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最新号の内容 -20140523 No:1407
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開通は2017年にずれ込み
高速鉄道の工事遅延

 

広州—香港間高速鉄道の駅が設置される西九龍の建設工事現場

 広深港高速鉄路(広州—深圳—香港間高速鉄道)香港区間は建設工事の遅れのため予定されていた2015年の開通には間に合わず、1年以上先送りとなることが分かった。香港鉄路公司(MTRC)が4月15日に記者会見を行い、3月の暴雨でトンネルが浸水したことなどを理由に挙げた。高速鉄道の香港区間は計画策定に手間取った上、立ち退き問題や大規模な建設反対運動などに遭い、紆余曲折を経て着工にこぎ着けた。香港と中国本土の一体化の鍵を握るプロジェクトであるが、まだ見通しは楽観できない。(編集部・江藤和輝)

 

 同高速鉄道は広州市番禺区から深圳市を経由して香港の西九龍までを結ぶ142キロメートルで、うち26キロメートルが香港区間となる。総延長は既存の広九鉄路(広州—香港間)より短く、直通列車でも一時間半かかる同区間の所要時間が48分に短縮できる。香港区間は07年に10大インフラプロジェクトに盛り込まれ、10年4月に着工、15年の完成を予定していた。広州、深圳以外にも本土16都市を香港から乗り換えなしで結び、上海市まで8時間、北京市まで10時間。中国全土の高速鉄道網の一部となり、香港はその南の玄関として存在感を示すことができる。

 プロジェクトの予算審議では立法会がデモ隊に包囲されたことも記憶に新しい。高速鉄道の車両基地を建設する新界・菜園村の住民らによる抗議は09年から活発化。住民と支持者らが政府本庁舎前に座り込み、警官隊との衝突も発生した。政府は最高ランクの補償を行い土地収用コストに約20億ドルを費やし、10年1月には立法会議事堂前で反対派がなおも抗議を続ける中、669億ドルの予算が承認された。

 工事の遅れが初めて指摘されたのは昨年5月。西九龍に建設している駅の完成が少なくとも1年遅れることが『りんご日報』で報じられた。トンネル掘削工事にも遅れが見られ、MTRCの見積もりでは12%の予算超過とされた。報道を受け特区政府運輸及房屋局の張炳良・局長はMTRCと連絡を取り、現在の見通しでは開通は予定通り、予算超過もないと発表した。運輸及房屋局が立法会鉄路事宜小組委員会に提出した資料では、西九龍駅は予期しなかった地質状況に遭遇しMTRCと請負会社が対策を検討しているが、完成時期への影響はないとなっていた。

 だが今年4月15日、MTRCは記者会見を行い、工事完了は少なくとも9カ月遅れて16年となり、開通は早くとも17年にずれ込むと発表。主な遅延理由として①3月30日の暴雨で元朗のトンネルが浸水し大型掘削機が故障②西九龍駅地下の地質と大量の公共パイプライン③深圳 河周辺の地質——の問題を挙げた。予算超過の可能性には触れていない。昨年末に15年に工事完了と報告されていたため、張局長は今回の件を「非常な驚き」と形容した。

 立法会鉄路事宜小組委は4月28日、西九龍駅工事現場を視察し、進ちょく状況が報告と異なることを確認。MTRCが昨年11月に同委に提出した報告では、掘削工程は73%まで完了し最下層の地下4階に達したとなっていた。だが視察では地下4階はまだ大量の花崗岩で埋まっており、掘削工程は全く終わっていない。同委の田北辰・主席は「昨年の報告は虚偽または隠ぺい」と指摘した。

 MTRCは4月29日、独立委員会を設置し、高速鉄道プロジェクトの管理方式を全面的に再検討すると発表。独立委員会のメンバー6人はすべてMTRCの非常勤取締役。工事遅延の原因、開通予定日、予算超過の問題などを詳細に検討し、7月に取締役会に報告書を提出する。

 MTRC取締役会は5月1日に会議を行い、プロジェクト責任者の周大滄・工程総監が早くから問題に気付いていたことを明らかにした。3月の暴雨による浸水がなくとも工事の遅れは確定しており、もともと工事遅延の事実を公表する予定だったが、たまたま発表が暴雨の後になったという。周総監は遅れ取り戻しの可能性を見誤ってCEOや取締役会に報告していなかったと説明した。

 

本土側開通から6年遅れる

  立法会で5月5日、鉄路事宜小組委の会議が行われた。政府側は張局長、MTRC側は銭果豊・会長とジェイ・ウォルダー最高経営責任者(CEO)、周総監らが出席した。張局長は昨年11月の立法会への報告でMTRCとの見解の相違を公表しなかった判断に問題があったと認め立法会と市民に謝罪。当初、政府は立法会で開通が遅れる可能性を示唆するつもりだったが、ウォルダーCEOが張局長に電話で「15年末の開通は可能」と強調したため、MTRCを信用したという。

 責任の所在が注目される中、MTRCは4月28日、周総監が10月末に早期退職すると発表。ただし個人的理由と説明した。30日には駅の建設責任者であるアラン・メイヤーズ西九龍総站工程項目総経理が5月16日に契約満了で退職すると発表。こちらは家庭の事情によると説明。5月8日の株主総会ではウォルダーCEOが来年8月で退任すると発表。ただし契約満了に伴うもので、すでに昨年8月の再任時に合意しており、今回の問題とは関係ないと強調した。

 ウォルダーCEOは5日の立法会で「今回の問題はコミュニケーション不足であり管理の問題ではない」などと述べたことから批判の矛先が向けられた。昨年11月の張局長への電話が政府による立法会への報告内容を左右したとみられるため、鉄路事宜小組委の田主席は「ウォルダーCEOは深刻な職責失当」と非難している。

 一方、張局長も世論調査で支持率が急落した。香港大学民意研究計画の調査(5月5〜8日)によると、張局長の支持率は前月の43%から26%へと大幅に低下。不支持率は16%から31%に上昇した。張局長は5月初めに梁振英・行政長官に引責辞任を申し出たが、慰留されたことを明らかにしている。行政会議メンバーの多くも問題があったのは張局長ではなくウォルダーCEOとみなしているようだ。張局長は梁政権の柱である不動産政策を担っているため、その去就は大きな影響を及ぼす。

 MTRCと合併した九広鉄路公司(KCRC)が香港区間の計画案を特区政府に提出したのは広州—深圳間の着工とほぼ同じ05年だった。ルート確定や立ち退き問題など数年間にわたり物議を醸し、着工までの道のりは険しかった。その間、本土側の工事は進み、11年の高速鉄道事故を受けて遅れは出たものの、深圳—広州間は同年12月に開通した。09年の香港区間計画案によると、1日当たりの利用者数は開通当初が9万9000人、31年には16万人と予測。開通後50年の経済効果は780億〜1060億ドルと見積もられるため、開通が1日遅れるごとに約500万ドルの損失となる。本土側の開通からは6年も後れを取ることになり、多くの機会を逃したといえる。