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最新号の内容 -20140606 No:1408
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政治環境に懸念も
競争力ランク後退

中国本土からの観光客が減少すれば小売業界に大きな打撃が…

GDP伸び率は2.5%に減速


 スイスのビジネススクール、IMD(国際経営開発研究所)が5月22日に発表した「2014年世界競争力年次報告書」で、香港は昨年の3位から4位に後退。過去10年で初めてトップ3から脱落し、香港社会に衝撃が走った。貿易が低迷したほかに個人消費も落ち込んだことで香港の第1四半期の実質域内総生産(GDP)伸び率は前年同期比で2・5%に減速し、経済成長は楽観できない。普通選挙をめぐる「セントラル占拠行動」、中国本土からの観光客による消費の陰り、労働力不足などで今後さらなる競争力低下も懸念されている。 
(編集部・江藤和輝)

 

 IMDの競争力ランキングは世界60カ国・地域の経済実績、政府の効率、ビジネス効率、インフラを評価したもの。上位3位は米国、スイス、シンガポールで、シンガポールは昨年の5位から躍進した。香港は政治環境の安定などが競争力に影響したと指摘されており、セントラル占拠などの動きが懸念要素になったとみられる。香港は11、12年に連続1位だったが、13年は3位に後退していた。

 だが国際通貨基金(IMF)が5月23日に発表した香港の金融システムの安定評価リポートでは「香港は依然、世界で最も競争力の高い地域の1つ」と評価されており、健全な金融監督管理、慎重な財政、機敏な市場などの政策のメリットを挙げたほか、本土との経済関係が緊密になるほど恩恵を受けると擁護。ただし米国の金融緩和縮小と中国経済の影響、それに不動産相場の調整を香港の金融システムが直面する潜在的な3大リスクに挙げた。

 中国社会科学院が5月9日に発表した「都市競争力青書」では香港の総合経済競争力は12年連続のトップとなった。青書は全国約300都市を経済、住みやすさ、ビジネスなど9指標で競争力を比較。香港は6指標で1位となったが、経済競争力では税収、人材、ソフトとハードを含む施設の面での優位性が弱まっていることや、ひとたびセントラル占拠が発生すればさらに競争力に影響すると警告した。長江実業の李嘉誠・会長による資本撤退のうわさもビジネスがしやすい都市としての競争力に影響すると述べている。

 特区政府が発表した第1四半期の経済統計によると、GDP伸び率は前年同期比で2・5%。昨年第4四半期の2・9%からやや縮小し、過去1年半で最低。シンガポールの4・9%にも大きく水をあけられた。前期比では0・2%となり、昨年第4四半期の0・9%から同じく縮小した。第1四半期は輸出伸び率が前年同期比でわずか0・5%にとどまったほか、個人消費伸び率が2%で、09年第3四半期以降の過去5年で最低となった。

 消費の悪化は3月の小売り統計でも示された。小売業総売上高は前年同月比1・3%減の396億ドル、価格変動要因を考慮した小売業総販売量は同2・3%減とマイナス成長になった。売上高が減少したのは耐久消費財の同23・0%減、電器・撮影器材の同15・3%減、宝飾品・時計・高級贈答品の同8・9%減などの高額商品に集中しており、本土観光客による消費と関連がありそうだ。

 本土のメーデー連休に当たる5月1〜3日、本土からの旅行者は38万8100人で、昨年の同連休の39万4400人に比べ1・6%減。03年に自由行(本土からの観光目的による個人旅行)が解禁されて以降の連休としては初のマイナス。本土観光客の消費を当て込んだ化粧品店や貴金属店などは打撃を受けた。メーデー前後、化粧品の莎莎の香港マカオでの既存店売上高は前年同期比5%減で、本土の連休期間としては過去4年で最悪となった。旅行者減少の背景には本土の経済減速や腐敗取り締まりのほか、昨今の本土観光客に対する排斥デモの影響も挙げられている。

 

本土観光客の抑制も検討

 本土観光客に対する香港市民の反感の高まりから自由行の見直しも取りざたされ、経済への影響が注視される。梁振英・行政長官は5月26日、策略発展委員会の会議で自由行による旅行者が20%減少した場合について意見を求めた。中央政府と香港特区政府は自由行問題について香港側の受け入れ能力などの調査研究を行っており、20%削減は1つの検討課題になっているもようだ。13年の自由行による旅行者は2700万人だったため、20%減少すれば約550万人少ない2196万人となり、12年の2314万人を下回る。

 だが委員を務める九龍倉集団の呉光正・会長や卸・小売業界選出の立法会議員である方剛氏は、自由行旅行者が20%減少すれば観光・小売業界に大きな打撃を与えるとして削減に反対を表明。小売総額は4%減少し約2万人の雇用に影響するとの指摘もある。

 立法会が5月7日に発表した自由行による香港への影響に関する研究報告によると、03年7月に自由行が始まって以来、本土からの旅行者のうち自由行が占める割合は7・9%から13年には67・4%に拡大。04年には約270億ドルだった本土観光客による消費額は13年に6・3倍の約1700億ドルに達し、13年の小売総額4944億ドルの約3分の1を占めるまでになった。特に自由行の観光客による消費は04年の86億2000万ドルから13年には12・7倍の1097億6000万ドルに激増した。

 だが社会には代償として日用品の供給、公共交通機関と地元施設の使用量への影響、そして繁華街の店舗の画一化などがもたらされた。04〜13年の店舗統計では、化粧品・スキンケア用品店が1500%増、宝飾品・時計店が30・5%増であるのに対し、食品・家庭用品の雑貨店は29・5%減、新聞・書籍・文具店は25・4%減となった。感染症の影響などでひとたび自由行が停止されれば小売業界は一夜にして3分の1の収入源を失うというリスクも抱えている。

 一方、競争力にかかわる長期的な問題としては労働力不足がある。特区政府労工及福利局は5月19日、労働力不足に関する報告書を立法会に提出し、高齢化で8年後には約12万人の労働力不足となることが分かった。香港の労働人口は12年の351万人から22年には367万6300人に増える。しかしGDP伸び率を4%として労働需要を試算すると22年には379万4200人に達するため、11万7900人の不足となる。特に金融サービス業や専門・商業サービス業で労働需要の伸びが高い。学歴別では高卒が9万4100人と最も不足し、中卒以下は5万5800人不足、大卒は5万800人不足、逆に修士・博士号の取得者は5万3400人の過剰となる。だが高学歴人材の受け皿が少ないことは人材流出を招き、将来的な競争力低下につながるといえる。