一帯一路から大湾区へ(後編)

一路一帯沿線国家・経済体
(注)*は2015年のデータ、♯は2007年のデータ(出所)世界銀行、香港貿易発展局、ハンセン銀行


一帯一路からビッグベイエリア

一帯一路は中国経済のニューノーマルに適応するための戦略で、これを通じ、成長モデルの転換や経済構造の調整を促す狙いである。政策背景や政府が演じる役割の角度からみると、「広東・香港・マカオビッグベイエリア」計画は、一帯一路戦略の黒子といえる。

ビッグベイエリアは、国の第13次5カ年(16〜20年)計画であると同時に、一帯一路戦略のエリア的な発展計画である。カバーエリアは、香港、マカオ、広東省9都市。今年3月の李克強・首相による政府活動報告では、「中国本土と香港、マカオとの協力を推進し、ビッグベイエリア計画を制定し、国の経済発展および対外開放を促進する」との方針が示された。

中国経済はここ数年、ニューノーマルの時代に突入し、輸出の伸びは欧米の需要縮小を背景に鈍化している。香港でも、12年から16年の間の年間平均経済成長率は2・4%と、過去20年の平均(3・2%)を下回る。また、世界経済の景気回復ペースが緩慢なことで、香港の輸出の増減率は11年半ば以降、ゼロに近い水準で推移している。規模が小さく、外部依存度が高い香港は、外部環境の影響を受けるのは避けられないが、欧米の経済成長の加速がみられない中、ビッグベイエリア発展計画は、香港経済の成長に向けた新たな方向性を導くもので、景気の新たなけん引役になる潜在性を秘めている。

ビッグベイエリア計画の重点は、エリア内の都市間の相互協力で、連携強化や相互補完を通じ、それぞれの優位性を発揮し、全体の競争力を引き上げる狙いである。香港にとってビッグベイエリア計画における目標は、国際金融都市、海運・貿易センター、オフショア人民元取引ハブとしての地位強化である。香港のGDPの約93%がサービス業であることを考慮すると、香港にとってこれは絶好のビジネスチャンスといえる。

ビッグベイエリアの総人口は6600万人超で、フランスや英国とほぼ同じである。GDPは1兆4000億米ドル近くに達し、韓国やロシアの水準に近い。香港とマカオを除いた広東省9都市の昨年のGDP伸び率は9%と、中国全体の6・7%を上回り、潜在成長性の大きさがうかがえる。都市別では、深圳は近年、科学技術やイノベーションといた分野の成長が目立ち、恵州や東莞などその他の都市は、製造業の基盤がしっかりしている。将来的に企業は、深圳で製品の研究開発を行い、エリア内の他の都市で生産し、香港でマーケティングやファイナンス、リスク管理等を行うといったオペレーションを検討することができよう。

市場経済の下で企業は適切な運営拠点を選択できるが、建設計画やビジネス環境改善など政府の役割もかなり重要である。前述したように、企業はエリア内の各都市の優位性を活用できる(例えば、深圳で研究開発、広州で生産、香港でファイナンスやマーケティング、海外の他市場への再輸出など)。しかしながら、問題は交通輸送等のインフラ施設が完備されているか否かである。政府の役割は、政策やインフラ整備などで各都市と協力し、都市間の連携を強化することで、ビジネス活動を促進することである。

港珠澳大橋、広深港高速鉄道、蓮塘口岸など香港と本土を結ぶインフラが今後数年で相次ぎ完成する。これにより、香港とビッグベイエリアの他都市との実際の距離が縮まるだけでなく、直接的な経済効果がもたらされ、間接的に全体の経済成長を押し上げると想定される。例えば、インフラ施設の完成による周辺エリアの発展である。また、インフラプロジェクトに関連する他の需要(工事設計、プロジェクトファイナンス、法律・コンサルティングサービス、リスク管理等)の喚起も見込める。

一帯一路構想、ビッグベイエリア計画ともに、インフラプロジェクトやそれに関連する需要は少なくない。政府は、誘導者または促進者としての役割を演じることが可能である。香港金融管理局(HKMA)は昨年、インフラ・ファイナンシング・ファシリテーション・オフィス(IFFO)を設立。インフラプロジェクトのファイナンスに向け企業やファンドなどと協力する。

香港政府の誘導者としての役割の別の例としては、昨年、税務条例を改正し、コーポレート・トレジャリー・センター(CTC)に対して優遇税制を導入したことが挙げられる。CTCであれ、インフラファイナンスであれ、ともに法律・コンサルティング、会計、銀行サービスなどの需要を押し上げるものである。

人民元国際化が進展するにつれ、金融取引通貨としての人民元利用の増加が見込まれる。香港は、一帯一路、ビッグベイエリアのインフラファイナンスセンター、アジア域内のCTCになれば、オフショア人民元業務のハブ強化につながるであろう。

結び

近年、世界経済の成長率が鈍化する中、一帯一路戦略、そしてビッグベイエリア計画は、本土および香港の経済成長にチャンスをもたらすものとなろう。異なる国・地域の政府は、相互に協力し、インフラ連結強化を通じ、促進者になることが可能で、企業の参画を誘導。政策や税制優遇などを通じ、より良好なビジネス環境をつくれると考えられる。企業側は、新たなチャンスに伴う新たなリスクが懸念されるだろうが、新たなチャンスを理解、探るのは決して成長の阻害要因にはならないであろう。

(恒生銀行「中国経済月報」8/9月号、「従一帯一路到大湾区」より。このシリーズは2カ月に1回掲載します)

Share