが、今後の広交会にとっては重要な課題となるだろう。

今後の展望

文化大革命、SARS、アジア金融危機など多くの困難を乗り越えながら、一度も休会することなく、中国の対外貿易の発展を支えてきた広交会は、その役割を大きく変える時期にさしかかっているのかもしれない。なかでも、インターネットを介した電子商取引(EC)の発展により、規模の大小にかかわらず、より多くの情報を速やかに把握したり、調達・販売にかかる時間とコストを大幅に節約することができるようになり、展示・商談会そのものの必要性を問い直す声も聞かれる。

こうした動きを受け、現在の広交会は、ECプラットフォームの導入などを通じ、展示や商談の手段を進化させているほか、商品輸出入における商談や情報収集の場でありながら、中国企業と海外企業のクロスボーダーM&Aも含めた投資関連の商談も行われるなど、ますますその内容を多様化させつつある。新市場の開拓や既存商品のマーケットテスト、新商品企画のきっかけといった、中国貿易入門としての従前の役割とともに、他の展示・商談会と比べ競争力を有する、来場体験の質向上や展示商品の分類の最適化、輸入展示区への誘致など管理面でのさらなる工夫を通し、時代に沿った転換を進めていくことが求められよう。(このシリーズは月1回掲載します)

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