亀裂修復へ譲歩、立法会補選は分けて実施

政府、不要な争い避ける

選挙管理委員会は9月14日、立法会で空席となっている6議席のうち4議席の補欠選挙を来年3月11日に行うと発表した。非親政府派はかねて6議席の補選を同時に実施することに反対してきたが、社会の亀裂修復を第一の課題に掲げている特区政府が不要な争いを避けるために譲歩したもようだ。(編集部・江藤和輝)

各大学には「民主壁」と称する学生による掲示板が設置されている

7月に高等法院(高等裁判所)から議員資格喪失の判決が下された社会民主連線(社民連)の梁国雄氏と自決派の劉小麗氏は9月11日、上訴を申請した。梁氏は特区政府法律援助署の全額援助を受けて上訴。一方、劉氏は民主派が集めた募金を上訴費用に充てる。2人はともに上訴申請書で全国人民代表大会(国会に相当)常務委員会の基本法解釈に遡及性はないことを根拠に挙げている。2人と同時に議員資格喪失の判決を受けた羅冠聡氏と姚松炎氏は上訴しないと表明した。

林鄭月娥・行政長官は12日、立法会の宣誓問題による議員資格喪失で空席となっている6議席について2回に分けて補欠選挙を実施することを示唆した。青年新政の2人の議員資格をめぐる裁判は先に終審法院(最高裁)に上訴を却下されたことで決着し、羅氏と姚氏が上訴期限の11日までに上訴しなかったことで4議席の司法プロセスが完了したため「できるだけ早く補選を手配すべき」と述べた。ただし補選をいつどのように行うかは選挙管理委員会が決定すると強調。そして選挙管理委員会は14日、6議席のうち4議席の補欠選挙を来年3月11日に行うと発表した。まず補選を行う4議席は直接選挙枠が香港島、九龍西、新界東の各1議席、職能別選挙枠が建築・測量・都市計画・緑地設計業界の1議席となる。

昨年の選挙での親政府派対非親政府派の得票率は、香港島が30・9%対50・7%、九龍西が38・9%対60・5%、新界東が34・6%対59・3%であるため、この3議席は非親政府派が候補者を統一できれば当選する可能性が高い。建築・測量・都市計画・緑地設計業界は姚氏が得票率43%で当選したが、これは親政府派候補が2人だったためである。親政府派が1人の候補に絞れば当選する可能性が高い。

直接選挙枠の新界東と九龍西では2議席ずつ空席となっており、これら選挙区で2議席の補選を同時に実施すれば1議席は親政府派に奪われる。6議席の補選を同時に行えば親政府派が職能別選挙枠を含め3議席を獲得する可能性があるが、2回に分ければ非親政府派が直接選挙枠の5議席を取り戻す可能性が高い。このため非親政府派は4議席の補選を先に実施することを画策。梁氏は新界東、劉氏は九龍西であるため、非親政府派はこの2人が上訴すれば補選を分けて行えるとにらんだわけだ。

民主建港協進連盟(民建連)の周浩鼎・議員は昨年の新界東の補選には7000万ドル余りを要したことを挙げ、労力と公費を節約するため6議席の補選を1回で行うのが合理的と主張。梁氏と劉氏の上訴に時間がかからなければ検討できると指摘しているが、行政会議メンバーを務める香港工会連合会(工連会)の黄国健・議員は「故意に同時に補選を行い親政府派が1~2議席多く獲得しても政治ムードが悪化するため意味がない」と述べている。

社会の亀裂修復に向けた政府や主流親政府派の行動抑制はほかにもみられる。無所属の何君堯・議員は17日、「セントラル占拠行動」発起人である香港大学法律学院の戴耀廷・副教授の免職を大学側に要求する集会を開催した。何氏は各大学で「香港独立」の主張が掲げられ、道徳に反する冷血な言論が現れたのは占拠行動発起人らがいわゆる「違法行為によって正義を達成する」ことを煽動したためと非難。占拠行動から3年が経過したものの戴氏がまだ清算を果たしていないことから香港大に免職を促すという。集会には「珍惜群組」など約13団体が協力したが、主要政党が協力しなかったため参加者は主催者発表で4000人、警察の推計ではピーク時に2100人にとどまった。

大学の問題で介入控える

林鄭長官は9月12日の記者会見で、大学での「香港独立」スローガン掲示の問題について質問を受けた際、「すでに声明を出した。何か言うたびに感情的な反撃がある。今期政府はこうした不要な争いを避けることに非常に努力している」としてコメントしないと述べた。ただし「これは言論の自由の問題ではない。1国2制度を尊重するか、香港が1国2制度の下で引き続き自由や権利、発展を保障することを大切にするかという問題である。学生の言論の自由抑圧とか、学術の自主への干渉とかは関係なく混同すべきではない」と語り、現在の問題は大学の管理部門が処理すべきと説明した。

大学10校の学長は15日、「香港独立」に反対する共同声明を発表した。「昨今の言論の自由を乱用した行為を譴責する。言論の自由は絶対ではなく、自由があれば責任がある」と述べたほか「香港独立は基本法に違反するため支持しない」と表明した。また香港中文大学の沈祖堯・学長は学生会に対し校内に掲げた「香港独立」を鼓吹する宣伝物を速やかに撤去するよう要求。さもなくば大学側が行動を起こすと警告した。

林鄭長官は19日、再びこの問題に触れ、「この状況は言論の自由や学術討論のような簡単な問題ではなく、組織的、体系的に『香港独立』の横断幕が掲げられていることが分かっている」「1国2制度に衝撃を与え、基本法に違反し、中央と香港特区の関係を破壊している。香港の発展に不利となるため、やめるべき」と非難したほか、10大学の学長が発表した共同声明に支持を示し、今のところ政府が学校の管理に介入する必要はないと述べた。

21日には中文大の学生会が「香港独立」と書かれた横断幕を自主的に撤去した。学生会は「横断幕は団体からの申請がなく、正常な手続きを経ておらず、長期的に場所を占拠しているため撤去を決定した」との声明を発表。ただし「大学側に屈したことを意味するものではない」「大学側が言論の自由について具体的な承諾をしなければ、学生会は同様の横断幕を掲げる」と警告。中文大の劉国勲・理事はこれを大学側への圧力と批判し、学生会が政治的に中立ではないとの見方を示した。

全国香港マカオ研究会の劉兆佳・副会長は「大学の自主、学術の自由、言論の自由はいずれも無制限ではない。現在の政治ムードの下で香港独立を討論するのは根本的に不可能」と強調し、違法行為が現れ社会が注視し、大学が自身で処理できなければ社会または政府の介入は避けられなくなると警鐘を鳴らした。

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