香港ポスト ロゴ
  バックナンバー
   
最新号の内容 -20140425 No:1405
バックナンバー

立法会議員が上海訪問
民主派と中央が対話

 

 立法会議員50人余りが4月12~13日、上海市を訪れ、2017年の行政長官選挙について中央官僚と意見交換を行った。こう着状態の政治体制改革の議論を前進させるため、民主派と中央高官による単独会談も実現した。これと同じころ民主派の中核的人物でもある陳方安生(アンソン・チャン)元政務長官と李柱銘(マーチン・リー)元民主党主席が米国とカナダを訪問。米国のバイデン副大統領と会談したことなどで物議を醸している。(編集部・江藤和輝)
 

上海で会談した立法会議員と中央官僚ら(写真:政府新聞処)


 梁振英・行政長官が立法会議員全員(70人)で上海を訪問すると発表したのは3月12日。主に民主派と中央の意思疎通を図るのが狙いだが、民主派議員27人のうち民主党の劉慧卿・主席ら9人が即座に不参加を表明するなど一筋縄では行かなかった。立法会全体による中国本土訪問は過去に2回行われ、05年9月の広東省訪問では議員60人のうち59人が参加、うち民主派は25人、10年5月の上海訪問では議員55人(直接選挙枠の民主派議員5人が辞職したため)のうち42人が参加、うち民主派は8人だった。

 今回の上海訪問では国務院香港マカオ弁公室の王光亜・主任、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会の李飛・副秘書長(基本法委員会主任)らとの会談が設定された。香港マカオ弁公室主任が立法会議員全員と会談するのは初めてであり、梁長官は好機をむだにしないよう呼びかけた。民主派議員9人は3月18日、上海訪問について曽ـ١成・議長と会談し、参加の前提条件を提示した。要求は①行程は政治体制改革を主な話題とする②単独で中央官僚と会談する③改革案に中央官僚が直接回答する——の3つ。曽議長は中央人民政府駐香港特区連絡弁公室(中連弁)に伝えることを承諾し、単独会見は難しくないとの見方を示した。

 立法会が決めた参加届け締め切りである3月31日までに届け出たのは44人。親政府派全員のほか、民主派から届け出たのは社会民主連線(社民連)の梁国雄氏だけだった。民主派は単独会談が確約できていないことを理由に参加を渋ったが、中央は民主派がさらに高い要求を出してくるのを恐れて公に承諾しなかったとみられる。

 その後、民主派議員11人が参加を決定。主要政党である民主党は4月3日、中央委員会会議で2人を派遣することを決め、民主派からの参加は14人、全体で57人となった。

 だが梁国雄氏が上海空港で天安門事件関連の贈り物持ち込みを拒否されて引き返し、工党の議員2人もそれに抗議し初日で取りやめた。残った民主派議員は11人だが、上海市幹部との会談や視察活動には多くの民主派議員が参加しなかった。13日の会談では3時間半のうち2時間は中央官僚と民主派だけが会談した。出席した民主派議員からは溝は埋まらなかったとの声が出ているが、梁長官は重要な一歩だと評した。

 全体会談で基本法委員会の李主任は、民主派の提唱する行政長官候補の住民指名と政党指名は基本法に反すると明言し、指名委員会が行政長官候補を指名するのは①政治対立②立憲政治③大衆主義——の3方面のリスクを低減するためと説明。立憲政治では当選者が中央に任命されないリスク、大衆主義では大衆迎合の候補者が当選して経済界の利益が軽視されるリスクである。また中連弁の張暁明・主任は愛国愛港の基準について基本法順守や外国勢力との結託などから客観的に判断できると指摘したほか、「民主派すべてが愛国愛港でないと言ったことはない」と述べた。

 

米国への「告げ口」に批判

  今回、民主党から参加したのが政治体制改革に通じている何俊仁・前主席らでなかったことに疑問が持たれている。香港中文大学の蔡子強・高級講師は「民主党幹部が参加しないのは2010年の政治体制改革を教訓にして先駆的役割を担うのを避けるため」と分析。10年の政治体制改革では民主党が中連弁と会談して妥協案を提示し、政府支持に回って改革を推進した。だがその後は裏切り者として人民力量など急進民主派から攻撃され続けている。

 3月23日に行われた香港島の南区区議会海怡西区の補欠選挙では民主党候補が敗北し、穏健民主派の危機が叫ばれた。同選挙では親政府派である新民党の陳家珮氏が当選、人民力量の袁弥明・主席と民主党の単仲偕・副主席が落選した。特に人民力量が前回比で5倍の得票だったのに対し民主党は50%余り減少。社会の両極化が進み中間路線の民主党から支持者が急進派に流れていると考えられる。

 立法会議員の上海訪問に先駆けた4月4日、米ホワイトハウスはバイデン副大統領が陳方安生氏と李柱銘氏と会談したと発表。副大統領が「米国は一貫して香港の民主と1国2制度の枠組みの下での高度な自治を支持している」と話したことを紹介したほか、会談は予定されたものではないと述べた。同日には『ニューヨークタイムズ』が「香港の自治を保障する」と題する社説を掲載。普通選挙と報道の自由の問題に触れたほか、中英共同声明に調印した英国は声を上げる責任があるなどと論じた。

 これらに対し特区政府スポークスマンは「基本法に基づいて政治体制改革を推進するのは特区の内部事務であり、外国政府はこの原則を尊重すべき」と内政干渉を批判。外交部駐港特派員公署も「香港は微妙な時期に当たるため、米国は香港事務への言行を慎み、香港問題が中米関係を損ねないことを望む」との声明を出した。

 『人民日報』傘下の『環球時報』は8日付の社説で「香港民主派のホワイトハウスへの告げ口はヘボ碁だ」と題し、民主派は香港の内部事務を彼らと国家全体との対立にしていると非難、「このままでは彼らの負けは決まりだ」と述べた。香港に対する米国の影響力は198090年代の英国とは比べものにならないと指摘し、「民主派は西側を救世主とするのではなく、建設的な態度で香港での役割を築くべき」と促した。

 陳方氏と李氏は13日に帰港し、香港国際空港で記者会見を行った。空港では約30人の市民が2人を「売国奴」と非難。外国勢力と結託して中国の内政に干渉させようとしていると抗議した。今回の訪問が「外国政府への告げ口」と批判されていることに対し陳方氏は「政務長官のころも定期的に外訪していたが、あの時はなぜ外国勢力との結託といわれなかったのか」と反問。香港の民主について外国の支持を取り付けることは正常なことと指摘した。また李氏は「香港の実情を伝えるだけで、中央に圧力をかけるためではない」と強調。米政府は近年、香港に関する年次報告を議会に提出するのを取りやめていたが、李氏が会談でこれを再開するよう要求し、米政府が同意したことを明らかにした。両氏の米国訪問は当初昨年末に予定されていたようだが、くしくも立法会の上海訪問と重なり微妙な影響を及ぼした。