立法会議員と政府局長、粤港澳大湾区を視察

立法会議員と政府局長
粤港澳大湾区を視察

 立法会議員による訪問団が4月20~22日、粤港澳大湾区を視察した。粤港澳大湾区には特区政府や親政府派政党による視察も行われ、具体的な開発案を提示するなどの動きが見られているが、中央政府は間もなく粤港澳大湾区の開発計画を発表する見通しだ。
(編集部・江藤和輝)

粤港澳大湾区を視察し高速鉄道に乗車した議員ら(写真:政府新聞処)

視察団は立法会の経済発展、財経、工商、IT・放送の4つの事務委員会からなり、議員32人と特区政府の局長4人が参加。民主派議員も9人含まれていた。深圳、東莞、中山、仏山、広州の5都市を訪問し、各地の発展計画や交通インフラ、科学技術研究と文化施設、フィンテックとイノベーション科学技術の企業を視察し、地元政府高官らと交流。帰路は広州南駅から深圳福田駅まで高速鉄道に乗車した。

民主派議員らの反応は前向きで、一部は再び中国本土への視察・交流に参加する意思を表明。民主党の胡志偉・主席は「本土に絶えず追い上げられる中で香港は歩みを止めてはならない。粤港澳大湾区の発展は香港にとって改革開放に続く第2の経済成長の原動力」と総括した。今回初めて高速鉄道に乗車した民主派会議の莫乃光・召集人は「ほかの国が開発した高速鉄道と変わらない」との感想を述べ、自身は高速鉄道に反対するわけではなく「一地両検」が問題であるとして「さもなくば香港が鉄道網から隔絶されるのを望む理由はない」と述べた。

続いて香港経済民生連盟(経民連)の代表団30人余りも粤港澳大湾区を視察。一行は4月28日に広東省党委と政府を訪問し、李希・党委書記や馬興瑞・省長らと会談した。省政府に対して「大湾区の発展を促進し、広東省と香港の協力を深化させる提案書」を提出。内容は科学技術、観光、金融、青年交流など6分野22項目にわたり、①中央の指導によるハイレベルの大湾区建設調整システムの構築②「海のシルクロード港湾連盟」をつくり大湾区の港湾で自由貿易政策を実施③広東省、香港、マカオでの人民元の越境電子決済システム構築——などが含まれている。

民主建港協進連盟(民建連)は3月に開催された全国人民代表大会(全人代、国会に相当)と全国政協で、中国本土で暮らす香港市民の住宅、医療、教育、老後、生活、ビジネスなどの問題について6分野31項目に及ぶ改善策を提出した。粤港澳大湾区の開発政策に合わせて珠海、中山、恵州などに「香港村」を建設することも提唱。住宅のほかショッピングセンターや公園、劇場、図書館、病院、老人ホームなどを擁するコミュニティーとして香港市民の本土移住を促進し、香港の住宅問題の解決につなげることも考えている。

李克強・首相が全人代で発表した政府活動報告では、香港・マカオに関する部分で「香港が国家発展の大局に融合するのを支持する」と述べたほか、地域経済の部分で粤港澳大湾区の開発計画を年内に発表することが盛り込まれた。特区政府は昨年7月、中央政府と広東省、香港、マカオの3地政府による粤港澳大湾区の建設推進に関する枠組み協定に調印した後、開発計画を策定し中央に提出した。承認待ちとなっているそれら計画内容が間もなく発表される開発計画に盛り込まれるもようだ。

林鄭月娥・行政長官は4月9日、海南省で開催された「博鰲(ボアオ)アジアフォーラム」2018年年次総会の粤港澳大湾区分科会でスピーチし「香港はイノベーションとコネクターの面で大湾区に重要な貢献ができる。まず1国2制度という革新的な政策は粤港澳大湾区の独特の優位性で、広東省、香港、マカオの3地はより一層それぞれの優位性を発揮し、相互補完を形成し新たな成長の原動力を生み出せる」と指摘。香港の優位性として、開放的な市場、透明度の高い規制、法治の伝統、国際基準のビジネス環境、重要な国際金融センターであるとともに世界最大の人民元オフショア市場、「一帯一路」の各方面とのつながり、今後1年のうちに粤港澳大湾区の1時間生活圏となることをなどを挙げた。

中央幹部の韓正氏が主管

広東省政協主席の王栄氏は3月8日、全国政協の全体会議で粤港澳大湾区に言及した。王氏は粤港澳大湾区について6つの提案を示し、その1つ目として「国家レベルでの調整機能の確立」を挙げた。粤港澳大湾区は「1国、2制度、3つの関税区」の体制に縛られ統制が取れない面もあると指摘。大湾区の建設計画策定や実施の中で直面する問題の調整を図るため、国家指導者が率いて中央の関連部門と3地政府が参加する調整機関を設置することを提案した。このほか試験措置の先行実施、科学技術イノベーション基地の構築、インフラの相互乗り入れ、公共サービスの接続などを提唱した。

中国共産党中央政治局常務委員の韓正氏(常務副首相)が先ごろ張徳江氏(前全人代常務委員長)に代わって香港マカオ政策を主管する「中央港澳政策協調小組」の組長に就任したことが明らかになった。4月24日には同組長として初めてマカオ特区政府の主要官僚らに接見。官僚らは中間研修訪問団として北京や江蘇省に赴いたもので、高官や検察長が参加した。韓氏はマカオ特区政府の安定した施政を評価したほか、習近平・国家主席が1国2制度、中国本土と香港・マカオの協力、香港・マカオの発展促進について「一連の新しい観念、思想、戦略がある」と述べた。

中央人民政府駐香港特区連絡弁公室(中連弁)の楊建平・副主任は3月26日に行われた「香港台湾同胞戊戌年新春茶話会」で、間もなく発表される粤港澳大湾区の開発計画は政治局常務委員クラスの幹部が推進を担当することを明らかにした。「大湾区の開発はすでに国家戦略となっており、中央が香港・マカオのためにつくったもの」と強調し、住宅、教育、交通などで香港・マカオ市民に国民待遇が与えられると指摘した。この幹部とは韓氏のことを指しており、韓氏は同時に「一帯一路」建設指導小組の組長も務める。

中央は香港・マカオをいかに粤港澳大湾区の発展に融合させるかを今後5年の主要課題とみている。大湾区計画は国務院の多くの部門や広東省、香港、マカオの3地がかかわるため政治局常務委員が統括する必要がある。だが香港マカオ事務を別の常務委員が担当すれば政策に混乱を来すため、韓氏が「中央港澳政策協調小組」組長に就任することになったもようだ。

全国香港マカオ研究会の劉兆佳・副会長は「これによって香港の大湾区発展への融合がより効果的に進み、過去のような各地域がバラバラだった状況が避けられる。今後5年の中央の対香港マカオ政策の重点は経済振興であることを反映している」と指摘。また韓氏は上海市党委書記のときに上海自由貿易区の建設を推進したことから大湾区の統括には適任とみている。林鄭長官の就任以来、政治的対立が下火になっているのを機に中央は香港経済へのてこ入れを図る考えで、支援策が続々と打ち出されるとも期待されている。

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