高速鉄道の「一地両検」、立法会で条例可決

高速鉄道の「一地両検」
立法会で条例可決

高速鉄道の開通に向けた条件も整い建設が進む西九龍駅

最終段階クリアで9月開通へ

広州—香港間高速鉄道香港区間の「一地両検」実施のための「広深港高鉄(一地両検)条例草案」が6月14日、立法会本会議で可決した。難関とみられていた最終段階をクリアし、これで予定している9月の開通が確保されたともいえる。だが非親政府派は草案可決を覆そうとする訴訟を申請するなど依然として開通を阻もうとしている。(編集部・江藤和輝)

特区政府は昨年7月25日、「『一地両検』を3段階で実現する提案」を発表。①中国本土当局との協力措置の交渉②全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会の批准・確認③現地立法作業——という3段階プロセスで「一地両検」を推進するものだ。

11月18日、特区政府が広東省政府と「一地両検」実施に関する協力措置に調印したのが第1段階。全人代常務委がそれを承認するため、12月27日に「広州—香港間高速鉄道の西九龍駅に設置する税関・出入境管理所での『一地両検』実施に関する中国本土と香港特区の協力措置を承認する決定」を可決したのが第2段階。焦点となった全国的法律を香港に適用しないことを定めた基本法18条に違反するかどうかについては「本土の法律は本土側エリアに限定して実施するため、18条の示す全国的法律を香港特区全体で実施する状況とは異なる」として、全人代香港代表選挙の制度と同じと説明された。

そして特区政府運輸及房屋局の陳帆・局長が今年1月31日、立法会に「広深港高鉄(一地両検)条例草案」を提出したのが第3段階の始まりだ。立法会の「広深港高鉄(一地両検)条例草案」委員会は2月12日、第1回会議を開催。陳局長は草案審議の時間と高速鉄道開通への影響について聞かれ、「条例は今立法年度、すなわち7月半ばまでに可決させなければならない。現地立法が完了しなければ開通は無期延期となる」と述べた。民主党の黄碧雲・議員は同措置が法的根拠のない全人代常務委の決定だとして「割譲によって大陸法を施行するのと同じでは」と質問。これに対し鄭若・司法長官は「一地両検は憲法と基本法にかなっている。今回の措置は高速鉄道乗客にだけ実施され、ボーダーに変更はない。税関・出入境管理所の本土側エリアは賃貸協議に基づく措置である。基本法7条に香港の土地は国家の一部と明記されており『割譲』は存在しない」と回答した。

同委員会は17回、計45時間にわたる会議を経てすべての条文の審議を完了し、5月7日に可決。条例草案は6月6日の本会議での審議に回されることとなった。非親政府派は草案に対して40項目余りの修正案を提出したが、すべて否決。審議中に議長に抗議した4人が退席を命じられ、警備員ともみ合いになる場面も見られたほか、採決時には非親政府派議員らが立ち上がり「割譲による一地両検は違憲」とのスローガンを叫ぶなどで抗議した。

本会議での審議に向けて議員修正案の提出が5月28日に締め切られた。修正案を提出したのは公民党の陳淑荘氏、民主党の胡志偉・主席と尹兆堅氏、議会陣線の陳志全氏と范国威氏、工党の張超雄氏ら。修正案の内容は、陳淑荘氏が主に本土側職員の権限を制限するもの、范氏が本土側出入境管理エリアで適用する本土の法律を制限するもの、張氏と陳志全氏が同条例に期限を設けるものなど計75項目に上る。民主派議員らは修正案を条例の落とし穴を塞ぐために過ぎないとして、議事妨害との見方を否定した。新民党の葉劉淑儀・主席は「議事規則」改正によって民主派の議事妨害の余地は縮小しているため、草案は夏の休会前に可決できるとの見通しを示した。

非親政府派が訴訟申請

条例草案は6月14日、本会議で可決した。草案は38時間の審議を経て賛成40票、反対20票、棄権1票で通過。これによって3段階プロセスの最終段階が完了し、条例は22日に官報に掲載された。民主派議員が提出した修正案のうち審議が認められた24項目もすべて否決されたため、民主派は「一地両検」は基本法違反だと批判し、裁判に訴える構えを見せた。修正案には同条例が2047年6月30日で失効することも含まれていたが、運輸及房屋局の陳局長は「政府は高速鉄道が将来、運行を取りやめることは想定していない」と反論した。

立法会議事堂前のデモエリアでは「一地両検」関注組のメンバーや大学学生会の代表など100人余りが可決に反対する抗議活動を行っていたほか、保衛香港運動のメンバー40人余りが可決を支持して銅鑼を鳴らしたり、国歌を流すなどで対抗し、ののしり合いなどが起きていた。

草案可決の翌15日、民主派議員24人と熱血公民の鄭松泰氏、医学界選出の陳沛然氏の26人は立法会内務委員会の李慧瓊・主席に書簡を送り「草案審議のスケジュールで議員の発言時間を制限し、発言機会がないことに抗議した議員5人を退席させるなど梁君彦・議長の手法は議事規則に違反する」として不信任動議を提出した。内務委員会は22日、動議を審議し、反対35票、賛成25票で否決。民主建港協進連盟(民建連)の周浩鼎・議員は「民主派は各種の議事妨害手段で一地両検条例の通過を阻もうとしている」と批判した。公民党の楊岳橋氏、民主派会議の莫乃光・召集人らは本会議で再び不信任動議を提出するとの意向を示した。

一方、草案可決を覆すための訴訟も相次ぎ申請された。議員資格を喪失した青年新政の梁頌恒氏は21日、政府を相手取った訴訟を度々起こして「長洲訴訟王」と呼ばれる郭卓堅氏の付き添いの下、高等法院(高等裁判所)に訴訟申請を提出。「一地両検」条例草案は基本法18条に抵触し、基本法11条によると立法会に違憲な草案を通過させる権限はないため、裁判所に同草案は違憲で採決は無効と宣言することを要求している。さらに同日には議員資格を喪失した社会民主連線の梁国雄氏、22日には郭卓堅氏と新民主同盟の古俊軒氏、ソーシャルワーカーの呂智恒氏がそれぞれ訴訟申請を提出した。呂氏の訴状は民主党の李柱銘・元主席が書いており、同日までに同様の訴訟申請は5件に上った。

北京大学法学院の陳端洪・教授は「香港の裁判所に全人代常務委の決定を審査または取り消す権限はない」と述べ、市民が訴訟を申請しても裁判所は受理できないと指摘。香港大律師公会のフィリップ・ダイクス主席も「一地両検」草案が違憲かどうかの訴訟を起こせば全人代常務委の法解釈を招くとみる。だが梁国雄氏は「この訴訟が法解釈を招くことを心配する必要はない」とコメント。数々の問題を乗り越え、ようやくここまでこぎ着けた高速鉄道プロジェクトだが、まだハードルが残っているようだ。

Share