#102広東省の実体経済における企業コスト削減に関する政策方案


#102
広東省の実体経済における企業 
コスト削減に関する政策方案

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(三菱UFJ銀行 香港支店 業務開発室 アドバイザリーチーム)


今月の質問

 最近、「広東省の実体経済における企業コスト削減に関する政策方案」が発表されたと聞きました。その具体的内容について教えてください。


 2017年3月2日、広東省人民政府は「広東省の実体経済における企業コスト削減に関する政策方案」(粤府[2017]14号)(以下「本方案」)を公布し、広東省内の企業活動にかかるコストを2018年末までに2000億元引き下げる目標を掲げた。これは、一層の負担軽減により企業活動の活発化や流出防止を狙うものである。本稿では、「本方案」の内容について、簡単に紹介したい。

⒈背景

 中国経済の安定成長を持続させる重要な指導策の一つとして、国務院は昨年8月「国務院の実体経済における企業コスト削減に関する政策方案」(国発[2016]48号)を公布し、主に6つの方面から企業の負担軽減に関する施策方針を示した。

①税金・行政手数料の引き下げ:増値税改革の着実な実施や行政手数料の減免範囲拡大等
②資金調達コストの効果的削減:外債調達および人民元決済の拡大による為替リスク削減等
③制度関連コストの引き下げ:手続き緩和、社会信用体制の建設加速、貿易利便化の推進等
④人件費の引き下げ:最低賃金引上げと調整時期の合理化、社会保険料や住宅積立金における企業負担比率の引き下げ等
⑤生産要素関連コストの引き下げ:電気代と土地関連コストの削減、土地供給制度の見直し等
⑥物流コストの引き下げ:物流情報の共有、新業態の発展促進、道路通行料金の引き下げ等

 この施策方針について、広東省はすでに2016年2月「広東省供給側改革構造改革総合方案におけるコスト削減行動計画(2016—2018)」(粤府[2016]15号) (注)で最低賃金を2017年まで現状維持とすることや、2016年10月からは職業疾病鑑定費や特許紛争受付費用を含む11科目の省行政手数料を全額撤廃する等、具体的なコスト削減策を示した。広東省政府の発表によると、昨年末までに、広東省における行政手数料収入は前年比19・4%減少したほか、増値税改革による減税額は673億元に達し、各削減措置による省内企業に対する総合負担軽減額は合計で2000億元を超えたとされる。

⒉方案の概要

「本方案」では、こうした昨年の削減効果を受け、国の施政方針に広東省経済の実情を考慮し、より明確かつ豊富な施策により、引き続き省内企業のコスト削減を支える姿勢を示した。ここでは、外資系企業に関心が高いと思われる内容を抜粋して紹介する。

⑴税金・行政手数料の引き下げ

 広東省は、国の課税軽減策を利用しながら、省の行政手数料「ゼロ化」を推進し、国の一部行政手数料免除を先行先試する。

その具体的方法として、広東省は各政府サービスの電子化を加速し、無料利用を実現することにより、企業コストの削減を目指す。輸出入貿易関連では、今年3月に検疫申告システムを導入し、輸出原産地証書・輸出入検疫証書のオンライン受付と無料発行が可能になった。

また、「本方案」では、政府機関の指名第三者が、政府業務の代行または行政資源を利用して企業から費用を徴収する行為の取り締まりを強調。従来、広東省の一部地域では鎮政府関係者が外資系の加工工場に対し「管理費」名目で不透明な費用を要求し、当該管理費が工場側で費用計上できないことが問題視されてきたが、「本方案」により、こうした負の慣習である「管理費」問題の解決が期待される。

⑵人件費の引き下げ

 製造業が経済の支柱である広東省では、近年の人件費上昇を受け、少しでも安い人件費を求めて内陸部や海外に移転する例が後を絶たない。「本方案」では、主に最低賃金と社会保険の2つの方面から人件費の抑制を試みている。

①最低賃金:広東省の最低賃金は本年度まで2015年水準を維持する方針で、今後は、3年に一度見直す原則を明確化した。広州市の現在の最低賃金は1895元で、2008年から2倍以上に上昇した一方、同期間の広州市の工業生産増加率は55%にとどまる。産業発展を上回るペースでの人件費の上昇は、広東省経済の継続的な発展を阻害している。政府は今回、企業側に歩み寄り、人件費の抑制に乗り出した。
②社会保険:広東省における2016年の総合社会保険負担率は、全国平均の41%を大幅に下回る34%であるが、「本方案」では、さらにその比率を引き下げる方向性を明確化した。たとえば、年金保険の企業負担率は、国基準の20%を下回る14%を適用する。失業保険の負担比率については、すでに昨年、企業拠出率を1・5%から0・8%に、個人拠出率を0・5%から0・2%に引き下げ、その効果企業拠出額53億元、個人拠出額24億元の削減を実現したが、今回のさらなる社会保険料の引き下げにより、省内企業の社会保険負担の大幅な軽減が期待される。

⑶物流コストの引き下げについて

 従来中国の輸出型経済の中心地であった広東省は、近年では消費促進のため、都市間道路を中心とする交通インフラの整備に力を注いできた。「本方案」では、主に省内物流環境の改善による企業コストの削減策を以下の通り掲げ、広東省区域生産総額に占める物流コストを、2015年の15%から2020年までに14・5%に引き下げる目標を定めた。

①広州市、佛山市、東莞市、中山市および肇慶市をパイロット地域として物流標準化作業を導入。パレット(荷台)の共用システムにより、パレットの都市間循環使用を実現。物流の高度化と効率化による物流コスト削減を図る
②広州、東莞でパイロットとして試行されていた共同配送やコールドチェーン物流を促進し、トラックの通行制限緩和を検討
③ノン・ビークル・キャリア(他社フリートを用いるトラック運送請負業)と、ドロップ・アンド・フック(着地で荷下ろしを待たずに新しいトレーラーに付け替えてすぐに出発するトラック運送方式)等、新しい物流方式の利用拡大と共に、企業間での運送能力の共有や車両積載率の引き上げを目指す
④道路通行料金の徴収基準を明確化、制度外の費用徴収や自由裁量による費用徴収等に対する取り締まりを強化

⑷その他

 上記のほか、省内企業のコストダウンにつながる各種施策が盛り込まれた。特に中国では、官庁が企業に対し、随時立入調査を実施する慣行があるが、「本方案」では、政府の企業経営への干渉を最大限減らすため、立入調査に関する年間計画の作成を要請。やむをえず臨時調査が必要となる場合には、法令順守の上で調査を行うことを強調した。

⒊まとめ

 広東省は、中国の改革開放の先導役として、中国製造業の成長発展に大きく貢献してきた。しかし、中国の製造業を取り巻くビジネス環境が厳しさを増すなか、企業にとって、コストの引き下げは最大の経営課題となっている。省政府も、広東省の製造業の優位性を守るため、企業の負担軽減により良質な製造業の省外への移転に歯止めをかけようとしている。

「本方案」の実施細則は、施策に関わるそれぞれの官庁が策定し、遅くとも今年6月末には実施される予定。進捗動向と施策効果に引き続き注目していきたい。

※注…華南ビジネス最前線第90回記事をご参照

(執筆担当:多田 依真)

(このシリーズは月1回掲載します)

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