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最新号の内容 -20140801 No:1412
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GDP予測の下方修正相次ぐ|
経済成長に暗雲

中国本土からの観光客減少で経済成長が押し下げられる可能性も


自由行削減で1・4%成長も 

 香港大学や香港上海銀行(HSBC)は先ごろ、2014年通年の域内総生産(GDP)伸び率予測を相次いで下方修正した。曽俊華(ジョン・ツァン)財政長官も8月に発表する経済報告での通年GDP伸び率予測の下方修正を示唆している。外部環境の不振による貿易の低迷、中国本土からの旅行者の伸び鈍化による内需減退が下半期の経済成長にも影を落とす中、不動産バブル再燃や「セントラル占拠行動」という新たな危機に見舞われる可能性もあり、経済動向は予断を許さない状況だ。(編集部・江藤和輝) 

 曽長官は6月、立法会財経事務委員会で香港の経済状況を報告し、欧米経済の回復が十分でないため外部環境には依然下ぶれリスクが存在することや内需の減退を挙げ、この状況が続けば8月に発表する上半期の経済報告で今年通年のGDP伸び率予測の下方修正を検討すると述べた。政府は2月、通年のGDP伸び率予測を3~4%と発表していた。

 香港大学の香港経済・商業策略研究所が7月3日に発表した経済リポートでは、通年のGDP伸び率予測を4月に発表した3・5%から3・1%に下方修正した。第1四半期の米国の寒波による打撃が予想以上に香港の外需を萎縮させたと説明した。HSBCも7月10日に発表したリポートで、GDP伸び率予測を今年通年については先に発表した3・7%から2・9%に、来年通年については4%から3・7%にそれぞれ引き下げた。第1四半期の小売総額が前年同期比4・2%増で、09年第3四半期以降で最低だったことや、HSBCの香港購買担当者指数(PMI)の低下などが香港経済の下ぶれリスクを表しているという。ほかに恒生銀行、モルガンスタンレーもGDP伸び率予測を下方修正した。

 貿易の先行きはまだ楽観できない。香港貿易発展局(HKTDC)による輸出の景況を表す輸出指数は第2四半期が47・6で、第1四半期から0・5ポイントの下落。景況の分かれ目となる50を下回っている。HKTDCの関家明・研究総監は14月の輸出伸び率がわずか0・1%と予想を下回ったことを挙げ、今年通年の伸び率予測を先に発表した5・5%から4・4%に下方修正すると発表した。 

 内需では高額商品の消費減速が目立つ。宝飾品大手、周大福の今年度第1四半期(4~6月)売り上げは前年同期比32%減。香港・マカオの既存店売り上げは同50%減となり、昨年の金ブームの反動が表れた。同じく宝飾品大手、六福の同期の業績では既存店売り上げは同54%減。うち金製品では同65%減。さらに同期には香港域内の店舗数が1店舗減少。同社の店舗閉鎖は過去3年で初めてとなり、今後も賃貸料の高い店舗を閉鎖するという。

 曽長官は6月8日に公式ブログで「4月の小売総額が大幅に減少したことから失業率が上昇するリスクもある」と述べた。小売総額の減少が自由行(本土からの観光目的による個人旅行)に関係するという分析はないものの、自由行の問題を考える際には市民生活への影響のほか、経済や雇用への影響を考慮すべきと指摘した。

 中央政府は自由行の20%削減を検討しているとみられているが、その場合には香港のGDP伸び率は1・4%にまで低下するとの試算もある。これは著名経済学者が設立した冠域商業及経済研究中心が国連の計量経済モデルに基づいて予測したもの。本土からの旅行者数が20%減ったとすると、最初の年のGDPは約393億ドル減少し、伸び率は今年の基準予測3・3%から1・4%に低下。失業率は3・21%から3・48%に上昇、失業者数は新たに1万385人増えると予測している。


不動産バブルの再燃を懸念

 立法会で7月15日、昨年2月に打ち出された不動産市場の過熱抑制策「2013年印花税(修訂)条例草案」が可決された。民主派議員による議事妨害で多くの議案の採決が滞る中、4日間の審議を経て休会前の最終日午後11時に駆け込みで通過した。可決前には曽長官が5月に住宅価格が顕著な伸びを示したことを指摘し、同草案が通過しなければ「市場環境の変化に迅速に対応することは難しくなる」とバブル再燃を憂慮していた。

 特区政府差餉物業估価署が発表した5月の住宅価格指数は246・8で、4月の244・9から0・78%上昇。ピークに当たる昨年8月の246・3を上回り過去最高となった。5月13日に発表された不動産抑制策の緩和が市場を刺激したとみられる。7月18日に発表された中古住宅価格の指標となる中原城市領先指数(CCL)は123・36となり過去1年余りで最高。過去最高だった昨年3月の123・66に迫っている。

 バンクオブアメリカ・メリルリンチは7月11日、住宅市場の見通しを発表。同社グローバル研究部の魏志鴻・香港・中国不動産研究主管は、米国の利上げが先送りとなっていることや香港の住宅需要が高まっていることなどを挙げ、今年通年の住宅価格の下落幅は5%以下にとどまると予測。年初に発表した10%から修正した。来年についても15%から10%へと修正し、下落幅は当初の予想より小さくなるとみている。だが仮に住宅価格が2カ月連続で5%の伸びを見せた場合、政府が強力な過熱抑制策を実施する可能性があると指摘した。

 セントラル占拠も香港経済にとっての懸念要素だ。香港上海銀行(HSBC)は7月7日、香港株の投資評価をアンダーウエイト(投資配分を縮小)に引き下げた。一時的に発表された理由では「セントラル占拠が香港と中央の関係を悪化させ、香港経済に損失を与える」と指摘されていた。セントラル占拠による経済的な影響としては、UBSがセントラルのオフィス・店舗所有者が400億ドルの経済損失を受けると予測しているほか、他の金融機関からも企業のビジネス環境、投資、旅行者などへの影響が指摘されている。

 香港金融管理局(HKMA)の任志剛(ジョセフ・ヤム)前総裁は7月1日、退官後初の著書として『居安思危』を出版した。任氏は同書の冒頭で「政局の問題は中央指導部の香港に対する信頼を損なっているかもしれない」との懸念をつづっており、同書のプロモーション活動に現れた際も「セントラル占拠で香港の金融システムに依存できないとの印象を与えれば、中央は上海など他の都市を香港に代わる国際金融活動のプラットホームにする」と警鐘を鳴らしている。普通選挙問題で政治的な岐路に立つ香港だが、これは同時に経済的な挫折にもなりかねない問題といえる。