「フード・エキスポ2017」リポート(3)グルメ・ゾーン編

「フード・エキスポ2017」リポート
(3)グルメ・ゾーン編

 今年で28回目となった香港貿易発展局(HKTDC)が主催するアジア最大級の食品展示会「フード・エキスポ」は、8月17~21日の5日間、香港コンベンション・アンド・エキシビション・センターで開催され、世界各国から1542社余り、そのうち日本からは331社が出展し、過去最大規模となった。今回はそのフード・エキスポの中でも、高級食品・食材が集まる「グルメ・ゾーン」(Gourmet Zone)から日本との関係が深い出展者を紹介する。(編集部)

■「グルメ・ゾーン」とは?

「グルメ・ゾーン」の出入り口。パブリック・ホールの一角にあって、入場は別料金が必要となる

フード・エキスポは大きく分けると、「B2Bのトレード・ホール」「B2Cのパブリック・ホール」という分類ができるだろう。

トレード・ホールは商談の場であり(一般来場者への開放は最終日のみ)、パブリック・ホールは一般来場者に対して食品・食材をアピールする場であり、試食や販売も多いため、祭りの屋台のようなにぎわいになっている。その一角に「グルメ・ゾーン」という別区画が設けられており、こちらは高級食品・食材が集められているのだ。

つまり、グルメ・ゾーンを観察すれば、フード・エキスポにやってくる富裕層がどのような商品を求めているのか、富裕層へどのように商品をアピールすれば良いのか、という参考になるだろう。

■すでに香港で3店舗あるラーメン店が
グルメ・ゾーンに出展する理由

海外で食べる日本のラーメンはいわゆる「日式ラーメン」と呼ばれ「?」なものが少なくないが、梅光軒のラーメンは正真正銘の本格派。全ての材料は日本から調達しているため、日本で食べるのと味は同じだそうだ。実際試食してみたが、70ドルでこれが食べられるのは安い。日本でもこれほどおいしいラーメンは珍しいだろう

梅光軒は北海道に本店を持つ旭川ラーメンの有名店である。会場ではラーメンをお客の目の前で作って販売し、普通のラーメンは70ドル、チャーシューめんは90ドル…。フード・エキスポの試食ではかなりの高額になるが、ブースにいた店員さんに聞いてみると、これらのラーメンは「試食」ではなく、実店舗で出しているものと同じで、実店舗よりも少し安価で提供しているそうだ。梅光軒は5年前に香港へ進出し、今では3店舗を展開しているという。

梅光軒のブースは日本のラーメン店を思わせる作りで、障子、のれん、赤ちょうちんなど、一目でそれとわかるデザインになっていた 梅光軒 http://www.baikohken.com

すでに香港進出を成功させているのに、なぜフード・エキスポに出展するのか? その理由を店員さんにたずねてみると、「私たちの香港での店舗は、主に香港島に集中していますが、フード・エキスポには九龍や新界などの香港のさまざまな地域の人が、何十万人と来られるので、店の宣伝をする上で大変効率が良いのです」との回答であった。

ちなみに、フード・エキスポの期間中、毎日夜8時までにはラーメンを全て売り切ったとのことで、70〜90ドルのラーメンが飛ぶように売れるのは、さすがグルメ・ゾーンである。取材中にもブースの周りでは、小さな子供たちが必死になってラーメンをほおばっていたが、このように子供のころから日本の本物の味を知っておけば、一生にわたって日本のラーメンを食べ続けてくれるのであろう。

■ペットボトル入りの日本米

青天の霹靂、魚沼、天使の詩、恋の予感、ゆめぴりか、つや姫、銀河のしずく…。日本でおなじみのブランド米だが、小さなペットボトルにかわいいラベルをつけられていると、ついつい「ジャケ買い」したくなってしまう。小さいもの、かわいいものが好きな香港人にはウケそうだ

香港人は外食を好むといわれてきたが、最近は自炊が流行しており、書店に行けばさまざまな料理本が並んでいるし、それらの中には和食の作り方を解説しているものも少なくない。日本食が好きで、健康志向が高まっている香港なので、自炊するにしても和食は取っ付きやすいのであろう。ところが、香港の住宅事情では、そもそも調理をするスペースがない…ということも珍しくなかったりする。

グルメ・ゾーンの会場で小さなペットボトルに入った日本米を見つけた時、「カワイイ」を売りにした若者向けの商品か…と思ったが、ブースの人に話を伺ってみると、小さなペットボトルにお米を入れることで酸化防止の効果があるそうだ。日本の製品で「ペボラ」というらしい。香港で自炊を始めようとしている人にとって、いきなり5キロ、10キロと大量の米を購入しても、食べきるまでに時間がかかるので、少量ずつでいろんなおいしいお米を試せた方が良さそうである。

こちらが魔法瓶タイプの「炊飯器」。真空で断熱し、圧力がかかるため、電気や熱源がなくても、炊飯が可能となっている

一緒に小さな青い魔法瓶が売られていたが、これは炊飯器で、米とお湯を入れてフタを閉め、1時間ほど待てばご飯が炊けるのだという。確かに一人暮らしの部屋の中で、炊飯器というのは結構邪魔だし、炊飯は面倒なものである。省スペースで酸化も防止できて、おいしい日本米をカンタンに炊くことができる…というのは香港人のニーズにも合っているのだろう。

■なぜ香港で植物工場なのか

ケーキ屋にあるような冷蔵ショーケースに各種の野菜を入れて展示。野菜を海苔で包んで、手巻きずし風にして試食を提供していた 富徹国際有限公司 http://www.scatil.com.hk

香港では食料自給率が低く、多くの食材を香港域外、主に中国本土からの輸入に頼っている。近年、食の安全への意識が高まる中で、厳重な検査が求められるようになった。それでも不安を払拭できないため、香港域内での野菜生産が増え、自家菜園や週末農業が広まりつつあるそうだ。そうした中で、数年前から香港でも植物工場が…といううわさを聞いていた。しかし、続報を得られなかったので、計画は立ち消えになったのか…と思いながら、今回フード・エキスポを取材していたところ、グルメ・ゾーンに植物工場のブースを見つけたのである。

話を伺ってみたところ、日本企業から技術提供を受けて、完全密閉の室内環境で、水耕栽培の野菜を育てており、電力会社の協力を受けて電気代を節減し、太陽光発電パネルも設置して環境にやさしく安全・安心な植物工場を実現したそうだ。

この植物工場の出展以外でも、今回のフード・エキスポでは、「無農薬」「重金属フリー」「非遺伝子組換え」という表示を多く見かけた。環境や食の安全性への警戒心は香港でも年々と高まっている。そのような意識が植物工場のニーズを生んだのであろう

ただ、そうやって工夫しても、本土の野菜よりは高価で、海外からの輸入野菜よりは安いという価格帯になるそうだから、富裕層なら海外からの輸入野菜を選ぶのではありませんか…と率直な質問をぶつけてみたところ、冷蔵ショーケースから工場で育てた野菜を出して、海苔に巻いて試食させてくれた。緑の葉を一口かむと瑞々しい食感、パリッとした歯ごたえ、口内に広がる野菜の香り、しっかりとした豊かな味がある…。「これが水耕栽培の野菜なんですか?!」と思わず声をあげるほどにおいしいのである。

「本土にしろ、海外にしろ、香港に輸入される野菜は収穫されてから日数が経ったものになるのですが、私たちの野菜は香港域内で育てますから、収穫したばかりの新鮮なものが食べられます。私たちの野菜が選ばれるのは価格や安全性よりも、『おいしい』ということにあるのです」とブースのお姉さんは自信を持ってニッコリと笑った。

さすがは美食の街・香港である。安全以上の付加価値として、新鮮さ、おいしさを追求したのである。

■糖尿病が生み出すマーケット

香港では10人に1人、つまり約70万人が糖尿病といわれており、近年は若年層の発症者が増えている。そうした事情を反映しているのか、今回のフード・エキスポでは甘味料や糖尿病対策に関する出展者が多く見られ、グルメ・ゾーンでも2つの出展者がそれに該当する商品を用意していた。

日本でもおなじみの希少糖

1つは日本でもおなじみの希少糖で、写真撮影の合間にも飛ぶように売れていた。特に商品の説明を必要とせず、一度に何本も買っていくので(特に女性客が多かった)、希少糖はすでに香港では広く認知されているようだ。

希少糖のような商品の場合、使用法が簡単だし、保存が難しいものでもなく、いろんなところで使えてしまうので、とりあえず香港に持って来さえすればそれで商売として成立してしまう…というのは1つの発見であった。他にも糖尿病を防止する上で効果のある商品は探せば見つかりそうではないか。

無糖の梅酒「ラカント梅酒」 https://www.facebook.com/WineDiscoveryCom

もう1つは「ラカント梅酒」というもの。こちらも日本の製品だが、「羅漢果(ラカンカ)」というウリ科の植物の実の高純度エキスと、トウモロコシの発酵から得られる天然甘味成分「エリスリトール」を原料に作られた甘味料を砂糖の代わりに使った梅酒だ。高純度のラカンカエキスは砂糖の300倍の甘味で、カロリーはゼロとい言われる(※ただし「ラカント梅酒」としては、砂糖を使用した梅酒に比べて30%のカロリーオフとなる)。

試飲してみたところ、透き通った甘味で、若干の渋味というのか、独特の風味があった。ラカンカを原料とした甘味料はパブリック・ホールのほかのブースでもあったので、そちらでもテースティングしてみたが、同様の渋味があったので、ラカンカの元の味と思われる。ただし、これが梅酒と合わさると、独特の味わいになって気にならない。いや、この独特の風味が梅酒の味と香りを引き立てているような…絶妙な組み合わせとなった。

近年、香港では梅酒が流行しているが、甘くてカロリーが気になるものなので、砂糖の代わりにカロリーゼロのラカンカの甘味料を使用し、その上で味にも個性が出る…というのが大きなセールスポイントなのだろう。

このような糖尿病対策の商品は今後も伸びしろがあるだろうし、糖尿病患者は今後、世界的に拡大すると言われているので、香港でまず商品を広めて、それから世界へ進出するという展開も見込めるだろう。

■最も売れているジャパニーズ・ウイスキーは?

香港でもジャパニーズ・ウイスキーは大人気

グルメ・ゾーンを歩いてみると、ジャパニーズ・ウイスキーを扱う出展者が複数見かけられた。世界的な流行を受けて、香港でも数年前からジャパニーズ・ウイスキーが流行しているそうだ。あるブースで話を伺ってみたところ、1番人気は「響」で、1カ月に50〜80本は売れているとのこと。甘くて飲みやすいのが人気の秘けつらしい。ちなみに2番目に売れているのは「山崎」。最近は中国でもジャパニーズ・ウイスキーは人気で、香港だと本土よりも安く買えるため、香港へ買いに来る本土客も多いそうだ。

転売による投資目的を疑ってみたが、ブースの人に確認してみると、「香港の客も、本土の客も、ほとんどは自分で飲むために購入している」とのこと。そもそも香港人は、強い酒をあまり好まないといわれてきたが、近年は随分と嗜好が変わってきたようだ。

■日本にヒントを得た健康茶ビジネス

「東の茶」という日本名のブランド。パッケージも日本っぽい。杜仲茶、黒烏龍茶、ゴボウ茶、そば茶…、日本でもなじみのある健康茶だ。もしや日本の出展者? と思い、話を聞いてみると、ブースの皆さんは香港人で、香港の会社であった。

東の茶 http://www.tongchicha.com

社長さんに話を伺ってみると、日本の健康茶は香港でも人気が高いものの、日本のものをそのまま持ってきたのでは高価過ぎる。そこで、本土や台湾などから原料を仕入れて販売しているそうだ。生産者の元へ自ら足を運び、自ら原料を確認し、中間に別の業者を挟まずに買い付けているので、安全かつ比較的安価に提供できるのだと言う。

ただ、やはり本土のものを香港で、しかも「高級健康茶」として売るのは難しいのでは…と疑問を呈したところ、これらの製品は香港の検査機関で確認してもらっており、安全性においても保証された製品である…と社長さんは自信ありげに胸を張った。

極品杜仲茶、甘茶蔓茶、蕎麦茶が売れ筋とのこと

パッケージの中を見てみると…なんとティーバッグであった。香港だとフォーマルなスタイルのお茶でなければ受け入れられないのでは…と思っていたので意外であった。

たぶん、高級志向・健康志向で、経済的に余裕があるけど、日々忙しい、あまり手間のかかるものでは困る…という人が対象の商品のように思われる。グルメ・ゾーンはそうした客を「狙い撃ち」にする上で、非常に便利な場所なのであろう。

Share