IFRS第4号「保険契約」の
修正内容の概要
2018年1月1日より適用されるIFRS第9号「金融商品」に関連して、一部修正されたIFRS第4号「保険契約」について解説します。この修正は、IFRS第9号と新保険契約基準(IFRS第17号「保険契約」 2017年5月18日公表、2021年1月1日発効予定)との発効日が相違するために生じる問題(財務諸表の比較可能性や純損益のボラティリティ等)を軽減するために実施されたものであり、IFRS第4号の範囲に含まれる保険契約を発行している企業に対して、IFRS第9号適用を一時的に免除する(アプローチ1)、または指定された適格金融資産について、公正価値の評価差額を純損益の代わりにその他の包括利益(OCI)に表示するように修正する(アプローチ2)という選択肢を与えるものです。香港における日系保険会社においても、重要な修正であると考えられるため、本稿において、当該IFRS第4号「保険契約」における2つのアプローチについて、解説していきます。
(デロイト・トウシュ・トーマツ香港事務所 小間田 春彦)
⒈アプローチ1
IFRS第9号適用の一時的免除
(The temporary exemption from applying IFRS9)
・アプローチの概要と導入の適格要件
保険契約の発行が支配的な活動である(predominantly)企業は、現行のIFRSの会計処理を継続し、IFRS第17号の適用日か、2021年1月1日以後開始する事業年度までIFRS第9号の適用を延期することができます。ただし、これまでにIFRS第9号のいずれの版も適用したことがある場合は採用できません{純損益を通じて公正価値で測定(FVTPL)するよう指定された負債にかかる信用リスクの変動をOCIに表示する要求事項を適用する場合を除く}。
保険契約の発行が支配的な活動であるとは、企業の特定の負債(分子)と財政状態計算書上の負債総額(分母)の比率(支配比率)に基づき、企業の活動が主として保険に関連しているか否かにより評価します。
特定の負債(分子)には、下記の負債が含まれます。
⑴保険負債とともに、アンバンドルされた組み込みデリバティブおよび預り金要素を含む、IFRS第4号の適用範囲に含まれる契約から生じる負債
⑵FVTPLで測定されるデリバティブ以外の投資契約
⑶上記⑴または⑵から生じる義務を保険者が発行または履行することにより生じる負債
カテゴリー⑶には、保険契約および保険契約を担保する資産より生じるリスクを軽減するデリバティブ負債、保険契約から生じる負債の課税上の一時差異に関する繰延税金負債、規制上の保険資本要件を満たすために発行した債務等が例示されています。
企業は、上述した支配比率が90%超の場合はアプローチ1を採用することができます。ただし、比率が80%超から90%以下の場合には、企業が保険に関連のない重大な活動を有していない場合にのみ、当アプローチを採用することができます。「保険に関連のない重大な活動の有無」の評価にあたっては、企業は、収益および費用を生じさせる活動のみを検討し、その活動の定性的および定量的な要因を考慮することとなります。この定性的・定量的な検討にあたっては、企業の財務諸表利用者が利用する産業分類等の情報といった、一般に利用可能な情報も考慮します。なお、80%以下の場合には、当アプローチは採用できません。
・適格性の判定タイミング
この一時的免除への適格性の判定は、2016年4月1日以前の直近の年次報告日の状況に基づいて行われます。そのため、企業はIFRS第9号の発効日(2018年1月1日)より前に延期の適格性を判定することが可能です。また、この要件は、企業の活動に重要な変更があった場合にのみ再評価することになります。
・導入後の見直しについて
当アプローチを選択した企業は、以後のどの事業年度の期首からもIFRS第9号の適用を任意に開始することができます。ただし、一度IFRS第9号を適用した場合、IAS第39号を適用するように戻ることはできません。また、企業の活動に重大な変化があったために延期要件を満たさなくなった場合は、IFRS第9号の適用を要求されるまでに、1事業年度の準備期間が与えられます。
IFRS第4号に含まれる契約を有していて、IFRS第9号の適用が要求されるすべての企業は、IFRS第17号が発効するまでの間、上書きアプローチ(アプローチ2)を適用することが依然として可能です。
⒉アプローチ2
上書きアプローチ(The over lay approach)
・アプローチの概要と導入の適格要件
上書きアプローチとは、IFRS第4号に含まれる保険契約を発行しているすべての企業が、IFRS第9号を適用する際に利用可能なアプローチです。このアプローチは、指定する適格金融資産について、その公正価値の評価差額を純損益の代わりにOCIに表示するように修正するものです。すなわち、資産にIAS第39号を適用した結果の金額を純損益に表示し、当該金額とIFRS第9号で記録される公正価値の変動額との差額をOCIに認識することになります。ただし、アプローチ1と同様、これまでにIFRS第9号のいずれの版も適用したことがある場合は採用できません(FVTPLで測定するよう指定された負債にかかる信用リスクの変動を、OCIに表示する要求事項を適用する場合は除く)。
・上書きアプローチの対象資産
上書きアプローチの対象として指定できる資産は、IAS第39号においてはFVTPLで測定されるものではなかったが、IFRS第9号においてFVTPLで測定されることとなる金融資産です。
適格金融資産の指定は、このアプローチの対象として明確に指定しなければなりません。この指定は、企業がIFRS第9号を最初に適用するとき(ただし、FVTPLで測定するよう指定された負債にかかる信用リスクの変動をOCIに表示する要求事項を適用する場合を除く)に行わなければならず、その後は金融資産の当初認識時に指定を行わなければなりません。この指定は個別の資産単位で行うことができますが、指定を解除する場合には、次のような要求事項もあります。
・導入後の見直しについて
具体的には、一度指定を行うと、上書きアプローチは、通常、金融資産が認識の中止を行うまで適用されますが、金融資産がIFRS第4号の範囲に含まれる契約に関連する活動としての保有が中止されたため(例えば、これらの金融資産を企業の保有する銀行業務等の他の業務に移管した場合や、保険業務を中止した場合など)、上書きアプローチにおいて適格でなくなった場合には、指定の解除が行われます。指定の解除が行われた場合、OCIに認識されていた残高は純損益に振り替えられます。
また、すべての金融資産に対して上書きアプローチの適用を停止する場合、上書きアプローチの適用の停止を任意に選択することができます。この適用の停止は、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更および誤謬」における会計方針の変更となり、遡及適用の対象となります。
⒊終わりに
いずれのアプローチも、IFRS第17号が発効されるまでの経過的な対応となります。
アプローチ1を採用した場合、一時的免除の要件をどのように充足したかを説明し、IFRS第9号適用企業と非適用企業との比較を可能とするための多くの開示が求められます。また、アプローチ2においても、指定および組換調整を行った理由や、影響を受ける資産のIFRS第9号とIAS第39号での帳簿価額等、多くの開示事項が要求されます。IFRS第9号の適用が近づいてきていることから、IFRS第4号の規定する保険契約を発行する企業は、分析と対応を早期に開始することが望まれます。
(このシリーズは月1回掲載します)
筆者紹介
小間田 春彦(こまだ はるひこ)
Deloitte Touche Tohmatsu香港事務所
金融サービスインダストリー
2012年2月、有限責任監査法人トーマツ東京事務所入所後、主として国内、外資系金融機関の監査業務に従事。2016年9月からデロイト香港事務所に出向し、主に日系金融機関などに対する監査業務などを提供している。
連絡先:hkomada@deloitte.com.hk
サイト:www.deloitte.com/cn
※本記事には私見が含まれており、筆者が勤務する会計事務所とは無関係です。