中間持株会社を巡る組織再編と中国での課税について

中間持株会社を巡る組織再編と
中国での課税について

 グループ内での管理体制や統制範囲の明確化、日本でのタックスヘイブン税制の改正を受け、グループ会社内での合併や、増資減資、持分変動等グループ再編を検討する会社が増加しています。一見すると、税務上の影響を及ぼさないような組織再編であっても、中国税務の観点からみると潜在的に課税される可能性のある再編もあり、特に、中国会社株式の間接持分譲渡の論点ついては注意が必要です。そこで、今回は中国税務にかかる間接持分譲渡の論点の中から、合理的な事業目的の判断とその関連規定に焦点を当て、解説します。
(デロイト・トウシュ・トーマツ 福田 素裕)


中国企業持分の間接持分譲渡とは

 中国企業持分の間接持分譲渡については、中国の国家税務総局(以下「国税総局」)が2015年2月6日に公布した「非居住者企業による財産の間接譲渡に係る企業所得税の若干の問題に関する公告」(国家税務総局公告2015年第7号、以下「7号公告」)およびその解釈に規定されています。この7号公告の中で、間接持分譲渡とは、「非居住者企業が直接または間接に中国課税財産を保有する中国国外の中間持株会社(中国国外で登録された中国居住者企業を含まない、以下「中国国外企業」)の持分およびその他の類似の権益(以下「持分」と総称)を譲渡することにより、中国課税財産を直接譲渡したのと同じまたは近い結果が生じる取引をいい、非居住者企業の再編によって中国国外企業の株主が変更される場合を含む」と定義されています。

 また、第1条として、「非居住者企業が合理的な事業目的のない取引スキームの実施を通じ、中国居住者企業の持分等の財産を間接的に譲渡し、企業所得税の納税義務を回避する場合、企業所得税法第47条の規定に従い、当該間接譲渡取引の性質を改めて定め、中国居住者企業の持分等の財産を直接譲渡するものとみなす」と規定されており、直接譲渡とみなされないためには、非居住者企業による合理的な事業目的の有無が重要な要素になることが明確化されています。

 なおここでいう、「中国住居者企業の特分等の財産」とは、非居住者企業が直接保有した場合には、その譲渡によって取得した所得に対し、中国税法の規定に従って中国で企業所得税を納付しなければならないものであり、「中国課税財産」と総称され、以下を含むとされています。

・中国国内の機構、場所の財産
・中国国内の不動産
・中国居住者企業の権益性投資資産

合理的な事業目的の判断

 7号公告の第3条では、合理的な事業目的の有無を判断する際に、中国課税財産の間接譲渡取引と関連する全てのスキームをを考慮したうえで、以下の関連要素を総合的に分析しなければならないとしています。

・中国国外企業の持分の主な価値が直接または間接に中国課税財産から生じたものであるか否か
・中国国外企業の資産が主に直接または間接の中国国内での投資から構成されているか否か、あるいはその取得する収入が主に直接または間接に中国国内を源泉としているか否か
・中国国外企業および直接または間接に中国課税財産を保有する傘下企業が実際に履行する機能および負担するリスクが、企業の組織構成に経済実態のあることを裏付けられるか否か
・中国国外企業の株主、ビジネスモデルおよび関連の組織構成の存続期間
・中国課税財産の間接譲渡取引に係る中国国外での所得税の納付状況
・持分の譲渡者が中国課税財産に間接的に投資し、それを間接的に譲渡する取引と、中国課税財産に直接投資し、それを直接譲渡する取引の代替可能性
・中国課税財産の間接譲渡に係る所得に対して中国で適用される租税条約または協定の状況等
・その他の関連要素

 しかしながら、例えば、具体的な持分価値の算定方法や、「主な」割合の判定基準等は公告の中で明記されておらず、最終的には税務当局(担当官等)の判断によって確定されることとなります。したがって、間接持分譲渡に該当する取引を実施する場合には、他の中国税務における規定や間接譲渡取引に関する判断実績等を踏まえ、万一の場合でも中国税務当局と合理的な協議ができるだけの準備を各社で実施しておくことが求められます。

合理的な事業目的がないと直接認定されるスキーム

 7号公告では合理的な事業目的がないと直接認定されるスキームについても明記されており、間接譲渡取引に関連する全体のスキームが以下の4つの要件を同時に満たす場合には、そのスキームは「合理的な事業目的がない」ものと直接に認定されるとしています(ただし、セーフハーバー等が適用できる場合を除く)。

・中国国外企業の持分の75%以上の価値が直接または間接に中国課税財産から生じたものであること
・中国課税財産の間接譲渡取引が発生する前一年間のいずれの時点においても、中国国外企業の資産総額(現金を含まない)の90%以上が直接または間接に中国国内の投資により構成されているか、あるいは中国課税財産の間接譲渡取引が発生する前1年間において、中国国外企業が取得した収入の90%以上が直接または間接に中国国内を源泉としていること
・中国国外企業および直接または間接に中国課税財産を保有する傘下企業が、所在国家(地域)で登録され、法律の要求する組織形式は満たしているが、実際に履行する機能および負担するリスクが限定的であり、それに経済実態のあることを裏付けるのに十分でないこと
・中国課税財産の間接譲渡取引に係る中国国外での所得税の税負担が、中国課税財産を直接譲渡した場合に中国で課される可能性のある税負担より低いこと

セーフハーバールール

 7号公告にはこれまで記載した合理的な事業目的に関連する規定の他に、グループ内取引や一定の要件を満たす取引に関するセーフハーバールールについても規定されています。

■実質的なセーフハーバールール
 7号公告の第5条では、実質的なセーフハーバールールとして、以下の2つの場合には第1条の規定は適用されない(すなわち、直接譲渡とみなされない)としています。

⑴非居住者企業が公開市場で同一の中国国外の上場企業の持分を売買することにより、中国課税財産の間接譲渡による所得を得る場合
⑵非居住者企業が中国課税財産を直接保有し、かつ譲渡する場合、適用される租税条約または協定の規定に基づき、当該財産の譲渡所得が中国において企業所得税を免除される場合

■グループ内取引にかかるセーフハーバールール
 7号公告の第6条によれば、間接譲渡取引が以下の3つの要件を同時に満たす場合には、合理的な事業目的があるものとみなされ、中国において企業所得税は課されないこととされています。

⑴取引の当事者双方の持分関係が以下のいずれかに該当すること
・持分の譲渡者が直接または間接に持分の譲受者の80%以上の持分を保有すること
・持分の譲受者が直接または間接に持分の譲渡者の80%以上の持分を保有すること
・持分の譲渡者と持分の譲受者が同一の者に直接または間接に80%以上の持分を保有されていること

※ただし、中国国外企業の持分の50%以上の価値が直接または間接に中国国内の不動産から生じたものである場合、上述の持分保有割合の要件は100%となります。

⑵今回の間接譲渡取引の後に再度発生する可能性のある間接譲渡取引に係る中国での所得税負担が、今回の間接譲渡取引が発生しなかった場合の同じまたは類似の間接譲渡取引と比べて減少しないこと

⑶持分の譲受者が持分取引の対価を全て、自社またはこれと支配関係を有する企業の持分(上場企業の持分を含まない)をもって支払うこと

終わりに

 合理的な事業目的という言葉だけを見ると、通常はすべてのグループ再編が合理的な事業目的のもとに実施されるため、中国税務当局から直接譲渡とみなされるリスクは低いようにも考えられますが、「中国税務当局の考える合理的な事業目的」は、あくまでも7号公告の規定に基づいて判断されますので注意が必要です。これまでに記載した通り、7号公告では明確な基準が示されていない箇所も多いため、専門家と相談しながら潜在的なリスクの洗い出しとその低減を図る必要があります。

(このシリーズは月1回掲載します)


筆者紹介

福田 素裕(ふくだ もとひろ)

Deloitte Touche Tohmatsu香港事務所
日系企業サービスグループ シニアマネジャー 日本国公認会計士
政府機関勤務を経て、2008年有限責任監査法人トーマツ入所。トータルサービス部門において国内上場企業の法定監査業務や非上場企業の国内上場支援、日系企業の香港、シンガポール等におけるクロスボーダーでの株式上場支援等に従事。20157月からDeloitte Touche Tohmatsu香港事務所に駐在し、日系企業に対する監査、税務、M&A関連サービス及び香港上場支援業務を手掛けている。
連絡先: mofukuda@deloitte.com.hk
サイト:www.deloitte.com/cn

※本記事には私見が含まれており、筆者が勤務する会計事務所とは無関係です。

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