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最新号の内容 -20140718 No:1411
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アジアと少子高齢化
~「格差社会」の山田昌弘さんに聞く


 

【山田昌弘さん】
中央大学文学部教授(香港中文大学客員教授)

1957年東京都生まれ。1981年東京大学文学部卒業。86年、同大学院社会学研究科博士課程修了。東京学芸大学教授を経て、2008年より中央大学文学部教授。内閣府男女共同参画会議民間議員など歴任。専門は家族社会学。「パラサイトシングル」や「婚活」といった言葉を世に送り出すなど愛情やお金を切り口にして家族関係を社会学的に読み解く試みを行っている。主な著書に「パラサイトシングルの時代」「希望格差社会」「婚活時代」(共著)「家族難民」などがある。香港を中心としたアジアの若者や国際結婚などの研究のために今年4月から香港に1年滞在予定。趣味は観劇(宝塚からクラシックまで)、スイーツめぐり 


 

 高齢化によって労働人口が2018年から減少に転じるとも予測されている香港は、高齢化で先を行く日本の動向に注目している。「パラサイトシングル」や「格差社会」といった言葉を世に送し、現在は香港中文大学で客員教授を務める山田昌弘さんに日本とアジアの少子・高齢化問題について伺った。
(インタビュアー・楢橋里彩)

 

お金と愛情を研究

 

——「家族社会学」がご専門ということですが、どのような研究をされてきたのですか。

 家族の過去、今、将来を社会学的立場で研究しています。特に家族と愛情、そしてとお金の関係の問題ですね。これまで家族研究の中で、お金や愛情というのはあまり研究されてきませんでした。今の家族を理解するにはお金と愛情やセクシャリティーの関係を抜きにしては語れません。
 

——昔に比べて「家族」のかかわりに大きな変化がでてきていると思います。何が大きな要因なのでしょうか。

 日本ではバブル経済が終わった1990年代からグローバル化によって経済・社会が大きく変化しました。それまでは結婚して主に夫が働いて、妻が育児と家事をして、豊かな生活を築いていくという家族の形が、ほとんどの人にとって可能だったのですが、90年後半以降それが、かなりの人にとって実現できなくなりました。若年男性の雇用不安定によって結婚が厳しくなっていますし、女性もキャリアを実現させようと思っても結婚後仕事と子育てのシステムが整っていないので結婚をためらいます。経済状況が変わったのに労働慣行が変わらない。これが結婚難による「少子化」「パラサイトシングル(親同居未婚者)の増大」という問題を生み出したのです。
 

——確かに少子化問題は深刻化しています。でもこれは日本だけの問題じゃないのでは。

 日本の深刻度は世界的にみても相当激しいです。欧米のメディアに取材を受ける時に必ず聞かれるのは「なぜ合計出生率(女性1人当たりが生涯産む子供の人数)1.5以下の状態が20年も続いているのに、根本的な対策を日本はしてこなかったのか」ということです。一方で同じく少子化率が低い韓国やアジア諸国の研究者や記者は、日本を完全に「反面教師」としてみています。日本みたいに少子化が続いて人口減少が起きないようにするためにはどうしたらいいのかということを聞かれます。日本は低出生率が20年以上続いているので高齢化率も世界一です。65歳以上の高齢者割合はほぼ25%ですよ。

 

 

アジアにとって日本は反面教師

——つまり4人に1人が高齢者ということですよね。

 そうです。今、台湾や韓国も少子化が進み、中国も一人っ子政策ですが、高齢化率(65歳人口比率)はどの国も10%前後(2010年は韓国11.1%、台湾10.7%、中国本土8.6%)で日本の半分以下なんですよ。香港も2012年で13.7%ですね。ドイツもイタリアも高い方ですが、欧州連合(EU)という新たな枠組みで考えれば問題は緩和されています。東アジアの国々は日本みたいになったら大変だから、今のうちに対策を考えなきゃいけないということで、私のところに話を聞きに来るんです。
 

——何と答えているのですか。

 まず日本の女性の社会進出が進んでいないことを話します。そして高等教育費が高くて親負担であること。これまでの家族の形であった「夫は主に仕事、妻は主に家事」がスタンダードであることが崩れないという状況が今の日本の未婚化社会をつくり出しているということです。つまり若者に収入格差が出てきて、収入が不安定な男性は結婚相手とみなされないということが日本の少子化の最大の理由です。


——90年代から変化してきたと言っていましたが、当時は先生の作られた「パラサイトシングル」や「婚活」という言葉も大流行しました。

 親と同居して結婚しない若者のことですが家族の大きな変化の象徴を表していると思いますね。『パラサイトシングルの時代』は、台湾と香港(李尚霖・訳『単身寄生時代』)、韓国などで、『婚活時代』は中国本土ですでに翻訳されています。
 

——それだけ海外で知りたいこと、注目しているということですよね。

 つまり徐々に日本と同じような現象が東アジア地域でも起き始めているということです。欧米のプロテスタント諸国では子どもが成人すれば独立しますが、日本や東アジアというのは特に女性は結婚するまでは親の家を離れない場合が多いです。中国本土や香港の話を聞くと大学に行くときに寮に入って一人暮らしを始めます。韓国や台湾では徴兵制度があって男性は強制的に家族から引き離されます。日本は、男女とも親と同居し続け、結婚が減っているので、中年になっても独身で親と同居し続ける人が今増えているのです。
 

——こうした環境が日本で今、およそ50万人いるともいわれている「引きこもり」や「ニート」といった人々を生み出しているのでは?

 引きこもりが多いのは日本と韓国だといわれています。親が追い出さない、何だかんだで世話をしてしまうんですね。引きこもりというのはいわゆる部屋にいて親が寝静まっているあいだに冷蔵庫のものを食べたりするのが典型ですから。そこに食事を用意しているということなのですね。ただし今では、パラサイト生活もできる人とそうでない人が出てきています。
 

——どういうことでしょうか。

 親の経済状況にも格差が出てきました。今までの日本の家庭は経済的に安定していたわけですよ。ほとんどの男性が正社員かつ終身雇用だったので。貧困家庭は例外的だったのです。これからはそうじゃなくなってくるかもしれません。そして、年金生活をしている親に頼って生活している非正規や無職の中年独身層(30〜40代)は、親が死亡した時に対処できないわけですよ。確実に格差がでてきます。今までは日本の家族はこうだったと平均的に語れたのですが、今後は以前みたいに「日本家族はこう」というふうに語れないのです。

 

 

流行語となった「格差社会」

 
——「格差社会」という言葉は2006年度流行語大賞トップテンに選ばれました。それだけ注目された、ある意味衝撃的な言葉だったと思います

 一時的かもと思っていたら10年たっても格差社会はいまだ変わっていないのです。かつての90年代のパラサイトシングルの女性たちは30までに結婚しようと思っていたのに、できないまま30、40代に突入している人が増えています。そして今の企業社会に期待できない若年女性は、結婚願望、それも専業主婦願望が強まっています。
 

——そういう意味では香港社会の女性進出は目覚ましいですよね。

 キャリアで働く人はメードがいる家庭が多いですね。そして親や夫が手伝ってくれるので共働きするというのが当たり前の環境なんですね。日本は「家事」「主婦」の社会的な期待水準が高いのです。例えば、子供にお弁当を作らないといけないとか。そうしないと、人から愛情がない母親だと言われる。香港では朝から外食の家族が多いですし、お弁当を作らなきゃいけないという規範はないわけです。そういう意味で女性の家事に対するプレッシャーは少ないですよね。
 

——確かにそうかもしれないです。

 つまり日本では家事≒愛情表現という文化がある国だということです。これを「近代家族」というのですが、どの国も近代化するときに家事は女性の愛情表現ということが広がるんですね。お金を稼ぐのが男性の愛情、だから稼げない男性は選ばれなくて少子化になるわけです。それが香港やシンガポールなどでは近代家族が広がる前に女性の社会進出が起きたのです。専業主婦の時代を経ずにグローバル化して共働き社会に移行したということです。日本でも欧米でも農家や商店でなど自営で男女一緒に働く時代から、男性が外で働いて女性が専業主婦という時代を経て、共働きに移行するといった3段階を踏んでいます。でも香港やシンガポールはその専業主婦時代が抜けているんですね。自営の時代からいきなりグローバルな時代に突入しました。これが逆にグローバル化に適合トしているため女性進出が目覚ましいのでしょう家事をしない女性は愛情がないとは言われませんから。
 

——つまり愛情のかけ方が違うということ?

 特に血縁の結びつきに対する信頼が日本は薄いです。だから兄弟をめぐった遺産争いなど多いですよね。中華圏は親子・兄弟間の信頼関係はすごく強いと思います。よく集まりますし、義務としてすりこまれています。日本はかわいがらなきゃとかお金をあげなきゃ、お弁当を作らないと愛情がないというように感じるわけです。血のつながりに対する信頼がないんですね。だから世話しなきゃ不安なのです。

 

アジアの「家族」の変化に注目

 
——香港やアジア諸国の未来をどうみていますか。

 若い人が外から入ってきて、国際結婚もが多いグローバル都市というのは、少子化をさほど心配することはないんです。経済的に発展して右肩上がりある限り少子化は問題ありません。日本との差はここです。日本では外から入ってきませんからね。文化的に閉鎖的だというのはありますから。ただし、どちらも言えるのが高齢化社会になっていくというのがポイントです。
 

——そういう意味ではアジアのどの点を注目?

 「家族」という枠組みがどのように変化していくかですね。特に香港やシンガポールなどは、専業主婦の時代を経ずに、グローバルな共働きの時代が来てしまいました。今まで結婚しなくても離婚しても、兄弟や甥姪を頼ることができました。しかし、このまま未婚化、離婚の増大が続き、親族組織が弱体化していくと、今の若いシングルの人たちは将来、誰に頼るのか、誰にも看取られず亡くなる「孤立死」が増えている日本と同じようになるのか、などを注目しています。この点でも、日本は課題先進国なのですね。
 

——今後、高齢化社会が長引くことをどのように懸念していますか。

 一刻も早く子供をもっている女性が無理せずに働ける社会をつくるべきです。経済界における日本女性の活躍度は世界最低レベルです。女性活躍の環境が整っていない日本にとどまっていたら、自分の能力を発揮できない、という女性も多く、海外にでていく人も実際には多いですよね。そこで私たち中央大学の研究者達が集まって「グローバル若者研究」をしており、香港などアジアに出て行った日本の若者の調査を行いたいと思っています。日本の若者、男性は特にグローバル化率が低いんです。今年の生産性本部の新入社員の調査でも海外に赴任したくないという人が過半数で、過去最高です。ますます内向きにもなっているのですね。
 

——今後の日本とアジアを、先生はどうみていますか。

 ここ10年アジア諸国の発展が目覚ましいですよね。今では1人当たりのGDPもシンガポール、香港、台湾に抜かれています。日本と対照的に、若者や女性が元気なのです。この1年、香港に住みながらアジアの家族や女性、若者などを調べながら、今後の研究に生かしていきたいと思います。